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[論文賞]井上 己音/シンシナティ小児病院

Oto Inoue, MD, PhD
[分野:オハイオ]
ヒト幹細胞ソースにおける血管新生サブセットの同定
Cell Reports Medicine

概要
ヒト成人個体が有する体性・間葉系幹細胞は、早期に有用な再生医療ツールとしてすでに多数の臨床試験が世界的に行われている。しかし、広く用いられている細胞グラフトは雑多な幹細胞・前駆細胞サブセットを含んでおり、一体どの細胞サブセットが治療効果を発揮するのかは多くの領域で不明なままである。移植した細胞が対象臓器に生着するのか、どのような機構でそれが担保されるのかも確立されていない。更に、その有効な細胞群をどのドナーが豊富に保有しているのかもまた不明である。実際に、有意な効果を示さない細胞治療の臨床試験を散見するようになって久しい。
著者は虚血性心血管病に対する血管新生療法に注目し研究を開始した。当初は、先行研究領域(造血幹細胞移植など)で報告のあった細胞表面マーカーを用いていくつかの細胞サブセットに着目し、細胞分離・樹立の上で血管新生能を評価していた。そのようなヒット・アンド・トライ戦略では、非常に多様なヒト間葉系幹細胞分画のどれが最も高い血管新生能を有するか不明であった。そこですでに臨床応用されているヒト幹細胞ソース(骨髄・臍帯血・皮下脂肪)のシングルセル解析を通じて、最も高い血管新生プロファイルを示す細胞クラスターを脂肪内に見出した。同クラスターに特異的なDEGから細胞表面マーカーを抽出し、血管新生クラスターの分離効率によってランキングし、既存のマーカー(50-60%)に比して格段に高い分離効率(<95%)を有するマーカーCD271を同定した。脂肪由来CD271+細胞は骨髄や臍帯血内のCD271+細胞とも異なり特異的に高い血管新生プロファイルを持ち、 異種移植モデルにおいてCD271-分画、あるいはすでに臨床試験で用いられている未分画脂肪幹細胞と比較して高い血管新生能を有することを発見した。同モデルにおいてCD271+細胞の長期生着能も確認し、この現象にNGF/CD271/mTOR連関が重要であることを同定した。このCD271+細胞は、インスリン抵抗性患者において数的・質的に劣化する。しかし、CD271を用いてグラフトを樹立することで、インスリン抵抗性患者においても血管新生効果をある程度リカバリーすることにも成功した。今後、臨床応用へ向けての検討・知見を学び集積したい。

受賞者のコメント
いつも想像を超えた提案をくれるボスのJuan、とある冗談でシングルセル解析を後押ししてくれた前同僚のManasi、勇気と知恵しかくれない神メンターのVivian、隣のラボからいつも助けてくれる憧れのPI Taka Nakamura、“この細胞ドナーごとに違うんじゃない?”と奇跡の気づきをくれた金沢大学の薄井先生、“おまえ、俺んとこ”と再生研究に引き抜いてくれた高村教授、腕はいいのに少しでも実験に失敗するとへこみがちなかわいい後輩院生2人、そして今この時も実臨床を支えてくれている母校の100人の同僚達に感謝しています。こちらの賞応募を紹介して下さった正田さん・松山さん、UC tomorrowとUJA運営の方々にも感謝申し上げます。最後に、本当に面白い研究で刺激をくれるシンシナティのみなさん、夜な夜な家族サービスそっちのけで解析を許してくれた家族にも感謝を述べたいです!
私達はなるべく早期に本研究の臨床導入を目指しています。この賞を契機に同じような挑戦をされている方とつながりができると大変嬉しいです。

審査員のコメント
Makiko Iwafuchi 先生:
シングルセルトランスクリプトームを最大限に活用し、効率よく血管新生幹細胞サブセットのマーカーを同定し、移植モデルにおける分画細胞の血管新生能の評価、分子機構の解明まで成し遂げた包括的な研究である。さらに、インスリン抵抗性患者への応用効果も示しており、その重要性、そして今後のさらなる応用が大いに期待できる。

荒木 幸一 先生:
様々な細胞が混在したヒト幹細胞ソースをSingle cell RNA-seq解析することにより、血管新生能力の高い細胞集団が脂肪内に存在することを発見した論文です。この細胞集団は、CD271を発現し、このマーカーを用いて今後の臨床応用が期待されます。

水野 知行 先生:
本論文では、シングルセル解析により同定した脂肪由来のCD271+細胞が高い血管新生能を有することを見出し、その効果や機序を詳細な実験により評価しています。また、過去の臨床研究で良好な成績を示したCritical limb ischemia (CLI) 患者2名に着目し、投与された細胞群にCD271+細胞が多く含まれていたことを発見しました。この結果はモデルマウスを使用した実験結果と共に今後の臨床研究への大きな期待をもたらしています。CLIは、下肢切断や死亡に至る重大な疾患であり、特に最近では肥満や糖尿病患者の増加に伴い、世界的にCLI患者数も増加しています。この研究の社会的な意義は非常に大きく、臨床応用を含む今後のさらなる進展が大いに期待されます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
医師になって1年目に、自分と同い年の超重症緊急症例に出会ったことがきっかけです。なんとか指導医と救命し半年かけて退院まで持ち込みました。珍しい症例だったので症例報告にもしました。この症例のおかげで今ある医療に胡座をかいていては全く太刀打ちできないことがあると骨身に沁みました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
助かるかどうか分からない重症を一番助けられると思ったため
3)この研究の将来性
手術でも救えない虚血疾患を、患者さん自身の安全な細胞で安価・早期に治せる可能性があります
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