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執筆者の写真cheironinitiative

[特別賞] 篠澤忠紘 /Takeda Pharmaceutical Company Limited

Tadahiro Shinozawa, Ph.D.

肝オルガノイドを用いた肝障害評価モデルの確立

High-Fidelity Drug-Induced Liver Injury Screen Using Human Pluripotent Stem Cell–Derived Organoids

Gastroenterology

2020年10月8日


本稿では、薬物誘発性肝障害(Drug induced liver injury, DILI)を引き起こすリスクのある開発候補薬の同定するためのヒト肝臓オルガノイド(Human liver organoid, HLO)を用いた薬剤スクリーニングモデルの確立を報告しました。医薬品開発においてDILIは、有望な有効性を持つ開発候補薬の失敗に大きく影響し、患者の治療機会に対して大きな損失をもたらします。そのため、前臨床段階でのDILIリスクの同定は薬物開発における重要な課題であり、その予測システムの確立は複雑なDILIメカニズムと患者個人の薬物に対する感受性を研究するために極めて重要になります。

本研究では、10種類の多能性幹細胞株から生成されたHLOを解析し、HLOが胆管小管様構造を持ち、一方向の胆汁酸輸送経路が確立されているモデルであることを明らかにしました。また、シングルセルRNA-seqプロファイリングにより、肝臓を構成する複数の細胞種がHLOには含まれていることが示唆されました。HLOを用いた384ウェルベースの高速ライブイメージングプラットフォームは、生存率、胆汁うっ滞および/またはミトコンドリア毒性に着目したマルチプレックス検出が可能であり、238個の薬剤におけるDILIリスクを高い予測率で同定することに成功しました。また、同プラットフォームは、複数のiPSCを用いて、ボセンタン誘発性胆汁うっ滞に対する遺伝子型特異的感受性をモデル化できることを示唆しました。

以上より、本研究では肝臓オルガノイドベースのDILIスクリーニングモデルを世界で初めて確立し、同モデルは肝臓毒性学研究のために有用なアッセイシステムであり、化合物の最適化、毒性メカニズム研究、DILI個別化医療研究に有用であることを示しました。


受賞者のコメント:

この度は、このような栄誉ある賞を授与して頂きとても光栄です。私は企業より派遣され、1年と短い留学期間をCincinnati Children's Hospital Medical Centerで過ごさせて頂きましたが、武部貴則教授のご指導のもと、帰国後も当研究に携わせて頂き論文をまとめることができました。特に帰国後は、Co-1st authorの木村昌樹博士及びYuqi Cai博士の実験により、大きく研究内容が前進したため、その貢献が大きく反映された内容になっていると思います。本研究に関わられた多くの方々に心から感謝しております。今後もこの研究で得られた経験を糧として、研究活動を行っていきたいと思います。この度は、誠にありがとうございました。


審査員のコメント:

ヒト肝臓オルガノイドの作製法自体にはまだ改良の余地が残されているようだが、薬剤スクリーニングモデルとしての有望性は網羅的な遺伝子発現解析とオルガノイドの機能評価実験を通してしっかりと示されている。(本間先生)


この研究により、今後効率よく薬剤のスクリーニングが行われることが期待されます。また、同システムはスクリーニングのみならず肝臓毒性学研究のためにも有用であることが示されています。(荒木先生)


本研究は、医薬品開発における重要な問題にたいし、cutting-edgeのテクニックを用いて、優れた肝臓オルガノイドスクリーニングモデルを確立し、今後の臨床応用に非常に期待が持てるインパクトの高い研究論文である。さらに専門外の研究者にもわかりやすい論文である。(橋詰先生) エピソード: 私は企業の研究者として、Cincinnati Children's Hospital Medical Centerにて留学生活をさせて頂いたのですが、私の場合は、「留学は1年限り、1日も延長できない」と会社から言われおりましたため、留学中に小さな論文でも出せれば、、と始めは思っておりました。しかしながら、今回手掛けさせて頂いた肝オルガノイドと出会い、このオルガノイドはどのような機能・形態を持つのか、どのような応用に使えるのか、他のオルガノイドと共培養したらどうなるのか、、と夢は広がり、1年では収まりきらない実験になってしまいました。研究の中では、留学先の皆さんとの議論はとても楽しく、特に浅井先生からお話しを日々頂けたことは、研究の意義を深く考えるうえで重要な要素になりました。結局のところ私が帰国してから多くの追加実験をして頂き、請謁ながらまとめさせて頂く流れとなりましたが、研究課題だけでなく、このような皆さんと共に過ごせ、また帰国後も武部先生に長期にわたりご指導いただけたこと自体が本当に幸運でした。

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