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[特別賞]正田 哲雄/シンシナティ小児病院

Tetsuo Shoda, M.D., Ph.D.
[分野:オハイオ]
全エキソーム解析による好酸球性食道炎の新規原因遺伝子の同定
Nature Communications

概要
好酸球性食道炎(EoE) は,好酸球が慢性的に食道に浸潤し,その機能不全を呈する重症アレルギー疾患である。疫学研究で家族集積性が認められるが、その遺伝要因は不明な点が多い。遺伝要因同定による病態解明と治療戦略の確立を目的として、EoE多発家系における全エクソーム解析を実施した。
遺伝要因には、高頻度だが影響力の小さいリスク多型と、頻度は稀だが影響力が大きいリスク変異の両方が関与する。これまでEoEのゲノムワイド関連解析(GWAS) で同定された複数のリスク多型の影響力は大きくない。発症により影響する稀なリスク変異が存在する場合、家系内に複数の罹患者がいる可能性が高いことから多発家系に着目した。最もEoEの多い家系にWESを行いデスモソーム関連蛋白であるDesmoplakin (DSP)とPeriplakin (PPL)のミスセンス変異を同定した。他のEoE家系(61家系)でもその遺伝子変異を検証したところ、13家系でDSP、PPL変異を認めた(21%)。
EoEの炎症の主座となる食道粘膜は、細胞接着に重要なデスモソームが発達した重層扁平上皮に覆われ、機械的刺激に強い構造を持つことから、両遺伝子は食道バリア機能に重要であることが推定された。実際、EoE患者でDSPとPPL発現は低下しており、病理スコアともよく相関していた。
さらにin vitroではCRISPR/CasによるDSP、PPLのノックアウト(KO)を食道上皮細胞(EPC2)で作成し、生理的状態に近い気相液相界面培養に供し観察した。形態学的解析、経上皮電気抵抗と透過性試験でバリア機能を評価したが、KOは野生型と比しバリア機能が減弱した。さらに、各変異型を過剰発現させたEPC2では野生型に比しバリア機能が減弱した。
EoEでの発現減弱とin vitroデータからDSP、PPLの機能喪失型変異はEoEの発症基盤に必要な食道バリア機能破綻をもたらすことを示したが、その遺伝子変異は心臓・皮膚疾患との関連も報告されている。今回同定した変異は心臓・皮膚に影響がなく食道に限局していたため、食道での組織特異的な影響とリスク変異の相互作用による疾患感受性亢進を考慮した。EoE患者でCAPN14(食道特異的なプロテアーゼ)が高発現していること、CAPN14により変異タンパクは分解されやすく、CAPN阻害剤でその分解を一部抑制できたことから、今回同定したリスク変異が組織特異的に疾患感受性に関わることを示した。
本論文の成果はEoE疾患多発家系のみならずより多くのEoE患者に適応できる可能性が高く、新たな治療戦略を展開するための重要な知見となることが期待されている。

受賞者のコメント
この度は特別賞を賜り、大変光栄に感じております。多くの関係者の方々に心から感謝を申し上げます。この受賞を励みに、より一層精進して参ります。

審査員のコメント
Makiko Iwafuchi 先生:
全エキソーム解析による、好酸球性食道炎の新規原因遺伝子同定、さらにその機能的重要性とその破壌による病態をIn vitroで確認した包括的な研究である。今後の、治療戦略への展開が期待される。

荒木 幸一 先生:
好酸球性食道炎の発症に、デスモソーム関連タンパクであるDesmoplakinとPeriplakinの機能喪失が関与していることを発見した論文です。新規診断•治療法の開発が期待されます。

水野 知行 先生:
本研究では、EoE(好酸球性食道炎)の多発家系に焦点を当て、全エクソーム解析を用いて、EoEの発症リスクと関連するデスモソーム関連タンパクの2つの遺伝子変異を同定しています。さらに、これらの遺伝子の欠損細胞モデルを作成し、これらのタンパクが食道上皮細胞の障壁機能に重要な役割を果たすことを明らかにしています。EoEは未だ治療薬の選択肢が限られており、この研究成果が新しい治療法の開発に貢献することが期待されます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
幼少期に弟が重症の喘息だったため医師になり小児のアレルギーを専門としました
2)現在の専門分野に進んだ理由
医師になってから重症の消化管アレルギーの患者に会ったが診断や治療のコンセンサスが不明確だったため
3)この研究の将来性
本研究では好酸球性食道炎のリスク変異が組織特異的に疾患感受性に関わることを示し、新たな治療戦略を展開するための重要な知見となることが期待されている。また、本研究手法は他疾患の患者に適応できる可能性が高く有用性が高い。
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