[特別賞]長谷川喜弘/札幌医科大学
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 5分
Yoshihiro Hasegawa, M.D., Ph.D.
[分野:オハイオ]
論文リンク
論文タイトル Pulmonary osteoclast-like cells in silica induced pulmonary fibrosis Short Title: Lung Osteoclasts in Silicosis
掲載雑誌名
Science Advances
論文内容
じん肺症は粉じんの吸引により進行性・不可逆性の肺線維症を引き起こす職業性肺疾患で、世界的に増加の一途をたどっている。じん肺症の中で最多である珪肺症は、シリカ粒子の吸引が原因であるが、肺線維症を発症する機序は不明で根本的な治療法は存在しない。我々はこれまでに、ナトリウムリン酸共輸送体遺伝子変異が原因の稀少疾患である肺胞微石症において、肺胞腔内に破骨細胞様の多核巨細胞(肺破骨細胞とする)が存在し、蓄積したリン酸カルシウム結石の分解を担うことを報告した。そこで、肺破骨細胞への分化はリン酸カルシウム結石に対して特異的なものではなく、下気道に存在する無機粒子へのステレオタイプな反応ではないかと考えた。本研究では、珪肺症の患者の肺検体と珪肺症モデルマウスを用いて、シングルセルRNA解析、組織学的、生化学的、生理学的評価といった複数の手法を組み合わせて、シリカによる肺線維症の発症機序の解明を試みた。その結果、シリカ粒子への暴露は肺胞マクロファージや単球を肺破骨細胞へ分化誘導することがわかった。この現象は、破骨細胞の形成に必須のサイトカインである破骨細胞分化誘導因子(RANKL)の作用によるものであり、肺内の活性化したリンパ球がRANKLの産生を担うことが明らかになった。また、珪肺症モデルマウスから分離した肺破骨細胞を骨切片上で培養すると、骨表面を融解しピットを形成することから、骨吸収能を有することが示された。さらに、珪肺症モデルマウスへ抗RANKLモノクローナル抗体を投与すると、肺破骨細胞への分化が阻害されただけでなく、肺線維症の進行が抑制された。以上より、シリカ粒子の暴露によってRANKL依存性に肺破骨細胞への分化が誘導され、肺破骨細胞が分泌する酸やタンパク分解酵素が進行性の肺損傷および肺線維症を引き起こすと結論付けた。抗RANKLモノクローナル抗体によって肺破骨細胞への分化を阻害することは、珪肺症における肺障害を緩和するための有望な治療戦略となり得ると考えられた。
受賞者のコメント
この度は特別賞を賜り、大変嬉しく思います。留学中は研究、生活において多くの方々に助けていただきました。お世話になった方々に心より感謝申し上げます。
審査員コメント
児島 克明先生
この研究は、患者検体とモデルマウスを巧みに組み合わせることで、珪肺症における肺破骨細胞の重要性を明確に示し、臨床への橋渡し研究として極めて質の高い成果を上げています。特に、抗RANKLモノクローナル抗体による治療効果の実証は、これまで有効な治療法のなかった珪肺症患者さんに対する画期的な治療戦略の確立に向けた大きな一歩となる素晴らしい発見だと評価できます。
岩澤 絵梨先生
シリカ粒子への暴露により肺のMyeloid cellsを破骨細胞様細胞(POLC)へ分化誘導すること、それが活性化したリンパ球をソースとしてRANKLを介したものであることをマウス、さらにヒト検体で証明した、非常に重要な論文です。抗RANKLモノクローナル抗体による肺線維化の抑制を示したことは、臨床応用しうる大変有用な実験であると考えられます。
中村 純先生
粉塵に含まれるシリカ粒子が、肺マクロファージに破骨細胞様分化を引き起こすことが肺線維症の発症原因になることを同定された重要な論文と評価いたしました。シリカ粒子による破骨細胞様分化には肺胞2型上皮細胞で発現上昇したRANKLが関わることをscRNA-seq解析から同定され、またAnti-RANKLが肺線維症の症状を抑えることも示されるなど、新しい治療法の開発に向けて大きな成果を挙げられたと感じました。
中村 能久先生
シリコーシスは治療法がほとんどなく、その病態メカニズムも十分に解明されていない疾患です。本研究では、シリコーシスモデルマウスの構築と解析を通じて、肺内のオステオクラスト様細胞の役割を明らかにし、肺炎症および線維症との関連を示した点で非常に新規性が高いといえます。また、scRNA-seqデータや分子生物学的解析を活用し、肺のオステオクラス様細胞の分化がRANKLによって誘導されることを解明しました。さらに、抗RANKL抗体による治療がオステオクラス様細胞の分化を抑制し、肺線維症を軽減する可能性を示した点は画期的な成果です。本研究は、シリコーシス研究において大きな進歩であり、特にRANKLをターゲットとした治療の可能性を示唆しています。今後のヒト臨床試験への移行や、治療の長期的な効果の検証が期待され、とても楽しみです。
水野 知行先生
本論文では、ヒト肺サンプルとマウスモデルを用いて、シリカ曝露がどのように肺線維症を引き起こすのか、そのメカニズムを包括的に解析しています。研究の結果、シリカ曝露が破骨細胞分化誘導因子(RANKL)の活性化を促し、これにより肺内でマクロファージが肺破骨細胞へと変化し、肺線維症の進行に影響を与えることが明らかになりました。さらに、マウスモデルの実験から、抗RANKLモノクローナル抗体がシリカ誘発性肺線維化の治療に効果を示す可能性が確認されました。シリコーシスは不可逆性の疾患であり、現時点で十分な治療法が確立されていないため、この研究成果が将来的な新しい治療法の開発に結びつくことが期待されます。
エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
臨床において医学の限界を感じたため
2)現在の専門分野に進んだ理由
生死に関わる診療科に魅力を感じたため
3)この研究の将来性 肺線維症の新しい治療法につながる可能性があります
4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします
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