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[論文賞]中村健/日本海総合病院

Ken Nakamura M.D., Ph.D.

[分野:北カリフォルニア]


論文リンク



論文タイトル

Lineage-Specific Induced Pluripotent Stem Cell–Derived Smooth Muscle Cell Modeling PredictsIntegrin Alpha-V Antagonism Reduces Aortic RootAneurysm Formation in Marfan Syndrome Mice


掲載雑誌名

Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology


論文内容

マルファン症候群(MFS)の患者では若年で大動脈基部が瘤化し大動脈破裂や大動脈解離の発症により死亡する危険がある。これらに対する治療は外科的な人工血管置換術が現在唯一の方法であるが、緊急手術となる場合も多く患者の生命に危険を与え多大な侵襲が加わる治療となる。今回我々はこのMFSの基部瘤化を防ぐ可能性がある治療薬を発見し、in vitroおよび in vivoで瘤化の抑制およびそのメカニズムを解明するに至った。さらにはscRNA-Seqによる遺伝的解析を加え、これまでの研究からMFSの瘤化にかかわるとされるModurated cellの分化を抑えphenotypeの変化にも影響を与える可能性が示唆され、遺伝的なメカニズムの解明についても探求を行った。

インテグリンαvの下流標的(FAK/AktThr308/mTORC1)は、特にマルファン患者のsecond heart field(MFS SHF)由来iPSCにおいて活性化されておりこれにインテグリンαvアンタゴニストGLPG0187を投与すると、MFS SHFのp-FAK/p-AktThr308/mTORC1活性が低下し、コントロールSHFレベルに戻った。機能的には、MFS SHF 血管平滑筋細胞(SMC)は、MFS Neural Crest (NC)由来SMCおよびコントロールSMCと比較して、増殖および遊走能が増加し、これはGLPG0187処理によって抑制された。Fbn1C1039G/+ MFSマウスモデルでは、インテグリンαv、p-AktThr308、およびmTORC1タンパク質の発現量がコントロールと比較して大動脈基部/上行部で上昇していた。GLPG0187を投与したマウス(6-14週齢)では、動脈瘤の成長、エラスチンの断片化が抑制され、FAK/AktThr308/mTORC1経路が正常化した。GLPG0187を用いたインテグリンαvのブロックはMFS動脈瘤の成長を抑制する治療アプローチである可能性がある。


受賞者のコメント

このような素晴らしい賞をいただけることになり大変嬉しく思っております。ありがとうございました。

審査員コメント


西賀 雅隆先生

Marfan症候群患者由来のiPS細胞およびMarfanマウスモデルを用いて、Integrin αvの阻害薬が大動脈基部の瘤化を抑制できる可能性を示した論文。瘤ができてから外科的手術でに人工血管に置換する以外に治療法のない疾患であるが、このIntegrin αvの阻害薬が瘤の発生を手術ではなく薬で予防・抑制できる点で有意義であり、GLPG0187は既にがん領域において臨床試験がされている薬であるので、将来的な臨床応用の可能性がある。Integrinを阻害することによる副作用や他のIntegrin阻害薬の検討が期待される。


池田 源太郎先生

現在のマルファン症候群(MFS)治療は、大動脈瘤の進行抑制と合併症予防を主な目的としていますが、根治的な治療法は未だ確立されておらず、その効果には限界があります。既存の治療法であるβ遮断薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は一部の患者に効果を示すものの、臨床試験の結果は一貫しておらず、患者の遺伝的背景や変異型による治療反応の違いが大きな課題となっています。

こうした課題を解決するため、応募者はスタンフォード大学心臓血管外科のFischbein研究室において、MFSに対する新しい治療薬の開発とその有効性の検証を行い、筆頭著者として論文を発表しました。本研究では、マウスモデルと患者由来iPS細胞から分化させた平滑筋細胞(SMC)を用い、インテグリンαv拮抗薬の治療効果を詳細に検証しています。

動物モデルでは、治療薬の全身および組織レベルでの効果を評価し、特にsingle-cell RNAシーケンシングを活用して、インテグリンαv拮抗薬がSMCの病的な遺伝子発現変化を抑制することを明らかにしました。一方、患者由来のiPS細胞モデルでは、患者固有の病態や治療反応を検証し、実臨床への応用可能性を示唆しています。

研究遂行においては、マウスの繁殖管理や8~10週間にわたる治療実験(薬剤の連日投与)といった長期的かつ負担の大きいプロセスを含みました。また、ウェスタンブロットを用いたシグナル伝達変化の詳細な検証が行われており、その丁寧さには感銘を受けるとともに、多大な努力を要したことが容易に想像されます。

本研究は、MFSの病態生理を直接標的化する新たな治療戦略の可能性を示す重要な一歩であり、橋渡し研究として極めて質が高い成果といえます。この多層的かつ精緻なアプローチは、将来的に根治的な治療法の開発へとつながる大きな意義を持つものと評価されるべきです。


エピソード

色々な困難を経験すると思いますが恐れず挑戦してみてください


1)研究者を目指したきっかけ

普段見ている世界より深いところを見てみたいと思ったから


2)現在の専門分野に進んだ理由

命に直接関わる感覚がありやりがいを感じたから


3)この研究の将来性

今まで手術でしか治療をすることができなかった患者さんが薬で治療をすることができる可能性がある


4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします

このような素晴らしい賞をいただけることになり大変嬉しく思っております。ありがとうございました。

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