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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]内村 幸平/ワシントン大学

Kohei, Uchimura, M.D., Ph.D.

[分野4−2:ミズーリ州]
(病態モデルに向けた腎臓オルガノイド分化誘導法の改良)
Cell Reports, December 2020

概要
2014-15年にかけて日本人研究者を中心にヒト多能性幹細胞からの腎臓オルガノイド作製に関する論文が相次いで報告された。同時期に新たな実験手法としてシングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)が開発され、これまで臓器間や培養細胞の集団間で比較していた遺伝子産物プロファイリングを単一細胞レベルで解析することが可能となった。申請者はscRNA-seqを用いたヒトiPS細胞由来腎臓オルガノイドの解析を行い、既存の腎臓オルガノイドは、①神経や皮膚などのoff-target cellが約30%も混在している、②尿管芽由来の集合管細胞が存在しない、③分化の未熟さが胎児3か月相当であるといった課題があることを報告し、2018年のBest of Cell Stem Cell誌に選出された(Wu H, Uchimura K※, et. al. ※共同筆頭著者 Cell Stem Cell. 2018 Dec 6;23(6):869-881) 。
次に申請者は腎臓オルガノイドを病態モデルやドラッグスクリーニング等の医療応用へ発展させるためには上記の問題を克服する必要があると考え、新規腎臓オルガノイドの誘導法を開発に取り組んだ。新たに開発した腎臓オルガノイドはこれまで確認されていなかった集合管細胞を含んでいることをscRNA-seqで証明し、更にはバソプレシン処理によるAQP2の管腔側細胞膜表面への移行や低浸透圧培養液による主細胞の膨張によってヒトiPS細胞から分化した集合管細胞は生理的機能を有することも確認した(生理学的実験への応用の可能性)。また、新規腎臓オルガノイドは成熟度も改善しており、腎毒性抗がん剤であるシスプラチン投与によって近位尿細管障害の特異的マーカーであるKim-1やNGALの発現誘導がみられ、培養Dish上で急性腎障害(AKI)モデル(ヒト病態モデルとしてドラッグスクリーニングへの応用の可能性)としての利用が可能であることを示した。

受賞者のコメント
栄えあるUJA論文賞に選出頂きとても光栄に思います。選考委員の先生方、メンターのBen、labの仲間、渡米に付き合ってくれた家族、St. Louisのお友達に対して感謝の気持ちでいっぱいです。

審査員のコメント
今崎剛 先生:
本研究では、申請者らが以前指摘した iPSC から分化誘導した腎臓オルガノイドの問題点を克服する方法の開発を行い評価した。その結果、申請者等が作製した新しい腎臓オルガノイドは集合管からエフロンがより近くなるといったように、より完成度が高いモノをつくることに成功した。研究の継続性、発展性を高く評価した。この研究を推し進め、より完成度の高い腎臓オルガノイドを作成可能な技術開発に期待している。

加藤明彦 先生:
Organoids derived from human iPS cells have expanded our discovery toolset to address a wide range of biological and medical problems. The critical achievement unveiled in this study is the establishment of a new protocol to generate kidney organoids with unprecedented maturation of the collecting system, a key component of renal functioning. The authors compared their new method to a conventional one, which was partly used in their method, via a comprehensive evaluation of the organoid maturation, morphology, marker gene expression and scRNAseq. They also succeeded in the reconstitution of signature responses in the organoid collecting system that mimic those found in actual kidney tissues, including responses to renal injury, water channel trafficking, and conversions between collecting duct cell types. Their organoid model will be a significant advancement towards our understanding of human kidney diseases, and facilitate the development of new medicines through the evaluation of efficacy and toxicity in human organotypic kidney.

増田久子 先生:
ヒトのIPS細胞を使って腎臓のオーガノイドを初めて作ることに成功した。今後の腎臓病の研究への活用が期待される。

エピソード
留学中は毎日6 miles(約10km)のジョギングを日課としており、実験のアイデアはジョギング中に思いつくことが多かったように思います。このまま論文書けなくても足が速くなって『マラソン留学』でしたと笑って帰国できればいいかなと気楽に過ごしていました。

1)研究者を目指したきっかけ
私の至らない点ですが飽きっぽい性格で5年くらい没頭すると違うことに挑戦してみたくなります。医学部を卒業して5年間は懸命に臨床をやりました。次の5年は国内で大学院生として基礎研究に集中しました。その次の5年は海外で生活したいと思い、米国留学の機会を模索しました。『Get out of the comfort zone』とも言われますが、マンネリを感じたら思い切って環境を変えることも良いかもしれません。
2)現在の専門分野に進んだ理由
腎臓内科医ですので、臨床に還元できるような研究をしたいと思っていました。逆説的に言うとCNS(Cell, Nature, Science)等の超一流誌が狙えるような超一流の知識・頭脳は未だに持っておりません。最初はボスから与えられる研究テーマを忠実に進めながら、その中で自分のアイデアを入れて少し自分の色を出していくと良いんじゃないかと思います。
3)この研究の将来性
ヒトiPS細胞から作製した腎臓オルガノイドを病態モデルとして実用化することを目標としています。種差の問題でマウス等の動物では再現が難しいヒト特有の病態はヒトiPS細胞由来のオルガノイドによって再現できるかもしれません。将来的には新薬開発に向けたプラットホームとして役に立って欲しいと思っています。
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