Aki IIO-OGAWA4月8日読了時間: 4分[特別賞]朝倉 崇徳/北里大学Takanori Asakura, M.D., Ph.D.[分野:Team Wada]Proximal and Distal Bronchioles Contribute to the Pathogenesis of Non-Cystic Fibrosis Bronchiectasis (NCFB)近位および遠位細気管支は非嚢胞性線維症性気管支拡張症の病態に重要であるAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine概要非嚢胞性線維症性気管支拡張症(Non-cystic fibrosis bronchiectasis: NCFB)は慢性の呼吸器症状と頻回の増悪に伴う気管支拡張病変の進行を特徴とする難治性疾患である。ヒト気道は第6-8世代を境目に軟骨や粘液下腺を有する中枢気道(>2cm)と末梢気道(細気管支)に分類される。これまでの肺機能研究・古典的な病理学的研究において細気管支病変が病態形成に重要である可能性が示唆されているが、分子生物学的に評価した報告はなかった。そこで、本論文ではNCFBにおける細気管支の形態学的および分子学的特徴を明らかにすることを目的とした。 本論文では、日本・米国におけるNCFB切除肺・剖検肺を用いて、病理形態学的基準、シングルセルRNA解析による気道部位特異的分子マーカーを設定し解析した。HE染色で評価した標本全体の面積に占める細気管支の割合は、疾患肺の細気管支で有意に高く、末梢気道における気管支拡張病変を示した。疾患肺において、遠位細気管支特異的マーカーであるSFTPBおよびSCGB3A2の発現が上昇し、これらの蛋白質はNCFB患者由来の喀痰上清においても上昇していた。一方、中枢気道特異的マーカーであるUGT2A1やNTSは正常肺および疾患肺における中枢気道のみに発現し、細気管支における気管支拡張所見を支持した。 さらに、粘液線毛クリアランスに重要である分泌型ムチンを評価した。疾患肺の近位・遠位細気管支はともに粘液栓が多くみられ、近位細気管支はMUC5BとMUC5ACが共に上昇していたが、遠位細気管支ではMUC5Bが選択的に上昇していた。粘液栓ではムチン産生に強く関与するIL-1βを発現するマクロファージの割合が多くみられた。NCFB患者の喀痰由来上清で刺激したヒト初代気道上皮細胞ではMUC5BとMUC5ACが有意に上昇し、CRISPR-Cas9によるIL1R1のノックアウトにより低下することを確認した。最後に、空間的トランスクリプトーム解析による遠位細気管支の解析では、分泌細胞、低酸素、インターロイキンに関する経路の発現が上昇し、線毛形成に関する経路が低下していた。 以上から、NCFBは末梢気道における気管支拡張病変(BronchiectasisではなくBronchiolectasis)を示し、近位細気管支と遠位細気管支でそれぞれ異なる特徴が示した。IL-1経路に対する治療薬は、NCFBの粘液閉塞と肺傷害を改善する可能性がある。NCFBの発症と進行に関する今後の研究には近位・遠位細気管支を共に含むことが重要である。受賞者のコメントこの度は特別賞を授与していただき、大変光栄に思います。留学を通じて様々な方々と出会い、支援を受けながら論文を完成させることができました。多くの関係者の皆様に心から感謝申し上げます。これを励みに、今後も研究に一層励んで参ります。審査員のコメント太田 壮美 先生:非嚢胞性線維症性気管支拡張症(NCFB)における細気管支の形態学的および分子学的特徴に焦点を当てた研究。日本・米国のNCFB患者の切除肺・剖検肺を用い、気道部位特異的な分子マーカーを特定。疾患肺では末梢気道における気管支拡張病変が顕著であり、遺伝子発現解析からIL-1経路への治療薬の可能性が示唆されたとのこと。また近位・遠位細気管支で異なる特徴が見られ、IL-1経路の調節がNCFB治療に有望である可能性が示唆している。難治性の疾患を形態学的な見地から膨大な組織学的検討を行いその病理病態の新しい知見を発見・示唆している素晴らしい論文である。今後の治療薬・治療法の開発に有用な可能性が示唆される。北原 大翔 先生:非嚢胞性線維症性気管支拡張症における細気管支の病態を形態学的・分子学的に解析した研究。今後のNCFBの研究に有用な結果をだした重要な研究だと思います。上村 麻衣子 先生:応募者らは、非嚢胞性線維症性気管支拡張症 (Non-cystic fibrosis bronchiectasis: NCFB) における近位および遠位の細気管支の関与を病理学的解析と分子生物学的解析を組み合わせて探究し、NCFBの病理は、細気管支の形態と分子特性の変化によって特徴づけられ、特に粘膜過剰分泌と気管支拡張が見られることを発見しました。本研究では、近位および遠位の細気管支がNCFBの病態において異なる役割を果たすことを明らかにし、これらの区域の病理学的および分子生物学的特徴を詳細に分析しています。本研究は、NCFBのより深い理解と、将来的な診断および治療法の開発に関する重要な情報を提供するものであり、非常に学術的価値の高い研究と考えます。エピソード1)研究者を目指したきっかけ診療中の患者さんの状態を少しでも改善するために、疾患の解像度を高め、何が起こっているのかをより深く理解したいと考えています。2)現在の専門分野に進んだ理由治療が困難で困難を伴う病気が多く存在し、まだ解明されていない側面が多いためです。3)この研究の将来性気管支拡張症の病態理解を深め、その治療薬の開発を目指します。
