Jo Kubota2023年4月9日読了時間: 5分[論文賞]吉田 昌弘/ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンMasahiro Yoshida, M.D., Ph.D.[分野:免疫アレルギー]Local and systemic responses to SARS-CoV-2 infection in children and adults (SARS-CoV-2感染に対する小児および成人での局所性・全身性応答の違い)Nature, 10 February 2022概要 COVID-19が一般的に小児で軽症である理由は十分に解明されていない。本研究は、SARS-CoV-2感染に対する小児と成人の免疫応答の違いを明らかにするため、新生児から老年期までの健常対照者と、無症候例から重症例までを含んだCOVID-19患者(計93例)より鼻腔、気管支、血液検体を採取し、シングルセル・マルチオミクス解析を行なった。 気道のデータセットの解析により、気道局所での免疫応答について解析した。小児の気道では健常時に既にインターフェロンによる活性化状態にある細胞集団が観察され、SARS-CoV-2感染後にはその活性化がさらに誘導された。このことから小児では気道において迅速かつ高度な免疫応答が可能となり、感染局所でより効率的にウィルスを排除することが可能であると考えられた。 さらに末梢血中のPBMCのデータセットから全身性の免疫応答を解析した。健康な新生児から成人・老年期までのPBMCの組成を比較検討することにより、自然免疫から獲得免疫系へのシフトを伴う成熟パターンが確認された。つまり小児ではナイーブなリンパ球や単球が多く、これらは年齢に応じて徐々に減少していく一方、細胞傷害性リンパ球やメモリーリンパ球が増加傾向となることが明らかとなった。そしてSARS-CoV-2感染急性期の免疫応答は年齢毎の免疫システムの特徴を反映しており、成人では細胞傷害性Tリンパ球の増加による応答が生じるのに対し、小児ではナイーブリンパ球の増加により応答し、細胞傷害性リンパ球は減少することが特徴的であった。またインターフェロンを介した全身性の免疫応答は、成人では急性期に遷延して認められたのに対し、小児では極めて早期に収束することが確認された。 このように免疫システムの違いを反映して、小児と成人ではSARS-CoV-2感染に対して根本的に異なる免疫応答が生じており、小児が重症化しづらい理由を説明し得る細胞・分子レベルでの違いが明らかになった。特に重症例では気道局所のインターフェロン活性が有意に低値であったことから、これらの知見は重症化リスクの層別化や治療介入の決定に有用となることが期待される。受賞者のコメント この度はUJA論文賞に選出して頂き、大変光栄に存じます。審査員の先生方、プログラム運営の方々に心より御礼申し上げます。審査員のコメント後藤義幸 先生: 近年パンデミックを引き起こしているCOVID-19を研究対象とし、子供の方が成人より症状が軽くなる理由やメカニズムを明らかとした重要な論文です。健常人と患者の上気道組織、末梢血を用い一細胞解析技術による各細胞サブセットの分布や各細胞における遺伝子発現を網羅的に解析しています。COVID-19感染時における感染局所ならびに全身系組織の免疫応答や成人の重症化機序の解明のみならず、本研究成果を基盤としたCOVID-19感染症に対する新規治療法や診断法の開発に繋がることが期待されます。 森田英明 先生: SARS-CoV-2に対する免疫応答を軸として、組織細胞と末梢血における年齢に応じた免疫応答の変化を明らかにした論文です。これらの知見はCOVID-19に対する治療の最適化に貢献するだけでなく、年齢依存的に発症する多くの疾患の病態への理解を飛躍的に高める重要な研究であると考えられます。神尾敬子 先生: 健常者およびCOVID-19感染後の患者からサンプルから、気道細胞・免疫担当細胞各々の感染に対する応答をマルチオミクス解析により詳細に分析し、COVID-19感染による小児と成人の重症化率の違いが、小児と成人ではそれぞれ異なるメカニズムにより生じる可能性を示した。上気道・下気道・末梢血の複数の患者サンプルを用いて各々解析している点、また小児を新生児、乳児、幼児、学童期児童、思春期児童と細分化して年齢的な免疫応答の変化を分析した点を評価した。エピソード 2019年4月に呼吸器幹細胞と免疫細胞の相互作用についての研究を志して留学生活がスタートしましたが、2020年3月以降は新型コロナウィルスのパンデミックにより思いがけずに新型コロナウィルスに対する免疫応答の研究を主とすることになりました。当時のロンドンは未知のウィルスの蔓延により厳格なロックダウン下にあり、医療機関も混乱した状況でした。臨床医として貢献することはできませんでしたが、未知の病態解明に貢献しようという使命感でロンドン各地の病院を巡り臨床検体を回収していきました。患者さんやそのご家族はもちろんのこと、コロナウィルス診療の最前線にいた多くの臨床医の協力のもと研究ができたことに大変感謝しています。1)研究者を目指したきっかけ 呼吸器疾患には根治的治療法のない難病が多く存在し、日々の臨床の中でその病態解明の重要性を感じたためです。2)現在の専門分野に進んだ理由 医学生の頃に、身近な人の肺がんの闘病に接したことがきっかけです。3)この研究の将来性 「小児COVID-19はなぜ成人に比較して重症化しづらいのか」という臨床的疑問を解析していく上で、小児と成人での種々の免疫応答の違いが明らかになり、それぞれ異なった戦略で対処しているということが分かりました。特に小児ではウィルスがはじめに鼻腔に感染した際に、感染局所でより強力な免疫応答が迅速に起きることが分かり、重症化抑制に寄与していることが分かりました。これらの知見は新たな治療法や重症化リスクの層別化に応用されることが期待されます。
