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執筆者の写真Aki IIO-OGAWA

[特別賞]神前 拓平/ラッシュ大学

Takuhei Kozaki, M.D., Ph.D.
[分野:整形外科分野]
骨盤固定の強度が股関節の力学的負荷を増加させる
Spine, 15-October-2023

概要
成人脊柱変形(いわゆる腰曲がり)は高齢者の生活の質を低下させる脊椎疾患である。難治性腰痛と起立歩行障害を改善する有効な治療法として胸椎から骨盤に至る広範囲脊椎固定術が行われている。本法は高齢者の車いすや寝たきり生活を予防することが報告されている。一方で固定術により可動性のない脊椎を作ることになり、人体が脊柱不撓という極めて非生理的な状態に変容してしまう。実際に固定術後に変形性股関節症が新規発症もしくは進行する症例が散見されることを見出し世界で初めて報告した(Kozaki T, Eur Spine J 2021)。そして、脊柱不撓の代償作用として生じる隣接関節である股関節への機械的ストレスの増大が、この医原性合併症を誘発することを突き止め、『Long fusion後に生じる隣接関節障害』という新たな疾患概念を世界で初めて提唱した。またその危険因子として骨盤固定術の併用があげられ、一方で防御因子として骨盤固定術を行うS2 alar-iliac (AI) screwのゆるみがあげられた(Kozaki T, Eur Spine J 2022)。
しかしながら、上述の因子に関する生体力学的な裏付けがなされていないため、脊椎固定術の骨癒合率を改善させる目的で骨盤固定をより強固にさせる手術方法が選択されることがある。本研究の目的は腰椎固定術における骨盤固定の併用およびその強度が股関節に与える力学的負荷を比較し、二次性に発生する股関節症の予防につなげることである。
40歳、女性のComputed TomographyのデータをもとにL4椎体から骨盤、大腿骨にいたる正常有限要素(IN)モデルを作成した。本モデルから、L4-S1固定(S1F)モデル、L4-S2AI screw固定(S2F)モデル、S2AI screwを2本設置したL4-dual SAI screw固定(DSIF)モデル、S2AI screw周囲に1.5mmのゆるみを設置したL4-S2AI screwゆるみ(S2L)モデルを作成した。本モデルに400Nをかけたうえで10Nmの屈曲、伸展、側屈、回旋モーメントを加えたときに股関節軟骨にかかるvon Mises応力を計測した。結果は、屈曲、伸展、側屈、回旋いずれの場合においてもDSIFモデルで最も股関節の応力が増加しており、S2Fモデル、S2Lモデル、L4-S1モデル、INモデルと続いた。本結果から腰椎固定における骨盤固定の強度が増加することに比例して股関節軟骨に加わる力学的ストレスが増加し、変形性股関節症を惹起する可能性を示唆している。
臨床において骨盤固定は術後のアライメント維持のため回避することが困難である場合が多いが、本研究結果から必要以上の骨盤固定(dual S2 AI screw)を行うことは股関節に新たな病変を生み出すリスクがあり、可能な限り回避することが望ましいと考える。

受賞者のコメント
この度は名誉あるUJA特別賞をいただき誠にありがとうございます。本研究論文は小生がRush University Medical Centerでさせていただいた最初の研究になります。これまでわれわれは脊椎骨盤固定術後の変形性股関節症の病態が骨盤固定による隣接関節障害であることを提唱してきました。今回の研究は腰椎固定における骨盤固定の強度が上昇するにつれて股関節の応力が増加することを有限要素法を用いて示させていただきました。
 今後も本病態の解明と予防法の確立に向けて、研究を続けて参りたいと存じます。

審査員のコメント
牛久 智加良 先生:
脊柱変形手術で汎用されるSAIスクリューによる仙腸関節固定の弊害を示す有限要素解析を用いた研究です。筆者が提唱する『Long fusion後に生じる隣接関節障害』という新たな疾患概念は、現在盛んに行われるLong fusion手術に対し、脊椎外科医が向けるべき注意点を新たな方向に向けたと思います。SAIが緩んだ方が股関節にかかる負担は減少するという結果にはとても良く納得でき、Spine誌に値する論文だと思います。Limitationにも記載されていますが、有限要素解析法の解析を困難にする身体的要素が考慮されていない点、また本研究モデルの40歳女性(おそらく既存股関節変形が無いということから選ばれたと思いますが)が臨床的な一般的な背景と異なることが気になりました。高評価でしたが、より臨床的なインパクトが高いと判断された他候補者をより高く評価させていただきました。

長尾 正人 先生:
高齢者の脊椎固定術後の隣接関節障害を生体力学的なアプローチで行った研究です。近年、脊椎の多椎間固定術が多く行われていますが、その術後合併症のひとつである隣接関節障害を新しい視点から論じている論文だと思います。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
腰曲がりに対する手術を行ってまいりましたが、術後に新たに股関節の痛みで悩まれている患者さんを目の前にしました。これまで固定後の股関節症に関する報告はなく、自らで原因の解明と予防法を確立したいと考え、研究するようになりました。現在、新疾患概念として隣接関節障害を提唱して参りましたが、さらに予防法の確立に向けて今後も臨床と研究を続けて参りたいと考えています。
2)現在の専門分野に進んだ理由
脊椎外科は新たな病態を勉強する楽しみと学んだり研究で明らかとなったことを患者さんに還元することで感謝してもらえ、2重の喜びがあるからです。
3)この研究の将来性
腰曲がりの手術の臨床成績を向上させることができると考えています。
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