Kazuki Imasato, PhD Student
高効率N型熱電材料Mg3Sb0.6Bi1.4の発見
Exceptional thermoelectric performance in Mg3Sb0.6Bi1.4 for low-grade waste heat recovery
Energy & Environmental Science
2019年2月
現在,石油や天然ガスなどの一次エネルギーから有用なエネルギーとして取り出すことができるのは40%以下であり,残りは発電時のエネルギー変換や輸送に伴い廃熱として捨てられている.この膨大な廃熱エネルギーから有用な電力を取り出すことができれば,大幅に社会のエネルギー効率を高めることができる.半導体の一種である熱電材料は温度差から直接電圧を生み出す物性を持つことから,この廃熱エネルギー回収技術のへの応用が期待されている.本論文ではMg3Sb2-Mg3Bi2系おける合金化の電子バンド構造への影響を明らかにすることで,大幅な熱電性能の向上を実現した.得られた知見に基づき材料を合成することによって唯一商業化されている熱電材料(Bi2Te3)を超える性能を60年ぶりに実証することに成功した.
Mg3Sb2に対するMg3Bi2合金化はバンドギャップの縮小とそれに伴う電子移動度の向上を同時に引き起こすことが明らかになった.高い電子移動度は電気伝導率の向上に寄与する一方,バンドギャップの縮小は価電子帯から伝導体へのキャリア(電子)の励起を容易にさせることで性能指数zTを低下させてしまう.実験データの解析によって電子バンド構造の変化を定量的にモデル化することで,高い電子移動度とバンドギャップを両立させる最適組成(Mg3Sb0.6Bi1.4)を特定することに成功した.また,合金の割合を変化させることでMg3Sb2-Mg3Bi2合金のバンド構造を熱源の温度に合わせて自在にデザインできるため,本論文の知見を用いることで産業用途に合わせた材料設計が可能となる.本研究で得られた電子バンド構造に関する理解と輸送物性のモデリング方法は,同様のバンド構造を持つ熱電材料研究にも応用可能であるとともに,太陽光発電などを含む半導体物性研究においても重要な知見となる.
受賞者のコメント:
この度は論文賞をいただきたいへん光栄です。今回のUJA論文賞を運営、審査いただいた先生方に感謝を申し上げます。今回の論文は私がアメリカで博士号取得を目指す過程で大きな一歩となった論文です。まだまだ熱電材料の実用化にはやらなければならないことがたくさんあります。その中でも非常に注目されている材料系で高い性能を実現できたのは研究を行う中で非常にExcitingな経験でした。この論文の内容も含めて今年の1月には無事博士号を取得することができました。これからも支えてくださった皆さんへの感謝を忘れずに精進していきたいと思います。
審査員のコメント:
廃熱エネルギーの効率的回収のための有用なデバイスの開発につながり産業的社会的インパクトが大きい.(上田先生)
結果の工学的インパクトの大きさに加え、特性評価及び最適化についての解析結果を包括的に示すことにより論点を明確化出来ており、専門を超えて広く興味を惹くであろう優れた論文である。(庄司先生)
結果の工学的インパクトの大きさに加え、特性評価及び最適化についての解析結果を包括的に示すことにより論点を明確化出来ており、専門を超えて広く興味を惹くであろう優れた論文である。(砂原先生) エピソード: 今回の論文のもともとのアイデアは教授とランチライムにしていた何気ないディスカッションから生まれたものでした。人とのかかわり合いから新しいものを生み出せる研究の楽しさを改めて感じました。反対に論文の発表後すぐに似た内容の論文が有名雑誌に掲載されたので、最先端を行く研究者の激しい競争も身をもって教えてもらいました。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください 特に大きなきっかけはなくもともと理科が好きで、物理、化学が好きになり、研究をしていて楽しかったので頑張っていたらいつの間にかアメリカまで来てしまいました。自分のアイデアを自由に試して、誰もわからないことをわかるようになるというのが研究者としての楽しさかなと思います。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください エネルギー問題に取り組みたいと考えていて、その中でも材料開発が重要かつ面白そうだと思ったからです。 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。 熱はいろいろなところから発生していますが有効利用されていません。車、工場の排熱、人間の体も常に熱を発しています。今回の論文で扱った熱電材料が発展すれば、こういった様々な熱源から有用なエネルギーを取り出すことができ、便利なテクノロジーや省エネルギーデバイスの開発に役に立つと考えられています。
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