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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞]小林 大貴/コロンビア大学

Hiroki Kobayashi, M.D., Ph.D.
[分野:がん分野]
(大腸癌細胞の周りで増える線維芽細胞の起源を解明)
Gastroenterology, 22-March-2023

概要
癌の組織中には、癌細胞のほかに、間質細胞と呼ばれる多くの細胞が存在する。間質細胞のうち線維芽細胞は、癌の進展に重要な役割を果たすことが知られている。癌組織中に見られる線維芽細胞は「癌関連線維芽細胞 (Cancer-associated fibroblast; CAF)」と呼ばれ、機能的な多様性があることが明らかになっている (Kobayashi et al., Nat Rev Gastroenterol Hepatol, 2019)。しかしながら、本研究分野においては「CAFはどこから来るのか?」という重要な問題が長年の間未解決であった。当研究では、大腸癌におけるCAFの細胞起源を検証し、それに由来するCAFの機能を解析した。
まず、我々は「CAFは癌組織その場において本当に増えている細胞なのか?あるいは他の組織で生まれた後に癌に移動してくる細胞なのか?」という根源的な問題を調べた。細胞周期が進行中の細胞をラベルする方法を用いた検証により、ヒト大腸癌およびマウスモデルで、CAFの大部分が発癌過程で増殖していることが明らかになった。
次に、増えるCAFの細胞起源を明らかにするために、大腸癌のマウスモデルにおいて、細胞系譜追跡実験を行った。増殖するCAFの大部分は、Leptin受容体(Lepr)陽性の間質細胞に由来することを発見した。また、骨髄移植実験においては、過去の報告とは異なり、骨髄由来のCAFは認めなかった。これらの結果は、もともと正常大腸の間質に存在するLepr陽性細胞が増殖して、CAFへと変化することを示唆している。
次に、Lepr陽性細胞に由来するCAFの機能を検証した。Lepr陽性細胞に由来するCAFが発現する分子として、メラノーマ細胞接着因子(MCAM)を同定した。機能的な解析により、MCAM陽性CAFは、マクロファージ走化性因子であるIL-34やCCL8を分泌することで、マクロファージの動員を誘導し、大腸癌の進行を促進することを見出した。
本研究は、長年論争のあったCAFの起源に明確な答えを与えた最初の論文であり、腫瘍の微小環境の理解に大きく貢献するものと期待される。Lepr陽性細胞がMCAM陽性CAFへと分化する過程を抑制、あるいはMCAM陽性の癌促進性CAFの機能を抑えることが、大腸癌における新たな治療法となる可能性が示唆された。

受賞者のコメント
 このような名誉ある賞をいただき、大変嬉しく思います。研究の御指導をしていただいた先生方やUJA論文賞の企画・運営・審査をしていただいた先生方に厚く御礼申し上げます。

審査員のコメント
片野田 耕太 先生:
基礎研究として背景と仮説がクリアで、これまで意義が乏しいとされてきたサイレント変異が発がん過程の一部に関わることを発見し、創薬機序の可能性を提示したことは評価に値する。

山田 かおり 先生:
lineage-tracing miceを用いてCRCのCAFの起源が間質細胞であると突き止め、RNAseqを用いてCAFにMCAMの発現が亢進していることを示し、人でのMCAMの高発現が予後不良につながることを示し、またMCAMのKOマウスでもそれを確かめ、マクロファージのrecruitmentとの関連を示した素晴らしい論文。とにかくデータが多く、動物実験でこれらのことを確かめ、人の患者でのサンプルでも確かめる、その仕事量の多さに感服した。堅実に進めた仕事が素晴らしい。

園下 将大 先生:
本研究で小林氏は、これまで由来や本態の詳細が不明であった大腸がんのCAFの解析に取り組みました。小林氏が得た、大腸がんでCAFが活発に増殖しているとの知見、そして骨髄ではなく元から大腸にいる細胞がCAFへと変化するとの知見は、大腸がん発生素過程の理解を大きく促進すると同時に、この細胞を標的とする新規治療戦略の策定にも貢献すると期待されます。CAFへの分化の機序をより詳細に解明することができればよりこの論文の価値が上がると思われます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
  もともと生命現象や生物学に興味があり、社会に対する貢献度の高い研究をしたいと考え、医学研究者を目指しました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
  医学部の授業や実習で組織学や癌の生物学に興味を持ち、専門として病理学を選びました。現在は癌の基礎研究を行っています。

3)この研究の将来性
 癌の進行を促進させる間質細胞の機能を抑制することが、大腸癌の新たな治療法になる可能性があると考えています。

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