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執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]中田聡/群馬大学

Satoshi Nakata, M.D., Ph.D.

[分野:がん]
(小児悪性脳腫瘍(髄芽腫)において化学療法の効果を高める遺伝子を特定)
Neuro-Oncology, 23 October 2022

概要
 髄芽腫は小児の小脳に好発する悪性脳腫瘍である. 全脳全脊髄照射と大量化学療法を組み合わせ, 5年生存率は70-85%程度まで改善してきたが, 治療関連の認知機能低下, 二次癌の発生が, 長期生存者で問題となる. 予後不良例を救済する新規治療戦略, 予後良好例への適切な治療強度の選択が, 同時に求められている.
我々は髄芽腫において、1) Schlafen (SLFN) ファミリーのメンバーの 1 つ, SLFN11が単独で、既存の33の予後予測因子を大幅に上回る予後予測能を有すること、2) WNT signaling pathwayの活性化を伴う予後良好な一群で特に強い発現が見られること、3) SLFN11発現がプロモーター領域の特定のCpGメチル化と強く相関すること、以上の3点を、データベースの網羅的解析及び多施設からの新規検体の解析を通して示した。また、患者由来細胞株、同所性異種移植モデルを用いた実験から、3) SLFN11の強制発現/ ノックアウトがそれぞれDNA障害型抗がん剤への感受性を上昇/ 低下させること、4) HDAC阻害剤によるSLFN11アップレギュレーションがDNA障害型抗がん剤への感受性を上昇させること、の2点を示した。
本研究の結果は髄芽腫の実臨床において大きなインパクトがあるものと考えられる。SLFN11発現量は免疫染色で精度良く評価可能であり、今後は個々の髄芽腫症例で術後早期に化学療法の感受性を予測することができる。その上で、SLFN11陽性の化学療法感受例に対しては照射線量を減量し晩期合併症を軽減、SLFN11陰性の化学療法抵抗例に対してはHDAC阻害剤を併用することでDNA傷害型抗がん剤治療への感受性を回復させる、という新たな戦略をとることが可能となる。今後更なる検証が必要と考えており、現在日本で行われているMB19試験の評価項目の一つとして組み入れが可能か、中央病理診断担当者と議論を重ねている。

受賞者のコメント
UJA論文賞に選んで頂きありがとうございます。苦心続きの米国留学の中、日米仏の先生方に支えられて、ようやく結果が出せた研究です。特に新潟大学の棗田先生、慶應義塾大学/NIHの村井先生には大変お世話になりました。
結果が出なかった研究の中でも、諦めずにin silicoの解析手法を学び、実験技術のbrush upに努めた、その成果でもあります。アラバマ大学の大須賀先生にはそんな悩みを、フィラデルフィアの卓球場で聞いて頂いた事もありました。若手の先生方も、是非UJAの輪を生かして、諦めずに研究を続けて頂きたいです。
今後も、脳腫瘍の臨床とoncologyの基礎を繋げる研究を続け、米国留学を志す研究者の後押しが出来ればと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

審査員のコメント
園下将大 先生:
本研究は、悪性脳腫瘍である髄芽腫に注目したものである。申請者は予後マーカー候補としてSLFN11を同定したほか、その発現がプロモーター領域のメチル化に依存する可能性があること、CDXゼノグラフトでSLFN11の発現がDNA障害型抗がん剤に対する応答と正の相関を示すこと等を見出した。これらの成果は患者層別化および新規治療薬の創出につながる可能性があり、臨床応用に向け今後の研究の一層の進展を期待したい。

平田英周 先生:
SLFN11の発現が髄芽腫の予後と相関すること、SLFN11高発現細胞は抗がん剤に対して感受性を示すことを明らかにした論文です。髄芽腫の治療戦略策定に影響を与えうる重要な報告であり、サブセットごとの詳細な解析を含め、今後の研究発展が大いに期待される研究成果です。

山田かおり 先生:
既存のデータベースから髄芽腫の予後不良でSLFN11の発現が少ないことを発見し、SLFN11の発現量とシスプラチンへの感受性の関連性を培養細胞と動物実験で示している、素晴らしい論文である。SLFN11の発現を上げることで髄芽腫の化学療法の効果を上げる臨床応用が期待される。

エピソード
私は米国留学者の中でも、(主に自分の世間知らず、コミュ障のために)苦労した方だと自負しています。留学当初、知り合いの日本人はおらず、誰に実験を教わって良いか分からず、実験書とインターネット(Bio Technicalフォーラム)を頼りに、プロトコールの組み立て、ラボに残る古い試薬を試して使えるものを選別、という所から始めていました。どうしても分からない時は、紙に質問点を書いて、周りの人に見せて回って、答えてくれる人を探す、ということを繰り返していました。英語はほとんど聞き取れなかったため、書いて貰うか、複数の人に同じ質問をして、確証を得るようにしていました。
留学半年後に転機があり、当時ラボ内で難しいとされていた、D425髄芽腫細胞株のc-MYC遺伝子のノックダウンに成功、ヒストン蛋白の脱メチル化を示す綺麗なウェスタンブロットを仕上げ、皆に認めて貰えるようになりました。脳外科医時代の粘り強さが役に立ったと思っています。
その後も、助言を求めるのが下手なためにプロジェクトは失敗続きでしたが、自分なりの工夫は楽しくて、研究を苦しいと思うことはありませんでした。
留学を目指している方で、自分のような人間は希少だと思いますが、「まあ何とかなるものだ」という一例になれば幸いです。

1)研究者を目指したきっかけ
脳神経外科医として脳腫瘍の診療に当たっているうちに、手術だけではダメだ、と強く思うようになりました。特に脳腫瘍の分野は、治療薬が限られているのが現状です。希少癌でもあり、他分野の最新知識を脳腫瘍に応用する研究者の絶対数が足りていないのも問題だと思いました。そんな橋渡し役になりたい、と思ったのが研究者を目指した切っ掛けです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
高校生の頃から、脳に興味がありました。その中で、実際に脳に触れて、手術前後のdrasticな神経機能、精神状態の変化を体感できる、脳神経外科という職業を選びました。

3)この研究の将来性
小児脳腫瘍は、それ自体が難治であるばかりでなく、運良く完治しても治療に関連した脳機能の低下が、生涯にわたる問題となる腫瘍です。私達の研究が発展し、手術後早期に、適切な強度の治療を選べる、さらに既存の治療を強化する新たな薬剤が選択できる、そんな未来を想像しています。
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