[特別賞]岩崎 成仁/Northwestern University Feinberg School of Medicine
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 5分
Naruhito Iwasaki, M.D., Ph.D.
[分野:イリノイ]
論文タイトル Analysis of human neutrophils from nasal polyps by single-cell RNA sequencing reveals roles of neutrophils in chronic rhinosinusitis
掲載雑誌名
Journal of Allergy and Clinical Immunology
論文内容 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)は、2型(T2)炎症を特徴とする疾患である。最近の研究により、T2 鼻茸において好中球の増加およびその活性化が示されているが、T2 CRSwNP鼻茸形成における好中球の役割は十分に解明されていない。本研究では、シングルセルRNA解析(scRNA-Seq)を用いて、鼻茸組織内の好中球の役割を明らかにすることを目的とした。コントロール鼻内組織、鼻茸組織、及びそれに一致する末梢血サンプルから顆粒球を抽出し、scRNA-Seq を実施した。この方法により、鼻茸好中球の遺伝子発現を評価し、その機能を予測した。まず、鼻茸好中球において、末梢血好中球およびコントロール鼻内組織好中球と比較して発現が低下した遺伝子および発現が亢進した遺伝子を同定した。その結果、発現が低下していた遺伝子は自然免疫系に関連し、発現が亢進していた遺伝子は NF-κB シグナルやサイトカイン活性に関与していることが示された。さらに、鼻茸好中球は 4 つの異なるクラスターに分類され、鼻茸組織内の好中球が潜在的に多様な性質を持つことが明らかになった。この結果から、CRSwNPの病態形成において好中球には重要な役割を果たす複数のサブタイプが存在する可能性が示唆された。
受賞者のコメント
栄誉ある賞をいただきありがとうございます。留学中に指導していただいたノースウエスタン大学加藤先生、研究室のメンバー、家族に感謝します。
審査員のコメント
牛島 健太郎 先生
本研究は、single cell RNAseq解析から鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の病態形成に加担する好中球の性質を明らかにしています。血球細胞を用いたscRNAseqには技術的課題が多いですが、本研究では合理的考察を経てこれを解決しています。また、対象疾患患者を含めたヒト検体による成果であることは、本研究の病態生理学的成果に高い信頼性を与えるものです。
渡辺 和志 先生
本論文は、慢性副鼻腔炎における好中球の役割と異質性をシングルセルRNAシーケンスで解析した研究であり、これまで注目されてこなかった病態形成における好中球の新たな側面を明らかにしています。特に、好中球が4つのクラスターに分類され異なる炎症経路に関与する可能性を示した点や、好中球の遺伝子発現異常がNF-κBシグナルや酸素化合物応答に関連していることを示した点は、治療標的の可能性を強調しています。この成果をどのように臨床応用に結びつけていくかが今後の課題となりますが、本研究は将来的な発展が期待される重要な成果と考えます。2年以内の研究成果であり、特別賞にも該当すると思います。
小島 敬史 先生
本論文は、慢性副鼻腔炎患者について、鼻ポリープ形成における好中球の役割とheterogeneityを単細胞RNAシーケンシング(scRNA-Seq)を用いて解析し、炎症性疾患の理解を深めた研究です。末梢血や鼻ポリープにおける好中球・好酸球のSingle cell 抽出は、その不安定さ・分離の困難さ・RNA量の少なさなどから困難とされてきました。筆者らは、好中球の検出を新たな濃縮技術とシークエンシングの工夫で実現し、好中球を4つのクラスターに分類、それぞれが異なる炎症促進や組織破壊に関与していることを明らかにしました。この知見は、新規治療法の開発や、疾患の重症度を評価するバイオマーカーの発見につながり、個別化医療を促進する可能性があります。鼻ポリープは慢性副鼻腔炎によって生じる粘膜の腫脹です。世界的には慢性副鼻腔炎にポリープを伴うタイプは好酸球が中心の炎症、ポリープを伴わないタイプは好中球が中心の炎症であると理解され、治療法が区別されてきました。本論文ではポリープを伴う慢性副鼻腔炎であっても好中球がその炎症に寄与していることを示唆し、新規治療対象としての炎症経路や個別化医療へつながる可能性がある点で科学的意義が高く、臨床応用への道を拓く画期的な成果といえます。
坂下 雅文 先生
アレルギー免疫領域において最もインパクトの高い雑誌に掲載されている。重症化が問題となっている難治性鼻副鼻腔炎疾患の組織中の好中球をscRNA-Seqを用いて解析した内容。好中球の検出は、従来大変困難であることが知られてきたが、scRNA-Seqの解析プロトコールの最適化に成功し、世界で初めて報告した。これにより、難治性の鼻副鼻腔疾患の解析フィールドを切り開いた重要な論文である。特別賞に値すると考える。
1)研究者を目指したきっかけ
一緒に働いていた先生でとても熱心に研究されている方がいました。その先生に影響を受けて、自分も研究をやってみようと思いました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
耳鼻咽喉科医として勤務する中で、たくさんのアレルギー疾患の方を診療する機会があります。さらに、スギ花粉症等の上気道アレルギー疾患は今後もますます増加していくことが予想されることから、アレルギー研究に関心を持ちました。
3)この研究の将来性
上気道アレルギー疾患においては、好酸球が重要な役割を果たしていることはよく知られています。一方、好中球の役割は不明な点が多いです。この研究は、上気道アレルギー疾患における好中球の新機能の解明を目指しています。これまでとは違った観点から、病態解明が進む一助になる可能性があります。
4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします。
サポートいただきありがとうございます。
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