top of page

[特別賞]筒井翼/空軍研究所

更新日:2023年4月22日

Tsubasa Tsutsui (William Taitano), Ph.D.

[分野:物理学]
(プラズマ運動論描写による慣性融合カプセルの爆縮計算の実証)
Journal of Computational Physics, 4 February 2022

概要
 無限のエネルギー源として注目され、半世紀の間開発が続く核融合反応炉。未だ解決に至らない課題が多く、その一つとして高温プラズマの閉じ込め及び制御の問題が挙げられる。この課題を解決すべく、世界では、高温のプラズマを強力な磁場で閉じ込める、いわゆる「磁場閉じ込め方式」及びプラズマの慣性を使い高温高密度の環境を作り出す「慣性閉じ込め方式」の二つのアプローチが進められている。
慣性閉じ込め方式の最先端の研究を行なっている米国ローレンスリヴァモア国立研究所にある国立点火施設(NIF)では、2009年より、重水素と三重水素の熱核融合燃料で満たされた慣性核融合(以下、「ICF」)カプセルの爆縮実験が始まり、2021年には、遂に、世界初の「プラズマの燃焼」の実証に成功した。
しかし、このような近年の成功とは裏腹に、未だに工学スケールにおける核融合プラズマの予測能力に疑問が残るのが現状である。ICFにおいて、プラズマ流体理論を用いた核融合実験の予想が主流である中、流体理論そのものがそもそも有効なモデルなのかが疑問視され始めている。荷電粒子の平均衝突距離及び衝突時間が、それぞれプラズマの巨視的物理量(例:密度、流体速度、温度等)の勾配距離及び特徴時間に等しい又は大きい場合、流体理論の重要な仮定が無効化し、より正確な確率分布関数(PDF)の進化予測を可能とする運動論描写が必要になる。
ICFカプセルの爆縮中、重要な段階で流体理論が無効になっているにも拘わらず、未だ流体理論が使い続けられる理由として、運動論プラズマの数値計算を工学スケールで有効化するのが困難である事が挙げられる。例として、衝突性運動論プラズマの第一原理モデルであるVlasov-Fokker-Planck(VFP)の式を既存の数値アルゴリズム及び典型的な爆縮実験のパラメータを用いた場合、不明値の数は10の31乗と天文学的な数値に達し、既存のハードでの計算は不可能になる。プラズマのPDFの進化を表す高次元偏微分方程式であるVFP(最大で6次元)を工学規模の爆縮計算で有効化するためには、離散化された数学モデルの不明値数の最小化を図らねばならない。この課題を克服すべく、この研究では、VFP運動論描写による慣性核融合カプセルのフルスケール爆縮計算を可能にするアルゴリズムを提示する。
本研究では、VFPモデルによるICFカプセルの球形爆縮計算を有効化すべく、位相空間にハイブリッド座標(位置空間を一次元の球形座標、そして速度空間を二次元の筒状座標で表す)を用い、尚且つ離散化された位相空間の メッシュを瞬間的、そして局所的なプラズマの状態に適応する物理ベースの手法を用いる。具体的には、プラズマの温度(PDFの分散値と比例する)が変化するのに応じて速度空間のメッシュの幅を変化させ、プラズマが局所的に加減速を経験するのに応じてメッシュの中心置を変化させるアプローチを用いる。同時に、位置空間のメッシュをプラズマの密度や圧力等に適応させるメッシュ進化の式を用いる、ハイブリッド位相空間適応メッシュの手法により、低温から高温へと変化するプラズマのPDFを固定されたロジカルメッシュで捉える事が可能になり、不明値数の最小化に成功した
さらには、この研究で開発された新数値法の応用により、核融合プラズマのように僅か10ナノ秒及び100ミクロンの空間で対象の温度が数万度から数十億度に変化するといった、古典的な流体描写が無効な物理現象の計算が可能になり、観測が非常に困難なシステムの理解向上に貢献した。

受賞者のコメント
UJA特別賞 は毎年、非常に質の高い論文だけが選ばれる名誉ある賞であり、自分がこの賞を受賞できるとは、まさか思ってもいなかったので、素直に喜びを感じています。核融合反応炉は、「常に30年後の技術」と言われてきましたが、世界中の研究者たちが70年近くにわたって取り組んできた地道な研究開発の成果により、ようやく「点火」に成功しました。今回の受賞により、核融合実験の最先端技術、課題、そして可能性をより多くの人に知ってもらえる機会になると思うと、興奮を抑えられません。

審査員のコメント
So Takei 先生:
The development of the numerical algorithm in this work may contribute to our understanding of the behavior of plasma fusion in the regimes where classical hydrodynamic models breakdown. With the breakthroughs that have come out of the field of nuclear fusion over the last several years, this work is very timely and may attact much attention of scientists in the field. It is a very nice work.

砂原淳 先生:
レーザー核融合爆縮過程を分布関数を用いて運動論的に解くことは容易ではなく、同分野の長年の課題であり続けている。応募者はこの容易ならざる課題に果敢にチャレンジし、数々の数値的手法を駆使して着実に成果を出していることは大いに評価される。本論文は応募者の研究者としての実力の高さを示しており、今後のさらなる研究の発展と研究者としての成功が大いに期待される。

エピソード
今回の受賞論文 は、私が大学院時代(2008年)からスタートし、継続してきた研究の成果 を記したものです。15年の間 、多くの挫折を乗り越え、様々なアプローチを試みながら一歩ずつ前進してきた結果、慣性核融合プラズマのEulerian運動論描写という、非常にニッチな分野ではあるものの、世界に類を見ない計算能力を手に入れることができました。これにより、核融合反応炉の開発に、些細ではあるものの、自分ならではのやり方で貢献ができるようになりました。また、今回の受賞は、本研究を支援してくださったすべての方々のおかげであり、うまくいかないことだらけの研究に諦めずに一緒に取り組み続けてくださったチームなしでは達成できなかったと思います。今回の受賞で、私のキャリアが 、周りの支えがあってのものであることを再認識させられました。

1)研究者を目指したきっかけ
学部時代に、担当教授の指導の下で数値磁性流体力学の研究を行いました。その教授から研究者の道を勧められたことが、私にとって大きなきっかけとなったと思ってます。

2)現在の専門分野に進んだ理由
一言で言えば、ロマンです。核融合反応炉の開発には、プラズマ物理学、コンピューターサイエンス、固体力学、量子物理学、微分幾何学、応用数学、数値物理、実験、理論 など、数えきれないほど多岐にわたる専門家の力が必要です。この複雑な問題を解決するために、人類の知恵を結集し、世界規模で同じ夢に70年近くにわたって挑戦し続けていることに、私はロマンを感じずにはいられませんでした。 また、数値物理の副専門を選んだのは、公式自体は昔から知られているにもかかわらず、 未だに満足のいく解が得られていない問題が幅広い分野で多く存在してることを知ったからです。同じ公式を近似して も、計算方法の精度によって予測が全く変わってしまうこと、そして核融合反応炉のような極めて複雑な装置の正確な予測には、限りなく多くの数値法の課題が残っていることが、当時大学院生だった私に深い印象を与えました。

3)この研究の将来性
今回、UJA特別賞 という非常に名誉な賞をいただき、光栄に思っています。この受賞を機に、より多くの留学生と次の世代の方々に核融合炉開発に興味を持っていただけたら幸いです。
閲覧数:347回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page