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kei121318

[特別賞]松澤 琢己/コーネル大学

Takumi Matsuzawa, Ph.D.
[分野:物理学]
渦輪を用いた乱流の局在化と制御
Nature Physics, 01-May-2023

概要
乱流は高レイノールズ数における安定な流れ構造であり、車両の流れから銀河生成にまで普遍的に現れる。19世紀後半以後、数多くの実験装置と技術が考案され、乱流の統計的性質、時空間構造、層流から乱流への遷移に主に焦点が当てられてきた。しかし、従来の実験手法の多くは装置の境界で生成される渦が乱流の源である故に、発生する乱流を境界からの寄与を切り離してその性質を調べることが困難であった。
本研究では渦輪(スモーク・リングなど)をの衝突により乱流を生成・閉じ込め・制御する新たな手法を提案した。3Dプリントされた箱型の実験装置の頂点部分はくり抜かれ、八つの開口部がある。上面に設置されたピストンを作動させることで、開口部から流体が流入し、一度に八つの渦輪を形成する。渦輪は実験装置の中央で衝突し、境界からの寄与を無視できる装置の中央で乱流が生成される。この方法では、渦輪の持続的供給により、乱流が3次元空間に局在化し、その状態が維持される。乱流は流体を効率よく混合させる為、乱流状態を局在化させることができるのは特筆すべき成果である。
複数の高速度カメラと3次元流速計測技術を駆使し、局在化した乱流の時空間構造、層流から乱流への遷移、及びエネルギー収支を詳細に解析した。生成された乱流の塊内での統計則は一様等方乱流に関するコルモゴロフ則と一致し、流れが乱流状態であることを示している。
注入する渦輪の性質を変化させることで、発生する乱流の塊の大きさ、発生する渦構造、及び乱れの大きさを制御することができる。加えて、注入する渦輪はエネルギー、運動量、角運動量、ヘリシティと言った保存量を持っており、渦輪を介して異なる保存量の組み合わせを持つ乱流を生成することを可能にした。特に、ヘリシティは渦糸の幾何学的構造と流れの鏡像対称性の破れを特徴づける保存量であるが、3次元流速計測が必要という技術的困難から乱流での役割は理解に乏しい。本研究では、左巻き・右巻きの渦輪を生成し衝突させることでヘリカル乱流の生成できることを示し、従来では生成そのものが困難であったヘリカル乱流の実験的研究のマイルストーンとなった。
本研究は乱流の局在化と渦構造の制御を可能にし、乱流の減衰、乱流ー非乱流境界面でのエネルギー輸送といった非一様乱流の基礎的現象の理解に寄与する。"
受賞者のコメント
UJA特別賞は毎年幅広い分野から質の高い論文著者を選んでいるので、受賞をとても嬉しく思っております。本研究は実験、理論、数値計算まで私が博士課程を通して一から担当したので喜びも一入です。この場を借りて、指導教官であるWilliam Irvine教授並びに共著者の二人に感謝を申し上げます。
学術的発展が難しい乱流研究において、新たな息吹を注げたのであれば幸いです。

審査員のコメント
竹井聡 先生:
To generate localized turbulent flow in the bulk, and to be able to manipulate and control it, is a challenging task. This paper seems have realized this for the first time. I think it has attracted much attention from the scientific community and from the media, and it is quite impressive that the work was done while Dr. Matsuzawa was still a PhD student. I really enjoyed watching the videos in the Supplemental Material.

河野淳一郎 先生:
様々な物理系に普遍的に現れる乱流に関する非常にオリジナリティの高い研究である。従来乱流は物理的境界においてのみ生成されるので、境界からの寄与を取り除いて乱流の本質のみを調べることは難しかった。本研究は渦輪の衝突を通して乱流を生成、閉じ込め、そして制御し、境界からの寄与を無視できる装置中央で乱流を調べることに初めて成功した快挙である。渦輪の持続的供給によって乱流の局在化した状態を維持し、その時空間構造及びエネルギー収支を詳細に解析できたことは特筆に値する。生成された渦輪はエネルギー、運動量、角運動量、ヘリシティと言った保存量を持っているが、特にヘリシティは渦糸の幾何学的構造と流れの鏡像対称性の破れに関する特徴的な量である。乱流におけるヘリシティの役割の理解はほとんど進んでいない状態であるが、この研究では左巻き・右巻きの渦輪を生成し衝突させるというユニークな過程でヘリカル乱流の生成できることを初めて示した。非常に先駆的な研究であり他の分野のヘリシティ研究にも影響を与える深い知見の発見につながることが期待される。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
小学生の頃に読んだ宇宙論がきっかけで、自然は人の想像を容易に超えることに神秘を感じました。思春期に、自分では数学や物理学で敵わない人に出会いました。そこで自分も彼ら・彼女らみたいになれたら格好いいなと思っただけです。今でも、尊敬している多くは年下のデキる人たちです。自分なりに知りたいな、表現したいなと思うことがあって、それを追求できる環境がたまたま研究者だったというだけです。職に囚われず、人生の中で科学的に意義のある問答をしたいと思っています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
私のいるソフトマター物理学の良いところは、実験、理論、数値計算がどれも先行せずにバランスよく発展している点です。また、扱う事象は実験的に扱えるスケールなので、問いに対して答えを得ることが比較的容易です。物理学者、化学者、生物学者、工学者が入り乱れるこの分野は扱う事象も幅広く、異分野のアイディアが飛び交います。流体力学もその一部で、私はたまたま乱流という専門になったに過ぎません。学際的なことが好きな人は門戸を叩いてみてください。
3)この研究の将来性
本研究は、19世紀のレイノールズに始まる乱流研究の流れを汲みます。
よく誤解されますが、乱流はランダムではなく、統計的な構造があります。
しかし、なぜこの構造が現れるのか、なぜこの構造が普遍的なのか、がよくわからないのです。
そこがわからなければ、乱流を制御したり、利用することができません。
例えば、水を勢いよくかき混ぜると乱流ができますが、なぜ乱流は一箇所に留めて置けないのでしょう?こうした簡単な問いに答えるのが難しいのです。
本研究はそれを明らかにし、乱流を空気砲でお馴染みの渦輪を用いて乱流を制御します。
それを通して、乱流の性質について理学的な知見が得るのが長い目で見たときの目標です。

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