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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]大網 毅彦/千葉大学医学部附属病院

Takehiko Oami, M.D., Ph.D.
[分野:ジョージア]
(敗血症におけるアルコール摂取の腸管透過性への影響)
Shock, 01-August-2023

概要
敗血症は感染を契機として臓器不全が進行する重篤な病態であり,全世界の死亡原因の20%近くを占めている。敗血症は背景疾患の存在によって死亡リスクが上昇することが知られており,アルコール摂取は危険因子の一つとされている。特にアルコール依存症の患者が敗血症を合併した場合には死亡率が約2倍に上昇すると報告されている。慢性的なアルコール摂取によって敗血症における腸管恒常性の破綻が引き起こされやすいことが報告されているが,詳細なメカニズムについては明らかにされていない。そこで本研究では,アルコールを投与した敗血症モデルマウスにおける腸管透過性の変化とそのメカニズムを解明することを目的とした。
本研究では,腸管透過性の亢進に強く関与しているミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)に注目し,野生型(WT)とMLCKノックアウト(KO)マウスに水またはアルコール(20%)を一定期間投与し、その後盲腸結紮穿孔手術(CLP)を施行して敗血症モデルを作成した。まずアルコール投与後にCLPを施行したWTマウスでは,水投与後にCLPを施行したWTマウスに比べて腸管透過性が有意に亢進し,腸管透過性の亢進はMLCKの発現量増強と関連していた。一方で水を投与したMLCK KOマウスではWTマウスよりも腸管透過性が亢進したが,アルコールを投与したMLCK KOマウスではWTマウスと腸管透過性に差を認めなかった。同様に,水を投与したMLCK KOマウスでは空腸のIL-1β遺伝子発現の低下と血中IL-6濃度上昇を認めたが,アルコールを投与したMLCK KOマウスでは差は検出されなかった。MLCK KOマウスではWTマウスに比べて死亡率の改善が報告されているが,アルコールを投与したMLCK KOマウスではWTマウスに比べて死亡率が有意に上昇した。さらに,アルコールを投与した敗血症モデルマウスにおいて,空腸のTNFとIFN-γの遺伝子発現が亢進し,TNFとIL-17Aを産生するCD4+細胞とIFN-γを産生するCD8+細胞の割合も増加した。
今回の研究結果から,慢性的なアルコール摂取は敗血症患者において腸管透過性亢進とサイトカイン産生増強に関連していることが示唆された。今後敗血症におけるアルコール摂取による生体反応の違いを明らかにすることで,アルコール摂取歴のある敗血症患者に対する有効な治療の構築につながる可能性がある。

受賞者のコメント
米国留学中にUJA論文賞の存在を知り、いつか留学中の成果で受賞が叶えばと思っていました。今回の受賞で留学中の苦労が報われました!

審査員のコメント
斉川 英里 先生:
敗血症におけるアルコール摂取の臓器透過性への影響を判断するためにマウスを使った実験です。あまり研究が進んでない分野でこのような素晴らしい実験結果が見つかると、実際に人間への治療にも役に立つだろうと思われます。

斧 正一郎 先生:
本研究では、敗血症においてアルコール摂取が腸管に与える影響を詳細に調べたものである。マウスの敗血症モデルを用い、アルコール投与によって、腸管透過性が亢進し、さらに、サイトカイン産生が増加することを示した。また、MLCK 欠損マウスでは、アルコールの影響が無く、細胞骨格の関与が示唆された。分子生物学的手法と、生理学的解析を組み合わせて、分子レベルでのアルコールへの反応のメカニズムを明らかにした、素晴らしい研究である。

高山 秀一 先生:
敗血症のメカニズムを理解し、最適な治療成果のために敗血症患者を層別化することは非常に重要な目標です。特に、慢性的なアルコール使用が腸内容物の血菅への漏れにおけるpore経路とunrestricted 経路にどのように影響するかを調べることがテーマです。研究の量と質は非常に印象的です。抗アポトーシス治療など、治療提案もあります。初めての、海外での第一著者論文を取得したこと、おめでとうございます。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
医師として働いているときに重い病気で運ばれてくる患者さんを目の前にして命を救えずに悔しい思いをした経験があり、新しい治療で今まで救えなかった患者さんを助けたいという思いから基礎研究を始めることにしました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
医学部を卒業して初期研修医として働いているときに突然具合の悪くなる重い病気の患者さんを治療する救急・集中治療医に憧れたことがきっけかです。

3)この研究の将来性
敗血症は感染をきっかけにして重篤になる疾患で毎年多くの方が亡くなっています。敗血症では腸管機能が破綻することで腸管内の細菌が暴れ出し、全身の炎症が活性化しやすくなると言われています。特にアルコール摂取が敗血症の重症化リスクを増やすと言われており、アルコールが腸管機能の変化に関わっている可能性があります。そこで今回アルコールを投与した敗血症モデルマウスを使って腸管機能の変化を解析しました。その結果、アルコール摂取は敗血症の病態で腸管機能の破綻を引き起こし、全身の炎症反応を活性化していることがわかりました。今回の研究結果をもとにして腸管機能の破綻や炎症反応の活性化に関わっている物質を明らかにすることで、アルコール摂取歴のある敗血症患者さんに対する有効な治療の開発につなげていければと思っています。
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