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kei121318

[特別賞]矢部 貴大/マサチューセッツ工科大学

Takahiro Yabe, Ph.D.
[分野:工学]
コロナを経て社会ネットワークの分断が進んだことを発見
Nature Communications, 01-April-2023

概要
都市環境での人々の交流が築く社会ネットワークの経済的な多様性は、格差の軽減や経済的な流動性の向上に寄与することが知られている。しかし、新型コロナウイルスの流行に伴い、都市での行動制約が長期間続き、人々の生活様式や働き方が大きく変わった。これに伴い、社会ネットワークの性質も変わった可能性があるが、これについての研究はまだ行われていない。そこで、この研究ではアメリカの4つの都市で収集された100万人以上の携帯電話の位置情報を使い、パンデミック前、中、後の3年間にわたる社会ネットワークの変化を分析した。その結果、2021年末には人々の行動量はコロナ前の水準に戻った一方で、社会ネットワークの多様性が約15%減少したことがわかり、経済的な格差が広がった可能性が示唆された。多様性の低下の要因については、都市動態シミュレーションを用いて分析した。その結果、都市内での探索行動の減少や日常のルーティン行動の増加が、多様性の低下に寄与していることが明らかになった。この研究から、ポストコロナ社会においては、社会ネットワークの多様性を回復させるために都市計画や交通政策の見直しが急務であることが示唆される。

受賞者のコメント
特別賞に選んで頂きありがとうございます!ポスドク時代に時間をかけて取り組んだ論文を評価していただき、とても嬉しく思います。MITの恩師の先生方(Sandy Pentland教授、Esteban Moro教授、Xiaowen Dong教授)に報告し、全員でお祝いをさせていただきました。このような素晴らしい機会を与えてくださったUJAの皆様、メンターの先生方、そして解析や議論の手助けをしてくれてチームメンバー(Bernardo Garcia)に心から感謝しております。

審査員のコメント
庄司観 先生:
行動履歴に関するビッグデータによってCOVID-19に関する影響が調査されているが、本論文では長期的な社会ネットワークへの影響を調査しており、他の研究とは異なる観点での解析が非常に興味深く、社会へのインパクトも大きいものと思われます。携帯のモビリティーデータだけでは、完全に人々の行動を理解することは困難だと思われるので、今後、様々な観点からのデータを複合してパンデミックの影響を調べ、次に来るであろうパンデミックへの行動指針が提案されることを期待しています。また、応募者は本論文だけではなく、海外留学中にビッグデータに基づくインパクトの高い多くの論文を執筆し、キャリアアップに繋げており、是非とも論文賞を贈りたい。

南出将志 先生:
本論文は、現代社会において避けて通れない重大な話題である新型コロナウイルスのパンデミックと、それがもたらした社会構造の変化について深い洞察を示しています。特に注目すべきは、携帯電話の位置情報というビッグデータを用いることにより、社会科学の新たな研究手法を開拓した点です。この革新的なアプローチは、パンデミック前後の社会における変化を理解する上で重要な意味を持ちます。
さらに、本研究はパンデミックによってもたらされた、一見すると元の状態に戻ったように見える社会における微妙な変化を捉え、これまで明らかにされなかった社会ネットワークの側面を解明しました。この観点から、本研究はパンデミックが社会に与えた影響を理解する上で、貴重な寄与をしていると考えられます。
総じて、本研究は学術的にも社会的にも高い評価に値するものであり、今後のさらなる研究に大きな期待を寄せています。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
修士課程2年生の時に発災した熊本地震において、携帯電話の位置情報を用いて混雑している指定外避難所を推定する研究に取り組みました。その時に、社会に対して研究が持ちうるインパクトを目の当たりにし、災害・高齢化・地方衰退とさまざまな課題を抱える世界中の都市の未来に貢献をしたいと思ったのがきっかけです。
2)現在の専門分野に進んだ理由
携帯電話などのデバイスから大量の人の行動データが取得可能になり、これまでにない粒度と精度で都市動態をモデル化できることに魅力を感じました。同時に、急速なデジタル化によって新たに生じたり深刻化している社会課題(人々やコミュニティのつながりの希薄化、政治的な二極化、貧富の格差増大など)もたくさんあり、とてもやりがいのある分野だと思います。
3)この研究の将来性
気候変動による災害の多発やインフラ老朽化、更には次のパンデミックのリスクなど、都市はざまざまな課題を抱えています。本論文で利用したような行動ビッグデータと機械学習を用いて都市動態を理解・予測するデジタルツインを開発することで、未曾有のショックに対して備えるための都市政策や、発生後の復旧・復興計画を策定できる可能性があります。

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