Jo Kubota2023年4月9日読了時間: 4分[特別賞]谷口紗貴子/慶應義塾大学 Sakiko Taniguchi, Ph.D.[分野:イリノイ]The antiseizure drug perampanel is a subunit-selective negative allosteric modulator of kainate receptors (抗発作薬ペランパネルはカイニン酸受容体を阻害する)The Journal of Neuroscience, 1 July 2022概要 ペランパネルは部分発作および強直間代発作の治療に用いられる第三世代抗てんかん薬であり、日本では2016年より製造・販売が認可されている。ペランパネルの抗発作作用はイオンチャネル型グルタミン酸受容体の一つであり中枢および末梢神経系の興奮性神経伝達の多くを担う、AMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)を選択的に阻害することによるとされてきた。しかし、AMPA受容体とペランパネルの結合に重要と考えられるアミノ酸残基の多くは同じイオンチャネル型グルタミン酸受容体ファミリーに属するカイニン酸型グルタミン酸受容体(カイニン酸受容体)のサブユニット、GluK4とGluK5においても保存されていた。そこで我々はペランパネルのカイニン酸受容体に対する作用を検討し、①ペランパネルがカイニン酸受容体を阻害し、②その阻害作用にはGluK5サブユニットが必要であることを示した。 まずリコンビナント受容体を用いた検討によりペランパネルはGluK5サブユニットを含むヘテロメリック受容体を阻害し、そのIC50はAMPA受容体と同程度であることを明らかにした。さらにカイニン酸受容体の補助サブユニットであるNeto1とNeto2はカイニン酸受容体のペランパネル感受性を増加させることが明らかとなった。最後にマウス神経細胞を用いて生体内のカイニン酸受容体に対するペランパネルの作用を検討した。海馬CA3苔状線維シナプスおよび脊髄後根神経節神経細胞に発現するカイニン酸受容体はGluK5とNetoを構成要素とすることが知られている。リコンビナント受容体での結果と一致して、ペランパネルはこれら2種類のカイニン酸受容体を阻害した。 以上の結果はペランパネルの臨床効果がAMPA受容体のみならずカイニン酸受容体の阻害を介して生じている可能性を示唆している。ペランパネルはこれまでAMPA受容体の強力な選択的非競合的拮抗薬とされ、作用機序に基づいた副作用も多数確認されている。今後AMPA受容体とカイニン酸受容体の選択性の向上を目的とした創薬研究を行うことで、より治療効果が大きく副作用の少ない治療薬の開発につながることが期待される。受賞者のコメント 賞を頂けると思っていなかったので大変驚いています。研究のみならずシカゴでの生活を常に支えてくださったボス、研究室の皆様に感謝申し上げます。またNUJRAをはじめとする運営の方々にも感謝申し上げます。審査員のコメント本間和明 先生: 薬剤の標的分子に対する結合選択性は副作用の併発を引き起こさずに特定の病状を緩和・排除する上で重要なファクターである。この論文は抗てんかん薬として日本でも製造・販売が認可されているぺランパネル(PMP)のグルタミン酸受容体に対する選択性に関するもので、PMPがAMPA受容体のみならずKainate受容体をも阻害することを報告するものである。著者らは受容体や補助サブユニットのコンストラクトを様々な組み合わせで発現させたHEK細胞を用いてPMPのグルタミン酸受容体阻害効果を定量的に調べ上げ、更にマウスの神経細胞を用いてPMPがKainate受容体を阻害することを確認している。PMPの結合選択性がどのような構造ファクターによって決まるのかに関しては完全解明に至っていないが、本研究室で得られた知見はPMPが抗てんかん薬として働く分子メカニズムや副作用が生じる理由を解明する上で非常に重要なものである。 エピソード この論文のプロジェクトはCOVID-19パンデミックの後、研究活動が再開し始めた夏頃に始まりました。2020年の秋頃には非常に興味深いデータが取れ、「すぐに論文になりそうだ!」と盛り上がったのですが、その後実験が突然うまくいかなくなり、投稿まであと一息というところでストップしてしまいました。トラブルシューティングは半年にも及び、実験が進まない日が続きました。2021年の秋に帰国することが決まった夏頃、「アメリカでの研究がこのまま中途半端に終わってしまったら今後挫折したときも乗り越えられなくなりそうだ。アメリカでの問題はアメリカで解決して帰国しよう」と奮起し、できることをすべてやると決めて実験に取り組んだところ原因が判明し、解決。そこから帰国までの2か月間、必死で残りの実験をやり遂げました。あの時強い気持ちを持てたことが今につながっていると思います。1)研究者を目指したきっかけ 学部生の卒業研究に取り組んでいた時にもう少し続けてみたいと思ったから2)現在の専門分野に進んだ理由 大学3年生の研究室オリエンテーションで「生きた細胞の反応を、リアルタイムで記録するという電気生理学のおもしろさ」に惹かれたとき。3)この研究の将来性 より効果的で副作用の少ない抗てんかん薬の開発
