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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞] 塚本翔大 /University of Chicago

Tatsuhiro, Tsukamoto PhD

酸・酸化剤フリーで進行する脱水素環化触媒反応の開発

Catalytic Dehydrogenative Cyclization of o‐Teraryls under pH‐Neutral and Oxidant‐Free Conditions

Angewandte Chemie International Edition

2020年5月


多環芳香族炭化水素(PAH)は優れた電気伝導性、発光性、しなやかさを有し、3D有機ディスプレイやトランジスタとして応用が期待されるため、その合成法の確立は学術的にも社会的にも意義深い。1910年に発見されたScholl反応は、PAH合成の鍵反応である脱水素環化反応として現在も広く用いられている。しかし、Scholl反応は大量の強酸や酸化剤を必要とし大量の副生物(ゴミ)を排出するため、環境破壊につながる恐れがあった。また、強酸条件に耐えられない化学種が多く存在するため、Scholl反応によって合成できないPAHが多く報告されていた。


申請者は、Scholl反応を代替・凌駕する新規脱水素環化反応の開発を目指し、環境保全の観点から太陽光などの再生可能エネルギーの利用に注目した。すなわち、Scholl反応で用いられる酸や酸化剤の代わりに、光エネルギーと適切な触媒を用いることによって、種々のPAHの合成法の確立を目指した。


申請者は、反応条件検討の結果、光照射下、コバロキシム錯体を触媒とする脱水素環化反応を見出し、1910年のScholl反応の発見以降100年来の課題であった、酸・酸化剤不要で低環境負荷型のPAH合成法を確立した。本手法によって、従来のScholl反応の適用可能範囲内のPAH合成のみならず、酸に不安定なシリルエーテルやヘテロ環を有する反応基質を原料とした新規PAHの合成も可能になった。単一触媒によって炭素–水素結合を炭素–炭素結合と水素ガスに変換する反応は合成化学的に重要であるものの、申請者が知る限りそのような前例は無く、申請者は脱水素環化反応が学術的に重要で、かつ有機材料合成法として有用であることを示した。今後、本手法によって新しいナノグラフェンなど有機材料開発への応用が期待される。なお、本研究で申請者は大学院生として研究プロジェクトを統括し、考案から実験、解析まで全て申請者が行い、筆頭著者かつ責任著者として成果を発表した。]


受賞者のコメント:

この度はUJA論文賞を賜りまして、大変光栄です。博士研究を支えてくれた指導教官には感謝の念に耐えません。これからも良い成果を出せるように、今回の受賞を励みにして引き続き精進します。


審査員のコメント:

論文のIFだけでなく,実験から論文執筆まで研究全体を主体的に行った経験は,今後のキャリア形成に重要な意味を持つ.申請者のさらなる活躍を期待したい.(望月先生)


本論文は、全く新しい多環芳香族炭化水素の合成法確立につながる成果であり、有機合成化学と有機材料化学に進展をもたらす重要な論文であると考えます。(内田先生)

エピソード: 良い結果が出るまでに1000回くらいは実験したので、根気強さはとても重要でした。また、最終的に論文は指導教官と共に共責任著者として発表したのですが、最初は責任著者については断られていました。私の場合は研究の構想から実験まで一人で行ったので、研究に対する自分の貢献度が高いことを指導教員に冷静に伝えることで、何とかOKをもらいました。責任著者としての実績は研究者としての独立性をアピールする良い材料になるので、交渉する価値はあると思います。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください  基礎研究で新しいことを発見して、長期的スパンで世の中の役に立ちたいと思ったのがきっかけです。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください  化学は興味の対象である生命科学や物性物理など広く関連し、またそれらに関連する新しい化学物質を自ら生み出すことに興味がありました。学科配属前の学生実験も楽しかったのが化学科に入る最後の決め手になりました。 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。 今回、新しい化学反応を発見し、ナノグラフェンと呼ばれる化合物の合成に成功しました。本反応を用いることによって、3Dディスプレイやトランジスタなどの開発が期待されます。 

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