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[論文賞]今田慎也/マサチューセッツ工科大学

Shinya Imada, M.D., Ph.D.

[分野:がん分野]



論文リンク


論文タイトル

Short-term post-fast refeeding enhances intestinal stemness via polyamines


掲載雑誌名

Nature


論文内容

腸管幹細胞(ISCs; Intestinal stem cells)は腸管上皮を構成する全ての上皮細胞(吸収上皮細胞、ゴブレット細胞など)の起源のみならず消化管腫瘍の起源(CSCs; Cancer stem cells)とも考えられています。私が所属するMIT Koch Institute のYilmaz研究室では、これまで異なる食事内容(高脂肪食、カロリー制限食、24時間絶食)が遺伝子発現、代謝の変化を通してISCs/CSCsの機能にどのような影響を与えるか研究を行ってきました。これまでの研究から、実験マウスを24時間絶食下(Fasting、水分摂取は可)に置くとISCsは脂肪酸分解を活性化させることでエネルギーを生み出し、腸管組織の損傷(X線照射など)に対して耐性を持つことを見出しました。近年、健康増進のため間欠的絶食(Intermittent fasting)、カロリー制限(Calorie restriction)が注目を集めていることも相まって、われわれのみならず絶食に関する論文発表は多く見られています。一方、絶食後にわれわれは必ず再摂食(post-fast refeeding)を行いますが、この再摂食時に細胞がどのような反応を示すかについてはまだ十分な研究がなされておりません。そこで、私は絶食後の再摂食がISCsまた腸管腫瘍形成にどのような機能変化を与えるか、遺伝子発現、代謝の観点から調べました。研究の結果、再摂食時にISCsは通常より過分裂状態になり、上皮の再生能を高めることがわかりました。一方、再摂食時に腫瘍抑制遺伝子ApcをISCsで欠損させると腸管腫瘍形成能が高まることも見出しました。機序については、再摂食時によって血糖値が急激に上がり、ISCsでは栄養シグナルであるmTORC1シグナルが通常よりも高くなることがわかりました。そして、活性化されたmTORC1シグナルはオルニチンーポリアミン代謝経路を通してISCsにおけるタンパク合成能を亢進することで、その機能を一時的に亢進させることを発見しました。間欠的絶食やカロリー制限に関しては、これまでは肯定的な知見がほとんどでしたが、この論文はネガティブ側面もありうるという大変重要なメッセージを伝えています。



受賞者のコメント

この度は選出いただきありがとうございます。今後も本質に迫るようなサイエンスを追求できるように精進していきたいと思います。

審査員コメント


平田 英周先生

絶食後の再摂食がLgr5陽性腸幹細胞においてmTORC1シグナル経路を活性化し、ポリアミンの増加とタンパク質合成の促進によって細胞増殖能を亢進させることを明らかにしています。またこの経路の活性化が特定の条件下(Apc欠損)においては発がんを促進しうることも示しています。食事制限を含めがん患者に対する栄養療法に関しては真偽を問わず多くの情報が溢れていますが、間欠的絶食に対する生体反応は多面的であり、これが健康に与える影響に関しても慎重な評価が必要であることを示す大変意義深い研究成果であると言えます。


磯崎 英子先生

絶食後の再摂食という身近で且つ新しい研究テーマです。手術などによって、止むを得ず絶食が必要な場合のリカバリー期にどう対応するかなど、様々な場面で議論するための理論的根拠となる重要な論文と思います。


小林 祥久先生

良いことづくめの印象があり広く一般市民から注目されている短時間の絶食について、マウス実験から絶食後の再摂食時に腸管幹細胞で起こる現象が実は腫瘍形成促進に働くことを発見した驚くべき内容です。腫瘍抑制遺伝子APCを欠失させた特殊な実験であることを考慮する必要はありますが、短時間の絶食がもたらす潜在的な危険性について、今後のさらなる研究によって続報が出ることが大いに期待されます。絶食は良いことという従来の固定観念を覆す類の論文がNatureに受け入れられるには、説得力のある膨大なデータを積み上げていく必要があったことは容易に想像され、そのような貢献をされた著者に敬意を表します。


受賞者エピソード

1)研究者を目指したきっかけ

臨床医の視点から経験した癌の不均一性を科学的なアプローチで理解したかったから


2)現在の専門分野に進んだ理由

幹細胞は癌の起源であると考えられているから


3)この研究の将来性

われわれ人間にとってどのよな食事内容が健康に繋がるのか、私の研究内容はその一助となるかもしれません。また、食事内容を変えることで病気の治療効果を変えることが可能と考えています。


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