Sakiko Taniguchi, Ph.D.[分野:イリノイ]The antiseizure drug perampanel is a subunit-selective negative allosteric modulator of kainate receptors (抗発作薬ペランパネルはカイニン酸受容体を阻害する)The Journal of Neuroscience, 1 July 2022概要 ペランパネルは部分発作および強直間代発作の治療に用いられる第三世代抗てんかん薬であり、日本では2016年より製造・販売が認可されている。ペランパネルの抗発作作用はイオンチャネル型グルタミン酸受容体の一つであり中枢および末梢神経系の興奮性神経伝達の多くを担う、AMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)を選択的に阻害することによるとされてきた。しかし、AMPA受容体とペランパネルの結合に重要と考えられるアミノ酸残基の多くは同じイオンチャネル型グルタミン酸受容体ファミリーに属するカイニン酸型グルタミン酸受容体(カイニン酸受容体)のサブユニット、GluK4とGluK5においても保存されていた。そこで我々はペランパネルのカイニン酸受容体に対する作用を検討し、①ペランパネルがカイニン酸受容体を阻害し、②その阻害作用にはGluK5サブユニットが必要であることを示した。 まずリコンビナント受容体を用いた検討によりペランパネルはGluK5サブユニットを含むヘテロメリック受容体を阻害し、そのIC50はAMPA受容体と同程度であることを明らかにした。さらにカイニン酸受容体の補助サブユニットであるNeto1とNeto2はカイニン酸受容体のペランパネル感受性を増加させることが明らかとなった。最後にマウス神経細胞を用いて生体内のカイニン酸受容体に対するペランパネルの作用を検討した。海馬CA3苔状線維シナプスおよび脊髄後根神経節神経細胞に発現するカイニン酸受容体はGluK5とNetoを構成要素とすることが知られている。リコンビナント受容体での結果と一致して、ペランパネルはこれら2種類のカイニン酸受容体を阻害した。 以上の結果はペランパネルの臨床効果がAMPA受容体のみならずカイニン酸受容体の阻害を介して生じている可能性を示唆している。ペランパネルはこれまでAMPA受容体の強力な選択的非競合的拮抗薬とされ、作用機序に基づいた副作用も多数確認されている。今後AMPA受容体とカイニン酸受容体の選択性の向上を目的とした創薬研究を行うことで、より治療効果が大きく副作用の少ない治療薬の開発につながることが期待される。受賞者のコメント 賞を頂けると思っていなかったので大変驚いています。研究のみならずシカゴでの生活を常に支えてくださったボス、研究室の皆様に感謝申し上げます。またNUJRAをはじめとする運営の方々にも感謝申し上げます。審査員のコメント本間和明 先生: 薬剤の標的分子に対する結合選択性は副作用の併発を引き起こさずに特定の病状を緩和・排除する上で重要なファクターである。この論文は抗てんかん薬として日本でも製造・販売が認可されているぺランパネル(PMP)のグルタミン酸受容体に対する選択性に関するもので、PMPがAMPA受容体のみならずKainate受容体をも阻害することを報告するものである。著者らは受容体や補助サブユニットのコンストラクトを様々な組み合わせで発現させたHEK細胞を用いてPMPのグルタミン酸受容体阻害効果を定量的に調べ上げ、更にマウスの神経細胞を用いてPMPがKainate受容体を阻害することを確認している。PMPの結合選択性がどのような構造ファクターによって決まるのかに関しては完全解明に至っていないが、本研究室で得られた知見はPMPが抗てんかん薬として働く分子メカニズムや副作用が生じる理由を解明する上で非常に重要なものである。 エピソード この論文のプロジェクトはCOVID-19パンデミックの後、研究活動が再開し始めた夏頃に始まりました。2020年の秋頃には非常に興味深いデータが取れ、「すぐに論文になりそうだ!」と盛り上がったのですが、その後実験が突然うまくいかなくなり、投稿まであと一息というところでストップしてしまいました。トラブルシューティングは半年にも及び、実験が進まない日が続きました。2021年の秋に帰国することが決まった夏頃、「アメリカでの研究がこのまま中途半端に終わってしまったら今後挫折したときも乗り越えられなくなりそうだ。アメリカでの問題はアメリカで解決して帰国しよう」と奮起し、できることをすべてやると決めて実験に取り組んだところ原因が判明し、解決。そこから帰国までの2か月間、必死で残りの実験をやり遂げました。あの時強い気持ちを持てたことが今につながっていると思います。1)研究者を目指したきっかけ 学部生の卒業研究に取り組んでいた時にもう少し続けてみたいと思ったから2)現在の専門分野に進んだ理由 大学3年生の研究室オリエンテーションで「生きた細胞の反応を、リアルタイムで記録するという電気生理学のおもしろさ」に惹かれたとき。3)この研究の将来性 より効果的で副作用の少ない抗てんかん薬の開発
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