[特別賞]山口典宏/米国立がん研究所
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 4分
Norihiro Yamaguchi, M.D., Ph.D., M.P.H.
[分野:Team Wada]
論文リンク
論文タイトル
A Targetable Secreted Neural Protein Drives Pancreatic Cancer Metastatic Colonization and HIF1α Nuclear Retention
掲載雑誌名
Cancer Discovery
論文内容
膵臓癌は米国におけるがん死因第3位を占め、根治切除が可能な非常に少数の患者を除けば数年内にほぼ例外なく死の転機をとる。がん死の90%以上は転移がんによるもので、また膵臓癌を含めた消化器癌の80%以上は肝臓に最初に転移する。これは、全ての消化管由来の静脈血が門脈に環流した後、肝臓に注ぐことによる。よって膵臓癌の肝転移のメカニズムの理解とそれに基づく新規治療薬開発は大きな社会的意義をもつ。
我々は、80年代にアイザイア フィドラー博士によって開発されたin vivo selection技法を応用し、マウス門脈系にがん細胞を注射し選択的に肝臓に転移巣を形成せしめ、この転移巣から単がん細胞懸濁液を調整した後に、再度マウス門脈系にこの懸濁液を注射することを繰り返し、高度に肝転移能を有する新規転移がんモデル、in vivo selected highly liver-metastatic cellsを確立し、システム生物学的アプローチによって、複数の創薬対象となりうる転移プロモーターを発表してきた。
本研究は膵臓癌において、高度肝転移株を複数作成し、そのex vivo mRNAseqによる原発膵臓癌株との遺伝子発現比較からNeuronal pentraxin 1 (NPTX1)を重要な膵臓癌の転移促進因子としてCancer Discovery誌に2024年12月に報告したものである。NPTX1が虚血性脳卒中患者の中枢神経で誘導されること、膵臓癌腫瘤はがん細胞を取り囲む厚い結合組織から極めて低酸素環境であることを踏まえて、NPTX1はがんの進展を低酸素下で促進すると推論した。我々は、NPTX1がそのがん細胞膜表面上の非生理的受容体、AMIGO2と自己分泌的に結合し、転写因子HIF1aの核内停留をHIF1aの特異的セリン基をリン酸化することで促進し、結果がん細胞の低酸素下での成長を促すことを本研究で明らかにした。更には、NPTX1の中和モノクローナル抗体を創薬バイオテックと共同開発し、複数の前臨床的膵臓癌モデルにおいて膵臓癌に対する標準的治療薬ゲムシタビンを上回る治療効果を得た。筆者を筆頭申請者として本坑体は米国で特許申請され、Phase1試験に向けたIND enabling 実験が進行中である。
この研究の成果は抗NPTX1抗体の開発を通じて膵臓癌診療に画期的変化をもたらす可能性のみならず、創薬ターゲットを探る新規実験プラットフォームを関連する科学コミュニティに提供しその発展に資するものである。
受賞者のコメント
これを機により多くの方に私の仕事を目にしていただけることを嬉しく思います。
審査員コメント
太田 壮美先生
一般的に難治性である膵臓がんの治療に役立ち得る高度な研究である。膵臓癌の転移促進因子NPTX1の詳細な生理学的特徴や役割を明らかにし、さらにはNPTX1の中和モノクローナル抗体を共同開発し、前臨床試験において既存の治療薬を上回る効果を確認している。米国特許申請およびフェイズ1試験も進行中であり、benchtop to bedsideの素晴らしい研究であり、将来性、有用性ともに非常に高いと思われる。
北原 大翔先生
膵臓癌の転移を促進する新規の分子経路としてNPTX1-AMIGO2シグナルを特定し、その治療標的としての可能性を明示している。膵臓癌の治療選択肢の拡大に貢献する革新的な研究。
林 秀憲先生
NPTX1がAMIGO2と結合し、がん細胞の低酸素下での成長を促すことを明らかにしたことで具体的な肝臓転移の予防を期待できる治療につながる。そして実際に米国で特許申請を得て次の実験を進行していることはこの論文の重大性を証明している。遺伝子操作、動物モデルなど多角的なアプローチをしている点が優れている。
エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
思うように行動した結果が今です。言われたようにでなく。
2)現在の専門分野に進んだ理由
その当時新しい学問に見えたからです。
3)この研究の将来性
難治ガンの新規治療薬として、患者の寿命を少し伸ばす可能性があります。
4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします
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