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kei121318

[論文賞]井口 雄介/スタンフォード大学

Yusuke Iguchi, Ph.D.
[分野:物理学]
超伝導体における温度依存した非量子化渦糸の発見
Science

概要
コーヒーカップの中など、古典的な流体ではスプーンで大きな渦や小さな渦を自在に作ることができる。しかし、量子力学の世界では特定の大きさに限定された渦(量子渦)が作られる。本論文では新しい量子渦の観測に成功した。
物質中で電子が流れるとその周りに磁力が発生し、電流が渦を作ると中心に磁力が集まる。超伝導体はこれを利用して、磁力を排除するように電流を自発的に作り続ける。しかし、一部の超伝導体ではこの永久電流が竜巻のように流れ、その中心に磁力が細い一本の糸のように(渦糸)捕らえられて結晶内に侵入する。興味深いことに、超伝導結晶中ではこの孤立した渦糸内に捕えられた磁力の大きさはある小さな単位の整数倍という量子化された値しか取らない。これは、波の性質を持つ永久電流が渦を一周して打ち消し合わないように特定のリズムでしか回れないという量子力学的性質が顕著に現れた現象の一つとして知られている。
一方で、古典的系な流体のように非量子化した磁力を捕らえた渦糸が複数の自由度を持つ多成分超伝導体に現れる事が、2002年に理論的に予想されていた。しかし、このような非量子化渦糸はこれまで実験的には観測されておらず、それを実際に見つけることができたのは本論文が初めてである。これは、超伝導の世界における新しい現象を発見したことを意味しており、私たちの理解を大きく進展させることが期待される。
本論文では、電子の軌道自由度を複数持つ超伝導体結晶に着目し、ある条件下で非量子化した磁力を捕らえた渦糸が観測されることを明らかにした。この結果は、走査型磁気顕微鏡を利用して直接渦糸に捕えられた磁力を観察することで示された。また通常、超伝導体で見られる捕らえられた磁力は温度が変わっても変化しないが、今回の発見では、温度によって磁力が変わることが観察され、これが新たな発見であり、超伝導の性質に関する私たちの理解を深めるものである。これらの現象は、同一温度範囲内で数ミリメートルの範囲で同様に観測されたことから物質固有の変数で特徴付けられると考えられ、超伝導の性質を明らかにする新しい探査方法として今後利用できる可能性がある。本論文で示した研究手法を他の多成分超伝導体に適用することで非量子化渦糸の原理の解明につながると期待される。

受賞者のコメント
この度は、UJA論文賞を授与していただき、心より感謝申し上げます。自分の研究で賞を頂くことが初めてなので、大変嬉しく思います。物理分野のディレクターを務められた梅崎様をはじめ、関係者の皆様に深くお礼申し上げます。

審査員のコメント
竹井聡 先生:
I think this paper makes a very important contribution to the fundamental understanding of vortices in high-Tc superconductors and of type-II superconductors more generally. It is expected to spark further research activity among experimentalists and theorists in the superconductivity community. Its publication in Science -- a very high-impact journal -- is well deserved.

本橋隼人 先生:
第二種超伝導体に磁場を加えると渦糸と呼ばれる渦電流に囲まれた細い磁束が内部に生じますが、その磁束の大きさはある小さな単位の整数倍に量子化されることが知られていました。本論文では多成分超伝導体を走査型磁気顕微鏡で測定することで、このような磁束の量子化が当てはまらず、磁束量子より小さな値の磁束を持った渦糸を実験的に捕えることに初めて成功しました。この非量子化渦糸の磁束の値は温度に依存して連続的に変化することも確認されました。これらは超伝導の性質の理解に新たな知見を与える発見です。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
幼い頃からものづくりが好きで、「名探偵コナン」の阿笠博士のような発明を夢見ていました。大学での卒業研究や大学院時代の恩師との出会いが、私の研究者としての道を決定づけました。尊敬できる研究者である恩師の姿を見て、自分も目指すべき研究者の像を描くことができたと思います。
2)現在の専門分野に進んだ理由
「物理は森羅万象を解き明かす学問」という言葉に魅力を感じ、物理学科に入学しました。学んでいく中で、身近なものに潜む物理現象を量子力学を用いて解明することの面白さに気づきました。また、新しい物理現象の発見が半導体素子、磁気メモリ、超伝導回路といった新しい技術革新を生み出していることにも大きく惹かれました。
3)この研究の将来性
超伝導体は電気抵抗がないため、MRI装置などに利用されています。また、最近では量子化された電荷や磁束を利用した量子コンピュータの開発にも応用されています。本研究では、量子化された磁束の新たな性質を発見しました。この発見から得られる新たな知見は、磁束を活用した超伝導デバイスの開発などへの応用が期待されます。

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