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[特別賞]後藤 昌英/イリノイ大学シカゴ校

Masahide Goto, M.D., Ph.D.
[分野:イリノイ]
(腫瘍細胞侵入ペプチドp28を用いた新規術中プローブ開発)
EBioMedicine, 01-February-2022

概要
乳癌の手術は、整容的な観点から正常組織を多く残すよう切除すると再発率が高くなる問題があり、腫瘍と正常細胞の境界(腫瘍マージン)を正確に識別することが重要である。術中マージン評価モダリティの中で、近赤外線蛍光画像誘導手術は、光の散乱や組織の自家蛍光が少ないため高いコントラストが得られ、且つ組織への浸透性が高いことから有望視されている。いくつかの蛍光化合物の中で、FDA承認の近赤外線光色素であるインドシアニングリーン(ICG)は、安価で安全であることから多くの検査等で使われている。しかしながら、ICG単体では腫瘍特異的浸透性に欠ける問題点がある。
我々は、緑膿菌が分泌するタンパク質アズリンとそれ由来のペプチドp28が、様々ながん細胞に優先的に侵入しアポトーシスを誘導することを報告してきた。p28は2つの第I相臨床試験で明らかな副作用、毒性、免疫原性が無いことからFDAから希少医薬品および小児希少疾病薬の指定(NSC745104)を受けており、腫瘍標的キャリアとして理想的な腫瘍細胞侵入性ペプチドである。
本論文では、腫瘍細胞侵入ペプチドp28とICGからなる新規近赤外線プローブICG-p28を開発することを目的とした。ICG-p28を複数のヒト乳癌マウスモデルにおいて、その光学特性、腫瘍への特異的取り込み能、および腫瘍切除術中における腫瘍マージンの正確な同定能力を評価した。ホルモン受容体発現に依存することなく、腫瘍と周囲の正常組織との間に明確なコントラストを描出(腫瘍/バックグラウンド比>3.0)し、腫瘍の再発率を顕著に低下させた。本研究により得られた結果は、ICG-p28の新規術中マージン評価プローブとしての実用可能性を示した。
本研究では乳癌に焦点を当てたが、p28は様々な種類の癌細胞にも入り込むことができることから、本研究の画像診断法は他の様々な固形腫瘍の治療にも応用することができ汎用性が高いと考えられる。さらに、本リアルタイム術中画像診断法は、腫瘍再発率を顕著に低下させることにより、多くの固形癌患者のQOLに有益な影響を与えることが期待できる。


受賞者のコメント
この度は特別賞を賜り大変光栄です。多くの関係者の方々に心から感謝を申し上げます。

審査員のコメント
小笠原 徳子 先生:
切除マージンを特にシビアに決定したい領域(乳房)での切除領域を決めるツールとしてのICG-p28プローブの有用性を示した論文である。他領域の癌手術(リンパ節郭清を含む)及びロボット支援手術での応用が期待される将来性を評価した。

神津 英至 先生:
乳癌は女性に最も多く発生する癌であり、手術時の残存病変に伴う高い再手術率は臨床的に重要な問題である。著者らは、細胞透過性を有する癌標的ペプチドとイメージングプローブを組み合わせたp28-ICGを独自に開発し、複数の乳癌モデルマウスにおいて、このプローブが癌細胞に特異的に集積し、手術時に残存病変を視覚的に確認しながら切除することで再発率が改善がすることを示した。この手法は乳癌での臨床応用が期待されるだけでなく、他の固形癌治療においても革新的な進展をもたらす可能性がある。

飯塚 崇 先生:
外科治療時のリアルタイムな画像診断により腫瘍の取り残しがないことを確認したり、術前の画像診断では評価できない極小サイズのリンパ節転移を検出できることを示唆する論文です。ペプチドp28を用いたプローブが腫瘍に取り込まれること、リアルタイム画像評価によるin vivo腫瘍切除による再発抑制を明瞭に示しています。
乳癌以外での固形腫瘍へのリアルタイム画像診断への臨床応用が期待され、今後の術式や臨床病期の評価などにも影響を与えうる、臨床的・学術的にも発展が見込まれる研究成果だと評価できます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
子供の頃からの夢だったのと、論理的に事象の解明を追求したかったから

2)現在の専門分野に進んだ理由
未解決な課題が多かったため

3)この研究の将来性
腫瘍を標的とするペプチドには、抗癌剤等の薬物を運ぶ担体としての機能、診断技術、治療、画像誘導手術などに有用である。今回は乳癌の手術中の画像誘導プローブとしての可能性を証明できた。今後、異なる癌種などへも幅を広げ、臨床研究も経て診断から治療などへの展開も期待できる。

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