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[論文賞]宮脇 敦士/東京大学

更新日:4月10日

Atsushi Miyawaki, M.D., Ph.D.
[分野:南カリフォルニア]
MD医師とDO医師が治療した入院患者のアウトカムの比較
Annals of Internal Medicine, 01-June-2023

概要
米国には、成り立ちの異なる2つの医学校(Medical Doctor [MD]養成校とDoctor of Osteopathic Medicine [DO]養成校)があり、学位もMDとDOで別々である。前者は西洋医学を、後者はオステオパシー医学と呼ばれる筋骨格系の手技療法を中心とした医学体系を基盤にしている。過去には教育内容が異なっていたが、現在では、MD養成校・DO養成校のカリキュラムの基準はほぼ同じとされており、DO医師はMD医師と同様に処方や手術ができる資格である。しかし、DO医師はしばしば不公平な扱いを医学界で受けてきた。DO養成校出身者の希望するレジデンシーのマッチング率はMD養成校出身者よりも低く、有名な研修プログラムやそこの指導医に占めるDO医師の割合は医師全体に占めるDO医師の割合よりも低い。
現在、米国では14万人以上(全医師の11%)のDO医師が働いており、全医学生の1/4がDO養成校に通っている。しかし、 MDとDOが資格上同等でも、患者にとって重要なアウトカム(医療の内容や、医療費、死亡率)が異なるかどうかについては、知見が限られていた。
そこで応募者は、メディケアのデータ(ほぼ全ての65歳以上の高齢者の診療報酬データ)を用いて、MD医師とDO医師が治療した入院患者のアウトカムを比較した。ここで、患者の重症度の違いが結果を歪めることを防ぐために、「自然実験」の手法を用いた。具体的には、ホスピタリスト(入院患者のみを診る医師)が治療した緊急入院患者に注目した。ホスピタリストはシフト制で勤務し、患者を選ぶことができない。また緊急入院患者では、患者は医師を選ぶことができない。このように医師も患者も互いを選べない状況を調べることで、MD医師とDO医師への「患者の割付」が同じ病院の中では、ほぼランダムに近い状況(=自然実験)を作り出せることを利用した。このユニークな手法を用いて2016〜2019年に3,428病院の17,918人の医師が治療した329,510人の患者を分析したところ、入院後30日以内のリスク調整後死亡率・退院後30日以内の再入院率・入院日数・入院医療費は、MD医師とDO医師でほぼ同等であった。
この結果は、少なくとも患者の視点では、担当医の学位(MD vs DO)を気にする必要がないことを示しており、MDとDOの学位のあり方について一石を投じた。また、患者にとって重要なアウトカムが同等である以上、医学界のダイバーシティを推進する中で、医学界はDO医師をより公平に扱う必要性を示唆しており、医療政策上重要な知見となった。最後に今回の研究で用いた医師の性質と患者アウトカムの関連を自然実験で探求する手法は、今後医師の診療パターンやパフォーマンスを研究する上で応用可能な手法になりうる。

受賞者のコメント
UJAの多くの素晴らしい先輩方が作り上げてきた賞をいただけるとのこと、大変光栄に思います。留学中のサポートをしてくれたAbe Fellowshipや所属先の上司、また、LAに単身赴任させてくれた妻にもこの場を借りて感謝したいと思います。

審査員のコメント
植木 靖好 先生:
実際に米国で診察を受けて来た側としてMDとDOと異なる学位を持つ医師が存在することには気づいていた。私自身も日本でのMDを持つため根拠のないままMDのドクターの方がDOのドクターよりも知識、経験、治療手技に優れているのではないかという考えを持っていた。この論文はそうした先入観をとりのぞきDO医師の立場を科学的に保証する基盤となる重要な論文と考える。一方で二つの学位を並行して存在させるのは意味は何なのだろうか?将来MDに一本化するようになるのだろうか?筆者には今後のMD/DO医師をめぐる米国の医療政策について今後も注視して論文報告をしてもらいたいと思っている。

金子 直樹 先生:
申請者らは2016年から2019年の間に入院した65歳以上のメディケア患者を対象に、MDとDOによる治療結果の違いを比較した。複雑なデータをいくつかの解析手法を組み合わせ注意深く分析しAverage Marginal Effect(AME)を算出し2群を比較している。その結果、患者の30日間死亡率、再入院率、入院期間、医療費において、MDとDOの2つのグループ間で統計学的優位差は見られなかった。さらに、疾患別と重症度別に細分化し比較しても、2群には差がなかった。これはMDとDOにおける医学教育の違いが、入院治療における診療レベルやコストに差がないことを示唆している。利用されたデータがHospitalistによって治療されたメディケアの高齢患者のみというlimitationはあるものの、この研究は歴史的にも教育的にもMDとは異なる学校を卒業したによるDOによる診療が、MDと比べて同等であると示した重要な知見であり、アメリカの医療政策上で大きなインパクトをもたらすものと考えられる。

北郷 明成 先生:
本研究は、MDとDOの訓練を受けた医師が提供する医療サービスの質に顕著な差異がないことを明らかにし、両教育プログラムが高品質の医療提供者を育成する上で等しく効果的であることを示唆している。この結果は、病院の採用ポリシー、患者の選好、およびMDおよびDOの医師に対する一般的な認識に重要な影響を与える可能性がある。特に、医療提供者の評価においては、学位の種類よりも、その個人の専門技能、臨床経験、および患者の治療成績に焦点を当てるべきであることが示唆され、医学会のみならず社会的にも非常にインパクトのある内容である。また、エディターズピックやオンラインニュースなどで取り上げられたことは、その意義が広く認識されてる証拠でもある。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
中学生の頃から、色々工夫してこれまでにない解決策を見つけ出す、という作業が好きでした。その後、高校の生物の先生に研究者向きだと言われたのを機に研究者を意識し始めました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
健康などの人間の幸福を制度・仕組みを通じてどのように向上させることができるか、という点に興味があったから。
3)この研究の将来性
医療には患者さんにとって様々な不合理があります。
科学の発展により多くの新しい治療法が開発されていますが、治療を最終的に患者さんに提供するかどうかは人間である医師が判断します。
しかし、その判断は、たとえ同じ患者を目の前にしたとしても、医師によって異なることが知られており、場合によっては患者さんの健康にまで影響する不合理が生じます。
今回の研究のように、医師のバックグラウンドや医師患者の関係性、診療環境が医師の意思決定や患者さんの健康に影響するのか(しないのか)を明らかにすることで、このような不合理を減らしていこうと研究しています。
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