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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[特別賞]松尾 光徳/東京大学

Mitsunori Matsuo, M.D., Ph.D.
[分野:オハイオ]
子宮特異的Foxa2 KOはマウスの胚休眠を誘導する
elife, 01-July-2022

概要
Embryonic diapause(胚休眠)は、子宮内で胚の発育と成長を一時的に停止させ、休眠状態をとることにより、不利な環境下において新生児や母体が生き抜くための生殖における戦略である。休眠状態の胚は、新生児・母体の生存に有利な条件になったときに着床が再開され、分娩に至る。しかし様々な種において、胚がどのようにして休眠状態に入るのか、そのメカニズムはまだ不明であった。
転写因子であるFoxA2を子宮特異的にノックアウトしたマウスでは、通常であれば着床の起こる妊娠5日目に胚着床が観察されず、不妊となる。
本研究では、FoxA2子宮特異的KOマウスから妊娠8日目に休眠状態にある胚が回収され、また子宮の休止状態の維持に重要な遺伝子である子宮Msx1が持続的に発現していることより、これらのマウスにおいて単一遺伝子のコントロールのみで胚休眠状態に導かれることが示唆された。
また、エストロゲンの下流因子である白血病抑制因子(LIF)の投与により、これらのマウスでは妊娠8日目に着床を再開させることも可能であった。さらに興味深いことに、抗エストロゲン作用をもつプロゲステロンやICIの投与は、FOXA2でも子宮休止期を延長することができた。
エストロゲンはプロゲステロンで刺激された子宮にその作用が上乗せされることで着床を誘導する重要な因子であるが、その下流には休眠状態において着床を誘導する因子がある反面、休眠状態に害のある因子も誘導されることがわかった。
我々の今回のモデルでは、FOXA2非依存的なエストロゲン作用が休止状態の子宮の維持に有害であることが明らかになった。

受賞者のコメント
このような賞をいただき、大変光栄に思います!
現在は日本に戻り活動をしておりますが、留学中には研究面だけでなく、生活や家族のことなど、たくさんの方々に様々なサポートを頂きました。皆様のお力添えなしには論文という形に残すことすら困難だったと思います。
心より感謝を申し上げます。

審査員のコメント
Makiko Iwafuchi 先生:
胚休眠という非常に興味深い未知の機構に着目し、その分子機構の一端を明らかにした功績は大きい。

荒木 幸一 先生:
子宮内で胚が休眠状態になる胚休眠について、 マウスを用いてFoxa2遺伝子を中心に研究した論文です。発生生物学および生殖医学の分野の研究者に幅広い関心が持たれるものと思われます。

水野 知行 先生:
本論文では、発生休止が起こるメカニズムについて、転写因子FoxA2の子宮特異的欠損マウスを用いて詳細に解析しています。特に、着床や妊娠の維持に重要ないくつかの因子に着目し、FoxA2やMsx1、LIFなどが休止状態の維持および解除に重要な役割を果たしていることを明らかにしています。発生休止は哺乳類の生存戦略として非常に興味深いものであり、初期流産予防や不妊治療への応用可能性を含め、本研究の今後の進展が大いに期待されます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
臨床医として患者さんに向き合う中で、より深く病気について知り新たな治療方法を生み出すには、臨床研究・基礎研究が必要であると感じ、研究活動に取り組むようになりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
日本の少子化が加速するなかで、せめてお子さんを授かり産み育てたいと強く望む方々の希望がかなうようにしたいと思い、産婦人科を選びました。
3)この研究の将来性
「胚休眠」という、一見不妊症と関係のないように思える現象ですが、胚着床のタイミングをコントロールする、また妊娠できる子宮の条件を知ることにつながる研究であると考えています。
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