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[特別賞]小林 美和子/米国疾病予防管理センター

更新日:2022年4月25日

Miwako Kobayashi, M.D., Ph.D.

[分野6-1:ジョージア]
(ベータラクタム系抗菌薬低感受性のB群溶連菌の20年の調査)
Open Forum Infectious Diseases, December 2020

概要
B群溶連菌(group B Streptococcus, GBS)は、新生児敗血症の主な原因であり、アメリカでの致死率は7%近くにも登るとされている。また、高齢者や基礎疾患のある成人の侵襲性感染症の原因にもなっている。ペニシリンなどのベータラクタム系抗菌薬が新生児GBS感染症の予防抗菌薬投与や感染症治療に用いられてきたが、近年ベータラクタム系抗菌薬への薬剤感受性が低いGBSの報告がされてきた。これらのGBSにはペニシリン結合タンパク2Xの遺伝子であるpbp2xに変異があることが報告されているが、このベータラクタム系抗菌薬の感受性を低下させるpbp2xの変異が起こっていても、従来臨床の検査室でルーチンで行われる薬剤感受性試験の基準(Clinical and Laboratory Standards Institute, CLSI)だけを用いると、これらベータラクタムへの感受性が低下したGBS株は検知されない可能性があることがわかっている。米国疾病予防管理センターではGBSをはじめとする侵襲性細菌性感染症のサーベイランスを1990年代から行っており、2015年からはサーベイランスの一環としてルーチンに分離されたGBS株へのpbp2xの遺伝子変異も調べている。そこで過去のGBS株のpbp2x遺伝子変異を調べ、その結果をベータラクタム系抗菌薬への薬剤感受性試験の結果を比較することで、アメリカにおける過去20年のGBS株のベータラクタム感受性とpbp2x遺伝子異変の関係を調べることができると考えた。
1998年から2018年までの間に侵襲性GBS感染症のサーベイランスの一環としてCDCに集められた28,269のGBS株を分析した結果、CLSIの薬剤感受性検査の基準においてベータラクタムへの感受性が低下しているとみなされているのは全体の0.1%であったが、pbp2x遺伝子変異に基づく独自の基準を当てはめるとその約5倍である0.5%がベータラクタム系感受性低下株であることがわかった。また、2013年以降その割合が増えていることもわかったが、増加の傾向は、CLSIの基準だけを用いると見られなかった。ベータラクタム系抗菌薬がGBS感染症治療や予防に重要な役割を果たすことから、pbp2x遺伝子に変異を起こしたGBS株の傾向と実際の治療への影響などをモニターする必要があることをこの研究を通じて報告している。

受賞者のコメント
この度は特別賞に選んでいただき、誠にありがとうございました。このような機会を与えてくださったUJAの皆様、このプロジェクトに取り組む機会を与えてくださった職場、そしてプロジェクトを支えてくださった共著者の方々に感謝いたします。

審査員のコメント
斧正一郎 先生:
アメリカ国内での溶連菌の抗生物質感受性について、20年間に及ぶ約3万件のケースを薬剤感受性について詳細に調べ、薬剤の効きにくい株が増加傾向であることを明らかにした。さらに一部はゲノム解析によってペニシリン結合タンパク質の変異と関連のあることも明らかにし、今後の溶連菌感染症の治療に対する傾向と対策を考えるうえで、非常に有用な情報を提示した重要な論文である。応募者の小林氏は、Corresponding author も務め、スケールの大きい研究を主導した素晴らしい成果である。

中村能久 先生:
近年、臨床で広く使用されている抗菌薬に対して耐性を持つ菌が報告され問題になっている。β-ラクタム系薬に対する感受性の低下したB群溶連菌では、ペニシリン結合タンパク2Xの遺伝子に変異が見つかっているが、従来の薬剤感受性試験の基準では、これらの変異体が検出できない可能性がある。この研究では、過去20年の間にCDCに集められたB群溶連菌を解析し、従来の方法では、変異体を検出できていないことを示し、また、変異株が2013年以降増えていることを見出している。臨床現場におけるB群溶連菌の検出に一石を投じる研究内容である。

荒木幸一 先生:
新生児、高齢者、また基礎疾患を持った成人で重要な感染症であるB群溶連菌のベータラクタム系抗生物質への耐性を包括的に調べた研究です。本論文では、1998年から2018年の間に集められた3万株近くのB群溶連菌を調べ、2013年以降ベータラクタム系抗生物質の効きにくい株の割合が増加傾向にあることを明らかにしています。今後の継続した調査および治療に影響があるかどうかの研究も期待されます。

エピソード
20年にわたって蓄積されたB群溶連菌サーベイランスのデータと、Whole Genome Sequencingのデータを生かした研究なので、他の施設ではなかなかできない研究なのですが、研究の焦点であるベータラクタム系抗菌薬の数がとても少なかったため、論文がなかなか受理されませんでした。

1)研究者を目指したきっかけ
私は現在アメリカの政府機関で公衆衛生の仕事をしているので、研究者を目指したわけではありませんが、人々の健康の改善につながる情報を論文という形で発表することの重要性に気づきました。英語の論文執筆ができるようになるにはそれなりの練習が必要なので、機会があれば論文執筆に取り組むようにしています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
医師として患者さんの診療に従事することを主に行っていたのですが、公衆衛生は一度に多くの人の健康の改善に繋がりうることからこの分野に興味を持つようになりました。
3)この研究の将来性
B群溶連菌という菌の治療に主に使われているベータラクタム系抗菌薬に対する耐性菌が出てくると、今後患者さんの治療方針にも影響します。私たちが今回使用した方法を使うことで、通常の耐性菌の検査方法よりも早期に耐性菌の出現を見つけることができる可能性があります。
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