top of page
執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]坂本 慶子/浜松医科大学附属病院皮膚科学講座

Keiko Sakamoto, M.D.

[分野2:免疫アレルギー]
(ADAM10-Notch シグナリングが担う毛嚢細菌叢の恒常性の維持とその破綻による炎症性毛嚢破壊)
Immunity, September 2021

概要
皮膚は常在細菌叢と免疫細胞が攻防を繰り広げる生体最外層の免疫バリアである。特に、毛嚢は免疫細胞、細菌叢および幹細胞が交差するニッシェであり、宿主と微生物の共生を可能にするメカニズムが存在することが予想される。また、この共生関係は定常状態だけでなく、炎症時にも維持されなければならない。膜通過型蛋白分解酵素であるADAM10は毛嚢の発生に必要であり、細菌毒素の受容体として宿主免疫に貢献することから、毛嚢細菌叢の制御に関わっていることを予想した。ウィルス感染ではI型インターフェロン(IFN)が宿主免疫を活性化させる一方で、全身性エリテマトーデスや脱毛症などの自己免疫疾患を誘発することが知られている。本論文では、ウィルス免疫発動時の組織恒常性の制御メカニズムを明らかにするために、I型IFN反応性の毛嚢上部の細胞からADAM10を誘導欠失させたマウスモデルを中心に解析した。
その結果、1)I型IFN反応性の毛嚢上部細胞はADAM10-Notchシグナリングを介して抗菌ペプチドのβ-defensin-6を産生し、毛嚢細菌叢を制御していること、2)これらの細胞からADAM10を欠失させたところ、毛嚢細菌叢がコリネバクテリウム属に支配されること、3)その結果、自然リンパ球であるILC2が炎症を惹起し、毛嚢の細胞死が誘導されること、4)最終的には幹細胞領域であるバルジが失われることにより、不可逆性の脱毛が起きること、を示した。宿主と微生物の共生にはADAM10-Notchシグナリングが重要であり、これらが阻害されることにより、その共生関係が破綻し、幹細胞維持に支障をきたすことを明らかにした。これらの知見は炎症下における組織の恒常性を維持するために重要なメカニズムであると考えている。

受賞者のコメント
この度はU J A論文賞をいただきまして、大変光栄に思っております。応募を勧めてくださった浜松医科大学皮膚科学講座の本田哲也教授をはじめ、論文賞の審査をしていいただいた先生方に感謝申し上げます。

審査員のコメント
森田英明 先生:
本研究では皮膚における宿主と微生物叢に重要なメカニズムを明らかにすると共に、そのシステムが失われた際に、微生物叢の破綻により不可逆的な脱毛に至るメカニズムも明らかにしています。宿主と微生物の共生、生体防御機構への理解が深まると共に、不可逆的な脱毛に対する新たな治療法の開発につながる可能性があります。

後藤 義幸 先生:
生体の代表的な防御バリアである皮膚において、ウイルス感染によって誘導されるIFN応答時における毛嚢上部細胞のADAM10の役割を解析した研究です。in vitro、in vivoの実験系を駆使し、常在細菌、免疫細胞、幹細胞の相互作用および恒常性維持機構の詳細を明らかにしており、極めてレベルの高い研究内容となっています。現在、COVID-19が世界中で蔓延しており、ウイルス感染に伴うIFNの生体における影響についても世界的に注目されており、本研究成果を基に脱毛など様々な皮膚疾患の新規治療法の開発に繋がることが期待されます。

小野寺淳 先生:
近年注目されているtype I IFNと、脱毛の関連性を明らかにした画期的な論文だと思います。かなり多くの実験データが示され、詳細な条件検討についても記載されるなど、著者の尽力が伝わってきます。様々なKOマウスをやシークエンス技術を駆使して完成度の高い論文であるとの印象を持ちました。Mx1-creとRosa-YFPを用いた実験系はクレバーです。個人的には、最近脱毛が気になる年齢を迎え、今回の発見が有効な脱毛治療法につながることを期待します。

エピソード
私は渡米前まで皮膚科臨床医として働いており、全く基礎研究の経験がありませんでした。循環器内科医である主人のアメリカ留学が決まった時、私自身も何か有意義な時間を過ごしたいと思い、浜松医科大学皮膚科学講座の戸倉新樹前教授にご相談して、N I Hの永尾圭介博士をご紹介いただきました。今思えば、ピペットの使い方もわからないど素人を受け入れてくださった永尾先生には感謝の言葉もありません。まずはボランティアとして無給でラボの仕事をさせていただき、1年後には(少し認められて?)visiting fellowとして雇っていただけることとなりました。私の研究プロジェクトは、抗ウイルス免疫を増強させると不可逆性の脱毛が起きるマウスの原因を解明することでした。毎日マウスと対話しながら観察している中で、皮膚科医としての眼が非常に役に立ちました。マウスの皮膚表面に白い小さな塊が付着しているのを見つけ、ディスバイオーシス(細菌叢の偏り)の発見のきっかけとなり、これを契機に毛の炎症性破壊が起きていることを証明しました。コロナ禍による規制もありin vivoの実験を行うのが大変でしたが、なんとかやり切ることができました。

1)研究者を目指したきっかけ
特に研究者を目指していたわけではありませんが、いろいろなご縁に恵まれて基礎研究を行うことができました。これをきっかけに、日本でも自分の研究と臨床を深めていきたいと思います。
2)現在の専門分野に進んだ理由
皮膚科の臨床医なので、少しでも病気の理解に役立つ研究をしたいと思いました。
3)この研究の将来性
今回発表したマウスモデルは、人では瘢痕性脱毛という病気の部類に入ります。瘢痕性脱毛は現在治療法がなく、今回示したような炎症が治療標的となることを期待しています。
閲覧数:426回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page