Jo Kubota2023年4月9日読了時間: 3分[特別賞]稲葉 理美/高エネルギー加速器研究機構更新日:2023年4月22日Satomi Inaba-Inoue, Ph.D.[分野:Disruptive innovation Basic Bioscience Award]Molecular mechanism of SbmA, a promiscuous transporter exploited by antimicrobial peptides (抗菌ペプチドトランスポータの新規構造と輸送機構の解明)Science Advances, September 2022概要 抗菌ペプチドは微生物が自然界での生存競争を有利にするための戦略分子として、生合成され細胞外に放出される。これらのペプチドには、細菌の膜にあるタンパク質の機能を騙して乗っ取り、細胞内に取り込ませるものが存在する。本研究対象のSbmAタンパク質は、グラム陰性細菌の内膜に存在するタンパク質であり、化学構造の異なる抗菌ペプチドの取り込みに関与することが示されていたが、その構造情報や詳細な輸送機構については長らく未解明であった。そこで本研究では、SbmAがどのようにして抗菌ペプチドを輸送するのかを明らかにすることを目的とした。 まずSbmAの立体構造決定を試みるべく、抗体と結合させた安定なSbmA-Fab複合体をスクリーニングし、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行った。その結果、SbmAの立体構造を3.2[A]の高分解能で決定することに成功し、SbmAの構造がこれまで報告されていない新規構造であることを初めて明らかにした。次に、人工リン脂質に再構成したSbmAを用いて、抗菌ペプチドの輸送能を解析する実験系を新たに立ち上げた。これにより、SbmAはプロトンをエネルギー源としてペプチドを輸送することを分子レベルで初めて示すことができた。さらに立体構造情報と変異体を用いた解析により、プロトン輸送に関わる部位を特定でき、詳細な輸送機構を明らかにすることができた。以上の結果より、SbmAタンパク質のペプチド輸送サイクルを考察し、今回明らかにした新規構造の特性を示すことができた。今後は、より「動き」に着目した研究を進め、「どのようにして化学構造の異なるペプチドを認識しているのか」を解明していきたい。受賞者のコメント 特別賞に選んでいただき光栄に思います。審査員の先生方や論文賞をオーガナイズされている方々に感謝の意を伝えたいです。審査員のコメント早野 元詞 先生: T抗菌ペプチドの輸送に関する分子機序の理解は創薬開発の観点からも非常に重要であるが、その立体構造と機序が理解されていなかったが、本研究は抗体を用いて安定化さることによって、SbmAの立体構造を明らかにし、新しい構造を示すとともに、機能性についても人工リン脂質と、再構成したSbmAを用いてペプチド輸送を高度かつ綺麗な実験によって証明している。今後は輸送するペプチドの種類、特徴、構造による違い、limitationに関する知見などに期待したい。 エピソード このプロジェクトは、コロナ禍に進めたものです。ロックダウンによる厳しい研究室へのアクセス制限などで、思うように研究が出来なくて焦った時期もありましたが、限られた時間を有効に活用し、また共同研究者とのチームワークをいかに築いていくかを学ぶことが出来たと思います。1)研究者を目指したきっかけ 幼少期に海外で過ごした経験があり、いつか海外で研究をしたいと思うようになりました。2)現在の専門分野に進んだ理由 生命現象を分子の視点から理解するということに興味があり、特にどのようにタンパク質が働くのか”動き”に着目することに興味を持っていました。なので、専門の生物物理学と構造生物学はぴったりな分野です。3)この研究の将来性 細菌感染症などに有用な抗菌剤が多く開発されてきた一方で、その薬剤耐性が世界的にも大きな問題になっています。今回構造を明らかにしたタンパク質がどのような特徴をもつ抗菌ペプチドを輸送するのかを引き続き調べていくことで、有用な抗菌剤の開発にもつながっていくと思っています。
Satomi Inaba-Inoue, Ph.D.[分野:Disruptive innovation Basic Bioscience Award]Molecular mechanism of SbmA, a promiscuous transporter exploited by antimicrobial peptides (抗菌ペプチドトランスポータの新規構造と輸送機構の解明)Science Advances, September 2022概要 抗菌ペプチドは微生物が自然界での生存競争を有利にするための戦略分子として、生合成され細胞外に放出される。これらのペプチドには、細菌の膜にあるタンパク質の機能を騙して乗っ取り、細胞内に取り込ませるものが存在する。本研究対象のSbmAタンパク質は、グラム陰性細菌の内膜に存在するタンパク質であり、化学構造の異なる抗菌ペプチドの取り込みに関与することが示されていたが、その構造情報や詳細な輸送機構については長らく未解明であった。そこで本研究では、SbmAがどのようにして抗菌ペプチドを輸送するのかを明らかにすることを目的とした。 まずSbmAの立体構造決定を試みるべく、抗体と結合させた安定なSbmA-Fab複合体をスクリーニングし、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を行った。その結果、SbmAの立体構造を3.2[A]の高分解能で決定することに成功し、SbmAの構造がこれまで報告されていない新規構造であることを初めて明らかにした。次に、人工リン脂質に再構成したSbmAを用いて、抗菌ペプチドの輸送能を解析する実験系を新たに立ち上げた。これにより、SbmAはプロトンをエネルギー源としてペプチドを輸送することを分子レベルで初めて示すことができた。さらに立体構造情報と変異体を用いた解析により、プロトン輸送に関わる部位を特定でき、詳細な輸送機構を明らかにすることができた。以上の結果より、SbmAタンパク質のペプチド輸送サイクルを考察し、今回明らかにした新規構造の特性を示すことができた。今後は、より「動き」に着目した研究を進め、「どのようにして化学構造の異なるペプチドを認識しているのか」を解明していきたい。受賞者のコメント 特別賞に選んでいただき光栄に思います。審査員の先生方や論文賞をオーガナイズされている方々に感謝の意を伝えたいです。審査員のコメント早野 元詞 先生: T抗菌ペプチドの輸送に関する分子機序の理解は創薬開発の観点からも非常に重要であるが、その立体構造と機序が理解されていなかったが、本研究は抗体を用いて安定化さることによって、SbmAの立体構造を明らかにし、新しい構造を示すとともに、機能性についても人工リン脂質と、再構成したSbmAを用いてペプチド輸送を高度かつ綺麗な実験によって証明している。今後は輸送するペプチドの種類、特徴、構造による違い、limitationに関する知見などに期待したい。 エピソード このプロジェクトは、コロナ禍に進めたものです。ロックダウンによる厳しい研究室へのアクセス制限などで、思うように研究が出来なくて焦った時期もありましたが、限られた時間を有効に活用し、また共同研究者とのチームワークをいかに築いていくかを学ぶことが出来たと思います。1)研究者を目指したきっかけ 幼少期に海外で過ごした経験があり、いつか海外で研究をしたいと思うようになりました。2)現在の専門分野に進んだ理由 生命現象を分子の視点から理解するということに興味があり、特にどのようにタンパク質が働くのか”動き”に着目することに興味を持っていました。なので、専門の生物物理学と構造生物学はぴったりな分野です。3)この研究の将来性 細菌感染症などに有用な抗菌剤が多く開発されてきた一方で、その薬剤耐性が世界的にも大きな問題になっています。今回構造を明らかにしたタンパク質がどのような特徴をもつ抗菌ペプチドを輸送するのかを引き続き調べていくことで、有用な抗菌剤の開発にもつながっていくと思っています。
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