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執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]宮崎 慶統/カリフォルニア工科大学

更新日:2023年4月22日

Yoshinori Miyazaki, Ph.D.

[分野:化学・工学]
A wet heterogeneous mantle creates a habitable world in the Hadean
(地球が生命居住可能な環境を持った経緯についての理論)
Nature, March 2022

概要
太陽系の内側に存在する惑星は、誕生直後は金星のように厚い二酸化炭素の大気(100-1000気圧)に覆われていた可能性が高い.そのため、地球も45億年前は、激しい温室効果によって現在の金星に近い状態であったと推測される.一方、地球が出来てから数億年後の状態を記録するジルコンと呼ばれる鉱物からは、43-41億年前には液体の水が既に表層に存在し、現在と同じような沈み込み運動が始まっていたことがわかっている.この論文では、地球が金星のような状態を脱却し、わずか数億年の間に生命を維持できる惑星になりえた経緯を説明する理論を発表した.
短期間で表層に穏やかな気候を作り出すためには、この大部分を大気から除去・地球の内部に速やかに移送する必要がある.ところが、素早い二酸化炭素の移送がなぜ可能であったかは深く検討されてこなかった.過去には初期地球は温度が高いため、除去が活発だったと暗に仮定されてきたが、これは地質学的証拠から否定されている.実際に岩石学と地球物理学をあわせたモデル計算を行うと、~100気圧のCO2の除去には15-20億年かかることが判明した.
この問題を解決するために、当時は現在地球上に存在しない岩石で覆われていた可能性を提案した.この岩石は月形成時の巨大衝突の結果として生まれるもので、輝石という鉱物に富んでおり、現在の岩石ではほとんど観測されないほどマグネシウムが非常に豊富であったことが推測される.そのようなマグネシウムを多く含む鉱物は二酸化炭素と反応して炭酸塩を生成し、大気中の炭素を効率的に固定化できる.その上、高マグネシウムの輝石で構成されたマントルは、現在のパイロライト質マントルよりもプレート速度が10倍早く、二酸化炭素を除去するプロセスを劇的に加速できることが今回わかった.
しかも、この特殊な岩石は海水と容易に反応して、生体分子の生成に不可欠であると信じられている水素の発生にも寄与したと思われる.この岩石で起きる反応は、大西洋にある「ロストシティ」と呼ばれる珍しいタイプの深海熱水噴出孔に類似しているのだが、ロストシティは、水素とメタンが非生命由来で生成されるため、地球上の生命の起源を調査するための格好の場所となっている.つまり、この理論では、地球が居住可能になった経緯だけでなく、なぜ地球上に生命が誕生したかを説明できる可能性がある.なぜ短期間で地球が生命を育むに至ったかを理解することは、他の系外惑星で生命のシグナルを探すときの助けにもなる.

受賞者のコメント
地球の初期進化というあまり大きくないフィールドからの論文ですが、評価をして頂いて非常に光栄に思っています。惑星の初期進化は生命の誕生にも密接に結びついており、発展余地が大きい分野だと思うので、今後もインパクトのある研究ができるよう努力していきたいと考えております。この場を借りて、博士課程の指導教官である是永先生に感謝申し上げます。

審査員のコメント
砂原淳 先生:
惑星科学の主要課題に取り組み、地球環境進化モデルに対して新しい仮説導入に成功している価値の高い論文である。惑星科学のみならず、専門分野を超えて広くインパクトがある。(実際、審査をしていて地球•惑星科学の世界に深く引き込まれた。)また、ポスドク段階でこのような優れた論文を発表できていることは応募者の研究能力、将来性の高さの表れであると思われる。研究の更なる発展、深化も期待できるため、審査員として本論文に高評価を与え、応募者の今後の研究生活に大いに期待したい。

本橋隼人 先生:
本論文は、地球が生命居住可能な環境を持つようになった理由に対して理論的な説明を与えたものである。著者らは、月形成時の巨大隕石衝突の際に生じたマグネシウムを多く含む鉱物の働きに着目し、この鉱物が大気中の二酸化炭素を化学反応により効率的に除去するとともに、水素の発生にも寄与した可能性があることを指摘した。これらはいずれも生命誕生に不可欠な条件とされており、地球上の生命の起源に迫る画期的な研究成果であると言える。

エピソード
この論文は、分厚い二酸化炭素で覆われていた超初期の地球が、どのようにして現在のような大気を持つに至ったかの理解に取り組んだものです。地球が金星のような90気圧に近い厚い大気を持つこと無く、生命を育むことのできる表層環境ができた原因については未だに議論されています。今回その謎について、地球物理学と岩石学を組み合わせてアプローチしました。岩石学の第一人者の一人に査読者して頂いたことは良かったのですが、リバイズ中に根本的なことも指摘され、投稿してからアクセプトまで1年半近くかかってしまいました。時間がかかったので、最終的にアクセプトされて安心しました。

1)研究者を目指したきっかけ
小さい頃から理科分野全般、特に天体や惑星に興味を持っており、将来は惑星科学を研究したいと考えていました。「惑星がどのように形成され、我々がどのようにして生まれたか」という問いは、最も純粋な自然科学の問いの一つであると考えており、その答えの追求をできる仕事は非常に魅力的だと感じてこの道に進みました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
高校生の時に国際地学オリンピック大会の日本代表として参加したときに、様々な地球惑星科学の研究者の方々と直にお話を伺うことができたのが、この分野を選ぶ大きなきっかけになったと思います。

3)この研究の将来性
地球外の生命の存在可能性という問題はかつては空想上の問いでありましたが、さまざまな探査ミッション・望遠鏡観測・そして理論の発展を通して、現実的な議論ができる段階になってきたと思います。私の研究は居住可能な表層環境がどのように生まれるかということに焦点をあてており、地球外生命について考えるにはまだ距離がありますが、分野として21世紀の終わりまでに何らかの進展があることと信じており、その一端を担えればと考えています。
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