Kai Narita, M.Eng
マルチスケールにて3D構造制御可能な炭素電極の開発
3D Architected Carbon Electrodes for Energy Storage
Advanced Energy Materials
2020年11月
リチウムイオン電池は2019年のノーベル化学賞の受賞にも代表されるように、モバイル社会を実現させ、持続可能な社会への基盤技術としても期待されている。そのリチウムイオン電池の充放電中には、リチウムイオンが電極間を移動し、電極表面で電気化学反応が起こるのだが、これらの移動や反応は、同じ材料および充放電条件下では電極の3D空隙構造により決定されうる。本論文では、その電極の3D構造をミクロからセンチスケールまで自由に制御する方法として、樹脂の3Dプリンタと熱処理を組み合わせ3D炭素電極を開発する方法を提示した。開発された3D炭素電極は、アルミ合金ほどの比強度をもつため、設計された3D構造を圧力が加えられる電池セル内でも保つほか、ドローンといった軽さと強度が求められる応用先への利用も期待され、さらに、3D形状を保ったままの電極のリサイクルも可能とした。また本論文では、3D構造を変えることで電池性能がどう影響されるかについても議論した。このマルチスケールにて電極構造を制御できる方法は、リチウムイオン電池のみならず、フロー電池や燃料電池といった、他のエネルギーデバイスにも応用が期待されうる。
受賞者のコメント:
このたびは、大変素晴らしい賞を賜り、ありがとうございます。
大学院留学後4年目にてやっと出た論文でして、それがこのような形で評価されたことを大変うれしく思います。
審査員のコメント:
DLP3次元プリンタを用いて炭素電極を作成する方法を開発した.電極の3次元構造を異なるスケールで調整する手法として,研究と実用の両面での貢献が大きい.論文内でも産業応用を見据えた詳しい議論がされている.インパクトのある論文誌に掲載されたフルペーパーであり,また掲載紙のカバーにも採択されている.(上田先生)
3Dプリンタを用いて作製した構造体を熱処理することでカーボン化させ、リチウムイオン電池の電極として応用した論文です。実験量が多く、電極材料としての評価がしっかりできていることは評価できます。(庄司先生)
このような新たな方法論・手法の発想・導入は、アイデア自体の面白さもあるが、筆者らが、実際に作成、評価、議論まで行っている点についても、おおいに評価されるべきものであると考える。本アイデアはメタマテリアルとしての汎用性から、リチウム電池電極以外にも分野を超えて広く応用できると思われ、今後の更なる発展が期待大である。(砂原先生) エピソード: 今回受賞した論文はリチウムイオン電池の負極を3Dプリンタで開発できることを発表したものなのですが、その論文がアクセプトされたちょうど同時期に同じ研究室から3Dプリンタで正極材料も作成可能なことを示した論文が別の雑誌からアクセプトされました。それぞれの研究の開始時期は全く異なっており、完全なる偶然でした。さらに運が良いことに、同じ出版社からの科学雑誌だったため、Editorとの交渉や、プロのScientific illustratorのお力のもと、二つの雑誌の表紙をそれぞれ飾り、かつその二つの表紙が合わさると一つの大きなポスターになる、といった洒落たことをすることができました。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください 学部3年の時の鉄鋼会社の研究開発部門でのインターンシップが想像以上に楽しかったから。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください 高校3年生の時に、大学でどの学科に進もうか学科について書いてある本を読んでいたところ、材料科学というのが目に入りました。読み進めると、材料科学はすべてのモノの基礎をつくる学問であるらしいことがわかり、これを作れるのはなんて楽しいんだろうと感じたときが今の材料科学分野を勉強しようと思ったきっかけでした。 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。 スマートフォンや電気自動車を高速充電する技術の種となると考えています。
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