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[論文賞]佐藤 隆昭/東京大学・ペンシルベニア大学

Takaaki Sato, Ph.D.
[分野:工学]
摩擦の起源である単突起摩擦をナノスケールで観察
Nature Communications, 2022.5.10

概要
摩擦による損失は甚大でその損失はGDPの数%になると見積もられており、自動車では燃料の30%以上は摩擦由来の原因でエネルギーが無駄になっていることが知られている。しかし驚くべきことに21世紀になってもなお、摩擦はどうして起こるのか誰も分かっていない。これは接触箇所が視界から隠れてしまって見えないため、接触箇所の材料力学と摩擦の法則とを直接関連づけて考察ができないからである。そこでマイクロ加工技術を用いてナノスケールの鋭い針を作製し、これを透過型電子顕微鏡の内部で動かせる独自の実験系を開発した。この実験系を用い、ナノスケールの針同士を接触させ、その接点の摩擦を原子分解能で観察できた。驚くべきことに、接点の強度は定説の20倍以上硬いことを発見した。一方で接点を剥離させるための力は定説のたった70%程度しかならないことも実証した。この結果は従来の知見しか持たずに表面加工を行うと、接触面積を20倍も誤って大きく見積もっている可能性や、予想より3割も低い応力で接合が容易に破断してしまう可能性など、材料設計の指針に多大な影響を与える結果になった。またこの研究は、様々な材料を擦り付けて比較して偶然に性能が良かった潤滑材を製品として発売するという、開発者の勘と運に依存した製品開発ではなく、微視的視点から材料がどうしてその摩擦性能を発揮するのか考察できることを示している。この微視的視点から摩擦と摩耗の起源に迫り、潤滑機構の解明を試みる本研究のアプローチは、従来の潤滑性能の限界を突破するために必要な材料設計の指針を提示することによる、表面処理技術への多大な貢献が期待できる。

受賞者のコメント
本当に嬉しいです! 人生をかけた頑張った研究成果、1人でも多くの人に読んでもらいたいです。

審査員のコメント
庄司観 先生:
MEMS技術を用いて摩擦現象を原子レベルで観察することでマクロな視点ではとらえることが不可能であった新たな現象の観察に成功しており、トライボロジー分野に多大なインパクトを与えていると思います。また、ディスカッションが非常に充実しており、興味深く論文を読ませていただきました。さらに今後、原子レベルでの摩擦・摩耗現象の理解が深まり、モデル化が進むことで産業界への多大なる貢献が期待できます。また、応募者がCorresponding Authorとなっている点からも、応募者の本研究への貢献度の高さが伺えます。

南出将志 先生:
本論文に関して、研究の革新性と影響に深く感銘を受けました。本研究は、""摩擦""という、一見単純で小学生レベルの理解があるように思われる現象に対して、原理的な理解の深化を図るという点で非常に重要な貢献をしています。これまで摩擦は経験的に理解され、定式化されてきましたが、貴重な実験的アプローチにより、その根本原理に光を当てたことは高く評価されます。
さらに、この現象の普遍性を踏まえると、様々な分野への応用が期待されます。これらの観点から、本研究は学術界における新たな一歩となることでしょう。今後の研究のさらなる発展と、その応用範囲の拡大に大いに期待しております。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
私は賢い人ではなかったから。私には物理学しかなかったから
2)現在の専門分野に進んだ理由
本を読んで、何に興味があるのか自分でわかっていたので簡単に選べました
3)この研究の将来性
この研究では、接点の接触界面を原子スケールで観察しました。これによって摩擦はどのように発生するのか新たな知見を得ました。摩擦は接触する物体の間に必ず現れます。髪がサラサラなのも、スケートで氷の上で滑れるのも、自動車が止まれるのも、洋服がほつれないのも、全て摩擦をうまくコントロールできているからです。原子レベルで摩擦の機構を解明を目指す本研究は、従来の限界を突破するための材料の設計指針を与えることで、無駄なエネルギー損失を無くしたり、機械故障を抑えたり、地震発生の時期をより正確に予言するといった、摩擦を起源にする現象に関連した幅広い貢献が期待できます。

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