Masahiro Yoshida, M.D., Ph.D.[分野:免疫アレルギー]Local and systemic responses to SARS-CoV-2 infection in children and adults (SARS-CoV-2感染に対する小児および成人での局所性・全身性応答の違い)Nature, 10 February 2022概要 COVID-19が一般的に小児で軽症である理由は十分に解明されていない。本研究は、SARS-CoV-2感染に対する小児と成人の免疫応答の違いを明らかにするため、新生児から老年期までの健常対照者と、無症候例から重症例までを含んだCOVID-19患者(計93例)より鼻腔、気管支、血液検体を採取し、シングルセル・マルチオミクス解析を行なった。 気道のデータセットの解析により、気道局所での免疫応答について解析した。小児の気道では健常時に既にインターフェロンによる活性化状態にある細胞集団が観察され、SARS-CoV-2感染後にはその活性化がさらに誘導された。このことから小児では気道において迅速かつ高度な免疫応答が可能となり、感染局所でより効率的にウィルスを排除することが可能であると考えられた。 さらに末梢血中のPBMCのデータセットから全身性の免疫応答を解析した。健康な新生児から成人・老年期までのPBMCの組成を比較検討することにより、自然免疫から獲得免疫系へのシフトを伴う成熟パターンが確認された。つまり小児ではナイーブなリンパ球や単球が多く、これらは年齢に応じて徐々に減少していく一方、細胞傷害性リンパ球やメモリーリンパ球が増加傾向となることが明らかとなった。そしてSARS-CoV-2感染急性期の免疫応答は年齢毎の免疫システムの特徴を反映しており、成人では細胞傷害性Tリンパ球の増加による応答が生じるのに対し、小児ではナイーブリンパ球の増加により応答し、細胞傷害性リンパ球は減少することが特徴的であった。またインターフェロンを介した全身性の免疫応答は、成人では急性期に遷延して認められたのに対し、小児では極めて早期に収束することが確認された。 このように免疫システムの違いを反映して、小児と成人ではSARS-CoV-2感染に対して根本的に異なる免疫応答が生じており、小児が重症化しづらい理由を説明し得る細胞・分子レベルでの違いが明らかになった。特に重症例では気道局所のインターフェロン活性が有意に低値であったことから、これらの知見は重症化リスクの層別化や治療介入の決定に有用となることが期待される。受賞者のコメント この度はUJA論文賞に選出して頂き、大変光栄に存じます。審査員の先生方、プログラム運営の方々に心より御礼申し上げます。審査員のコメント後藤義幸 先生: 近年パンデミックを引き起こしているCOVID-19を研究対象とし、子供の方が成人より症状が軽くなる理由やメカニズムを明らかとした重要な論文です。健常人と患者の上気道組織、末梢血を用い一細胞解析技術による各細胞サブセットの分布や各細胞における遺伝子発現を網羅的に解析しています。COVID-19感染時における感染局所ならびに全身系組織の免疫応答や成人の重症化機序の解明のみならず、本研究成果を基盤としたCOVID-19感染症に対する新規治療法や診断法の開発に繋がることが期待されます。 森田英明 先生: SARS-CoV-2に対する免疫応答を軸として、組織細胞と末梢血における年齢に応じた免疫応答の変化を明らかにした論文です。これらの知見はCOVID-19に対する治療の最適化に貢献するだけでなく、年齢依存的に発症する多くの疾患の病態への理解を飛躍的に高める重要な研究であると考えられます。神尾敬子 先生: 健常者およびCOVID-19感染後の患者からサンプルから、気道細胞・免疫担当細胞各々の感染に対する応答をマルチオミクス解析により詳細に分析し、COVID-19感染による小児と成人の重症化率の違いが、小児と成人ではそれぞれ異なるメカニズムにより生じる可能性を示した。上気道・下気道・末梢血の複数の患者サンプルを用いて各々解析している点、また小児を新生児、乳児、幼児、学童期児童、思春期児童と細分化して年齢的な免疫応答の変化を分析した点を評価した。エピソード 2019年4月に呼吸器幹細胞と免疫細胞の相互作用についての研究を志して留学生活がスタートしましたが、2020年3月以降は新型コロナウィルスのパンデミックにより思いがけずに新型コロナウィルスに対する免疫応答の研究を主とすることになりました。当時のロンドンは未知のウィルスの蔓延により厳格なロックダウン下にあり、医療機関も混乱した状況でした。臨床医として貢献することはできませんでしたが、未知の病態解明に貢献しようという使命感でロンドン各地の病院を巡り臨床検体を回収していきました。患者さんやそのご家族はもちろんのこと、コロナウィルス診療の最前線にいた多くの臨床医の協力のもと研究ができたことに大変感謝しています。1)研究者を目指したきっかけ 呼吸器疾患には根治的治療法のない難病が多く存在し、日々の臨床の中でその病態解明の重要性を感じたためです。2)現在の専門分野に進んだ理由 医学生の頃に、身近な人の肺がんの闘病に接したことがきっかけです。3)この研究の将来性 「小児COVID-19はなぜ成人に比較して重症化しづらいのか」という臨床的疑問を解析していく上で、小児と成人での種々の免疫応答の違いが明らかになり、それぞれ異なった戦略で対処しているということが分かりました。特に小児ではウィルスがはじめに鼻腔に感染した際に、感染局所でより強力な免疫応答が迅速に起きることが分かり、重症化抑制に寄与していることが分かりました。これらの知見は新たな治療法や重症化リスクの層別化に応用されることが期待されます。
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