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執筆者の写真Jo Kubota

[論文賞]堀江 勘太/ワシントン大学医学校

Kanta Horie, Ph.D.

[分野:ミズーリ]
(プライマリータウオパチ―の新規バイオマーカー同定)
Nature Medicine, November 2022

概要
タウオパチ―は、脳内でタウタンパク質が異常凝集し、神経原線維変化を形成することを原因とする神経変性疾患である。タウオパチーの一種であるアルツハイマー病(AD)の診断は、脳脊髄液(CSF)中のアミロイドβ(Aβ)やリン酸化タウの測定、又は陽電子放射断層撮影を用いた脳内凝集Aβ及びタウの測定によって行われる。一方、進行性核上性麻痺 (PSP)、大脳皮質基底核変性症 (CBD)、ピック病(PiD)に代表されるプライマリータウオパチ―の診断に用いるバイオマーカーは未だ報告されていない。そこで我々は、プライマリータウオパチーを生前診断する世界初の液性バイオマーカーの提示を目的に、研究を行った。
まず、ADに加えて、PSP、CBD、PiDに代表されるプライマリータウオパチー、家族性の前頭側頭葉変性症(FTLD)であるFTLD-MAPT、更にはタウ病理を持たない代わりにTDP-43病理を有するFTLD-TDP患者から死後採取した脳組織中の不溶性タウを抽出し、質量分析法を用いた包括的なタウの特性解析を行った結果、4リピート型タウアイソフォーム特異的なmicrotubule-binding region(MTBR)領域を含む特定のタウ種(MTBRタウ282)が、特にCBD並びに特定のFTLD-MAPT(P301L変異)脳において顕著に蓄積していることを確認した。次に、これらの病理を確認した被験者から生前に採取したCSF中MTBRタウ282濃度を詳細に調査した結果、CBD並びに特定のFTLD-MAPT(P301L変異)、更にはADにおいて顕著なMTBRタウ282濃度低下を確認した。CSF中のAβ並びにリン酸化タウを用いることにより、ADをスクリーンアウトすることは可能であることから、CSF中MTBRタウ282を測定することにより、CBD並びに特定のFTLD-MAPT病理を有する患者を層別することが可能となる。例えば、識別が困難とされるCBDとPSPを識別するにあたり、本バイオマーカーを用いた受信者操作特性(ROC)に基づく診断正確性は88.6% であった。なお、従来の臨床症状に基づくCBD病理診断予測の正確性は25-50%であり、我々が得たバイオマーカーに関する知見は、プライマリータウオパチ―を標的とする治療薬開発及び臨床試験への道を新たに切り開くものである。

受賞者のコメント
この度は,栄誉あるUJA論文賞を頂き,大変光栄に存じます。本論文成果は共著者である佐藤千尋先生をはじめとする多くの共同研究者の協力があってこその成果です。今後,本研究で確立したバイオマーカーの更なる臨床応用に向けて,より一層努力して参ります。

審査員のコメント
鎌田信彦 先生:
アルツハイマー病などの脳内タウタンパク質の凝集により引き起こされる神経変性疾患の新規バイオマーカーの同定をおこなった研究。臨床的有用性が高く、インパクトの高い研究です。

佐々木洋 先生:
プライマリータウオパチーである大脳皮質基底核変性症(CBD)及び、家族性の前頭側頭葉変性症の新規バイオマーカーを同定し、CBD診断正確性を従来の臨床症状に基づく25 - 50%をはるかに上回る88.6%まで引き上げることが出来る事を示した。この発見はタウオパチーという多様な神経変性疾患の診断と治療薬開発に多大な貢献をするものと予想され、数々のニュースメディアに取り上げられるなどその重要性が高く評価されている。

エピソード
脳内と脳脊髄液(CSF)中のタウ分子プロファイルは鏡の関係にある仮説の下,まずは臨床症状により診断されたプライマリータウオパチ―患者様由来のCSFを詳細に調べましたが,バイオマーカー同定に至りませんでした。そこで諦めずにプライマリータウオパチ―の病理診断情報が付帯した生前採取CSFを外部の共同研究機関から入手し研究を行った結果,納得性の高いバイオマーカーの同定に至りました。諦めない心が大切です。

1)研究者を目指したきっかけ
もともと分析化学が大好きで,クロマトグラフィーや質量分析の性能向上という基礎工学の研究に学生時代は没頭しました。次第に,この性能アップした分析技術を,自身で創薬研究に応用したいという考えが芽生え,臨床バイオマーカー研究に携わる今に至ります。
2)現在の専門分野に進んだ理由
Unmet Medical Needsが高い分野に挑戦したいと考え,神経変性疾患領域,特にアルツハイマー病に代表されるタウオパチ―の研究に没頭できる環境を探しました。自身の誰にも負けない得意技術は何であるかを自己分析し,高感度分析技術が求められる神経変性疾患のバイオマーカー研究を専門分野として策定し,当該研究分野で世界先端を行くセントルイスワシントン大学で研究を行うこととしました。
3)この研究の将来性
認知症は認知機能の低下により生活に支障をきたす重篤な疾患で,様々な原因が考えられています。その原因の一つにタウと呼ばれるタンパク質の脳内異常凝集が挙げられ,多くの研究機関や製薬会社がタウを標的とした治療薬を開発しています。しかしながら,全ての認知症がタウ凝集を原因とするわけではなく,別のタンパク質の異常凝集や血管障害など原因は様々です。そこでタウを標的とした治療薬を開発及び臨床応用するには,脳内タウの異常を検知するバイオマーカーが必要になります。今回の論文では,脳脊髄液中に存在する特定のタウ種の測定が,脳内のタウ異常凝集を病理所見とする大脳皮質基底核変性症の識別を可能にすることを世界で初めて示し,当該疾患の治療薬開発の加速に貢献するものと考えています。
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