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[論文賞]大森 徳貴/ブロード研究所

Satotaka Omori, Ph.D.
[分野:Disruptive Innovation Award]
機械学習を用いた新規老化細胞除去薬の発見
Nature Aging, 23-May-2023

概要
細胞はDNA損傷,テロメアの短小化,がん遺伝子の活性化,酸化ストレスなどのさまざまなゲノムストレスを受けると,細胞老化が誘導されることが知られている。細胞老化によって生じる「老化細胞」は恒久的に細胞周期を停止しており、また炎症や腫瘍形成を引き起こすサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、プロテアーゼなどの老化関連分泌表現型因子を分泌する。これらの因子は、がん、動脈硬化、変形性関節症などの後期高齢者疾患の有害な結果に寄与している。近年、老化細胞を選択的に除去することで、老化に伴う病態生理学的結果を改善できることが示され、老化細胞の除去を目的とした薬剤“Senolytics”は注目を集めている。しかしながら、老化細胞の研究分野は比較的新しく、創薬で遅れをとっていた。実際に、機械学習アプローチにより細菌感染や線維症を含む多様な適応症をターゲットとする化合物は発見されているが、Snolyticsを含むさまざまな治療領域での開発、試験、応用は発展途上であった。このような応用において、モデルの予測精度を決定し、化合物探索における機械学習の有用性を実証するためには、適切な概念フレームワークの設計、十分に制御された学習データの作成、適切なモデルアーキテクチャの選択、モデル予測値の実験的検証が重要である。
そこで本研究では、化学構造に基づいて、機械学習モデルによりインシリコでSenolyticsを予測できると推論した。エトポシド誘発老化細胞において、2,352化合物のスクリーニングを実施し、グラフ・ニューラル・ネットワークにより機械学習モデルを構築し、80万以上の分子の老化細胞除去活性を予測した。その結果、3種類の薬剤様化合物が、老化細胞を選択的に除去可能であり、既知の老化薬ABT-737よりも良好な薬理化学的特性と、それに匹敵する選択性を示した。また、老化細胞に関連するタンパク質と化合物の結合に関する分子ドッキング・シミュレーションとタンパク質のin vitroアッセイとの組み合わせから、これらの化合物は細胞アポトーシスの制御因子であるBcl-2を部分的に阻害する作用を持つことが示された。さらに、化合物を高齢マウスに投与した結果、腎臓における老化細胞関連遺伝子のmRNA発現と老化細胞数を有意に減少させることを見いだした。これらの結果は、有望なSenolyticsの同定を容易にしたグラフ・ニューラル・ネットワークの有用性を示すものであり、ディープラーニングを用いて効果的なSenolyticsを発見する道を開くものである。

受賞者のコメント
このような賞を受賞でき大変光栄です。選考してくださった皆様ありがとうございます。

審査員のコメント
本郷 有克 先生:
in silicoでのスクリーニングからin vivoモデルでの実証まで実施できていることは興味深い。今回見つかった化合物の特性解析を進めることでBcl-2以外への作用など老化の分子メカニズム解析の足掛かりになることも期待する

菊池 魁人 先生:
本研究は、老化細胞を取り除く薬剤を探索するに当たり、ディープラーニングモデルを使った化合物活性予測・分子ドッキングシミュレーションとFRET実験による薬剤ターゲット同定・マウスモデルでの検証を盛り込んでおり、非常に読み応えがある。

森岡 和仁 先生:
老化細胞除去薬の同定を目的とするAIドラッグディスカバリーの報告 インシリコから in vivo まで包括的に解析した力作なので反響が大きかったことは頷けるものであり、同定した3化合物が高齢マウスで明らかな老化抑制を示したことからとても有望なプラットフォームとして今後も期待できる この3剤による効果がさらに若い動物と同等の身体機能(幹細胞数の増加、成長因子の上昇、脳や心臓などのバイタルオルガンの機能更新など)や寿命の延長といったわかりやすい表現型を示すことができればさらなるインパクトに繋がると考える 続報に期待する

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
最初は生き物が好きという単純な理由で研究を始めました。その中で自分が不思議に思った疑問を、世界で最初に答えを知ることができる、という魅力に惹かれ、研究者になりました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
生き物はなぜ老化しなければならないのか、そんなことを昔から思っていました。老化の要因は様々ありますが、その中の一つに老化細胞の蓄積があります。これはここ10年に明らかになった知見であり、特に面白いことに老化細胞を除去すると老化を遅延させることもわかってきています。なぜ老化細胞は蓄積するのかはもちろんのこと、老化細胞を除去がヒトでも可能になれば、我々は健康に生きられるようになるのではないか。そんな世界を実現したいなと思って、老化の研究をしています。
3)この研究の将来性
将来的には生体内の老化細胞を除去できる新しい、そして安全で効果的な薬の開発につながると思っています。老化から始まる様々な加齢性疾患の対処法として確立され、病に苦しんでいる人が少しでもいなくなればいいなと思っています。
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