Takanori Asakura, M.D., Ph.D.[分野:Team Wada]Proximal and Distal Bronchioles Contribute to the Pathogenesis of Non-Cystic Fibrosis Bronchiectasis (NCFB)近位および遠位細気管支は非嚢胞性線維症性気管支拡張症の病態に重要であるAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine概要非嚢胞性線維症性気管支拡張症(Non-cystic fibrosis bronchiectasis: NCFB)は慢性の呼吸器症状と頻回の増悪に伴う気管支拡張病変の進行を特徴とする難治性疾患である。ヒト気道は第6-8世代を境目に軟骨や粘液下腺を有する中枢気道(>2cm)と末梢気道(細気管支)に分類される。これまでの肺機能研究・古典的な病理学的研究において細気管支病変が病態形成に重要である可能性が示唆されているが、分子生物学的に評価した報告はなかった。そこで、本論文ではNCFBにおける細気管支の形態学的および分子学的特徴を明らかにすることを目的とした。 本論文では、日本・米国におけるNCFB切除肺・剖検肺を用いて、病理形態学的基準、シングルセルRNA解析による気道部位特異的分子マーカーを設定し解析した。HE染色で評価した標本全体の面積に占める細気管支の割合は、疾患肺の細気管支で有意に高く、末梢気道における気管支拡張病変を示した。疾患肺において、遠位細気管支特異的マーカーであるSFTPBおよびSCGB3A2の発現が上昇し、これらの蛋白質はNCFB患者由来の喀痰上清においても上昇していた。一方、中枢気道特異的マーカーであるUGT2A1やNTSは正常肺および疾患肺における中枢気道のみに発現し、細気管支における気管支拡張所見を支持した。 さらに、粘液線毛クリアランスに重要である分泌型ムチンを評価した。疾患肺の近位・遠位細気管支はともに粘液栓が多くみられ、近位細気管支はMUC5BとMUC5ACが共に上昇していたが、遠位細気管支ではMUC5Bが選択的に上昇していた。粘液栓ではムチン産生に強く関与するIL-1βを発現するマクロファージの割合が多くみられた。NCFB患者の喀痰由来上清で刺激したヒト初代気道上皮細胞ではMUC5BとMUC5ACが有意に上昇し、CRISPR-Cas9によるIL1R1のノックアウトにより低下することを確認した。最後に、空間的トランスクリプトーム解析による遠位細気管支の解析では、分泌細胞、低酸素、インターロイキンに関する経路の発現が上昇し、線毛形成に関する経路が低下していた。 以上から、NCFBは末梢気道における気管支拡張病変(BronchiectasisではなくBronchiolectasis)を示し、近位細気管支と遠位細気管支でそれぞれ異なる特徴が示した。IL-1経路に対する治療薬は、NCFBの粘液閉塞と肺傷害を改善する可能性がある。NCFBの発症と進行に関する今後の研究には近位・遠位細気管支を共に含むことが重要である。受賞者のコメントこの度は特別賞を授与していただき、大変光栄に思います。留学を通じて様々な方々と出会い、支援を受けながら論文を完成させることができました。多くの関係者の皆様に心から感謝申し上げます。これを励みに、今後も研究に一層励んで参ります。審査員のコメント太田 壮美 先生:非嚢胞性線維症性気管支拡張症(NCFB)における細気管支の形態学的および分子学的特徴に焦点を当てた研究。日本・米国のNCFB患者の切除肺・剖検肺を用い、気道部位特異的な分子マーカーを特定。疾患肺では末梢気道における気管支拡張病変が顕著であり、遺伝子発現解析からIL-1経路への治療薬の可能性が示唆されたとのこと。また近位・遠位細気管支で異なる特徴が見られ、IL-1経路の調節がNCFB治療に有望である可能性が示唆している。難治性の疾患を形態学的な見地から膨大な組織学的検討を行いその病理病態の新しい知見を発見・示唆している素晴らしい論文である。今後の治療薬・治療法の開発に有用な可能性が示唆される。北原 大翔 先生:非嚢胞性線維症性気管支拡張症における細気管支の病態を形態学的・分子学的に解析した研究。今後のNCFBの研究に有用な結果をだした重要な研究だと思います。上村 麻衣子 先生:応募者らは、非嚢胞性線維症性気管支拡張症 (Non-cystic fibrosis bronchiectasis: NCFB) における近位および遠位の細気管支の関与を病理学的解析と分子生物学的解析を組み合わせて探究し、NCFBの病理は、細気管支の形態と分子特性の変化によって特徴づけられ、特に粘膜過剰分泌と気管支拡張が見られることを発見しました。本研究では、近位および遠位の細気管支がNCFBの病態において異なる役割を果たすことを明らかにし、これらの区域の病理学的および分子生物学的特徴を詳細に分析しています。本研究は、NCFBのより深い理解と、将来的な診断および治療法の開発に関する重要な情報を提供するものであり、非常に学術的価値の高い研究と考えます。エピソード1)研究者を目指したきっかけ診療中の患者さんの状態を少しでも改善するために、疾患の解像度を高め、何が起こっているのかをより深く理解したいと考えています。2)現在の専門分野に進んだ理由治療が困難で困難を伴う病気が多く存在し、まだ解明されていない側面が多いためです。3)この研究の将来性気管支拡張症の病態理解を深め、その治療薬の開発を目指します。
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