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執筆者の写真Jo Kubota

[特別賞]正田 哲雄/シンシナティ小児病院

Tetsuo Shoda, M.D., Ph.D.

[分野:免疫アレルギー]
(好酸球性腸炎に特異的な遺伝子プロファイルの同定)
Gastroenterology, May 2022

概要
 好酸球性消化管疾患(EGID)は、消化管壁への好酸球浸潤により症状が出現する稀なアレルギー疾患である。なかでも好酸球性腸炎(Eosinophilic Colitis: EoC)は大腸粘膜に多数の好酸球が浸潤する慢性疾患であり、その病態はいまだ不明な点が多く残されている。近年、世界中の多くの集団で認識されるようになっているが、症状や併存疾患などの疾患負荷が非常に高く、病態理解や新規の診断・治療法が望まれていることから、EoCの病態解明と治療戦略の確立を目的として網羅的遺伝子解析を実施した。
米国内での多施設共同研究を立案後、EoC患者由来大腸生検サンプルの処理と網羅的遺伝子解析を実施した。健常コントロールだけでなく臨床的に鑑別が困難な炎症性腸疾患(IBD)を含む疾患コントロールもあわせて解析を行った。種々の解析を実施した結果、EoC特異的な遺伝子プロファイル(EoC transcriptome)を見出した。その臨床的意義を評価するため、前方視的に測定した組織学的な特徴との相関解析を行ったところ、EoC transcriptomeは大腸好酸球との相関だけでなく特徴的な組織所見と強く関連していることを示した。続いてEoC transcriptomeの機能解析や患者病理組織の免疫染色などにより、EoC患者では2型免疫に関連する遺伝子発現のパターンが他のEGIDと異なること、細胞増殖が低下していること、アポトーシスが増加していることを見出し、これらはEoCに特異的な病的特徴を確立するうえで有用な結果となった。最後に、臨床的な鑑別に苦慮するEoCとIBDで差異のある遺伝子を同定し、両疾患を区別するためのスコアを開発し検証した。EoCと他の消化器疾患との区別は、治療法が異なる場合があるため臨床的に重要である。例えば、EGIDは厳格な食事療法で管理できるものがあるが、IBDは生物学的製剤や抗炎症療法が効果的であることが知られる。この結果は臨床的に鑑別が困難な疾患における遺伝子プロファイルの診断的な有用性を示している。
以上、本研究においてEoC特異的遺伝子プロファイルを確立とその病態経路の特定、それらの臨床的診断活用の可能性を示した。これらの知見は、EoCが他のEGIDやIBDとは異なる疾患であることを立証し、診断や治療を改善するための基礎を提供した。

受賞者のコメント
この度は特別賞を賜り、大変光栄に感じております。多くの関係者の方々に心から感謝を申し上げます。この受賞を励みに、より一層精進して参ります。

審査員のコメント
足立剛也 先生:
EoCについて、米国内の多施設共同研究を立案し、そのサンプルを用いて疾患特異的な遺伝子プロファイルを明らかにするとともに、臨床的診断活用に資するスコアリングシステムを開発した発展的な成果である。希少疾患において異なる疾患動態を明らかにする革新的手法は、EoC, EGID, IBDの鑑別だけでなく、その他の疾患にも適用可能な重要な発展的な研究内容であり、分野を超えた大きなインパクトを有し、論文賞に合致するものと極めて高く評価される。

倉島洋介 先生:
好酸球性腸炎と炎症性腸疾患における好酸球の質の違いを遺伝子プロファイル等を中心に解析した内容であり、得られたデータは臨床的鑑別に直結する重要な成果につながっている。さらに、好酸球性腸炎病態形成に関わる分子経路を見出しており、好酸球性腸炎の疾患定義への貢献のみならず治療へとつながる情報を提供している。本研究成果は、臨床に直接結びつく重要な内容である。

後藤義幸 先生:
健常人と好酸球性大腸炎、その他の好酸球性消化管疾患、炎症性腸疾患患者の生検検体を用い、RNA-seq解析と組織学的解析を統合する独自のスキームを確立して、不明であった好酸球性大腸炎の特徴について分子的、組織学的に特徴付けた重要な論文です。好酸球性大腸炎が、他の好酸球性消化管疾患や炎症性腸疾患とは異なる疾患であることを示し、好酸球性大腸炎診断法の確立に寄与するとともに、好酸球性大腸炎に特異的に観察される分子を標的とした新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

エピソード
新型コロナウイルスの流行によりラボが一時期閉鎖してしまい実験が完全にストップしてしまいました。再開まで時間がかかりましたが、何とかできる範囲で解析や論文執筆を継続しました。最終的に論文がアクセプトされ、ジャーナルのカバーに選ばれたときは諦めずにまとめて良かったと思いました。

1)研究者を目指したきっかけ
幼少期に弟が重症の喘息だったため医師になり小児のアレルギーを専門としました

2)現在の専門分野に進んだ理由
医師になってから重症の消化管アレルギーの患者に会ったが診断や治療のコンセンサスが不明確だったため

3)この研究の将来性
本研究において好酸球性腸炎の特異的遺伝子プロファイルの確立とその病態経路の特定、それらの臨床的診断活用の可能性を示した。これらの知見は、好酸球性腸炎が臨床的に鑑別が必要となる他の消化器疾患とは異なる疾患であることを立証し、診断や治療を改善するための基礎を提供した。

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