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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]小野原 大介/エモリー大学

Daisuke Onohara, M.D., Ph.D.
[分野:ジョージア]
(羊の胎児を用いた左心低形成症候群モデルの開発)
JTCVS open

概要
生まれつきの心臓病である先天性心疾患は症例数が少ないこともあり研究を発展させることが容易ではないとされている。特に動物モデルにおいては遺伝子改変を用いた小動物モデル(マウス・セブラフィッシュ)は開発・活用されているが、大動物を用いて病態を再現することは困難を極める。先天性心疾患の1つである左室低形成症候群は出生して早期に複数回の外科手術を行わないと生存できない疾患であり、手術に成功しても50歳以上生存することは難しい。それゆえ病態のさらなる理解、新しい外科的治療法の開発のために大動物モデルの開発が長年期待されてきた。左室定形性症候群の病因として複数の遺伝子異常が指摘されているが、心奇形に伴い正常な血流が心臓内を流れない機械的刺激の欠如も心臓の発達を抑制しているという「no flow/no grow」という仮説が提唱された。このことは1973年に鶏卵を用いて証明されたが、1978年に羊の胎児を用いた実験が行われたもののあまりにも生存率が低かったため、その後、20年以上も大動物モデルの開発が報告されていない。我々はOregon Health & Science Universityと共同研究し、妊娠120日目の羊の胎児を用いて左室低形性症候群モデルの開発を行った。正常血流の抑制は、羊の胎児の左房内にバルーンカテーテルを挿入し、それを拡張することで左室流入血流を遮断することで再現した。手術は全身麻酔下に妊娠した母親羊を開腹し子宮露出し、子宮を切開することで羊の胎児を一時的に体外へ取り出した。採血、血圧モニター用のカテーテルを頸動静脈に挿入し、上行大動脈には心拍出量を確認するためにフローモニターを留置した。左房内にバルーンカテーテルを挿入したのち閉創し胎児は再び子宮内に戻した。術後はモニターで持続的に胎児の血圧・脈拍・心拍出量を確認しながら徐々にバルーンを拡張し、完全に左室駆出量がゼロとなるように調整した。実験の安全性、胎児の生存率を考慮し2週間の実験期間中8日間のバルーン拡張となったが、有意差をもって左室容量は減少し形態・組織学的にも変化を認めた。特記すべきは高い手術の成功率(胎児の生存率)であり、この経験をもとにより妊娠早期に実験を行いさらに心発達の抑制を伴った大動物モデルの確立を行っていく予定である。

受賞者のコメント
この度はUJA論文賞を受賞することができ大変うれしく思います。この論文は世界的にも稀な大動物を用いた先天性心疾患モデルの開発について報告したものです。今後はさらなる改良を加えより精度と再現性が高く意義のある動物モデルの確立に尽力したいと思います。

審査員のコメント
斉川 英里 先生:
生まれつきの心臓病である先天性心疾患の治療法を開発するために重要な研究発表のように思われます。「早期に複数回の外科手術を行わないと生存できない疾患であり、手術に成功しても50歳以上生存することは難しい」ということですので、このように羊の胎児を用いた左室低形性症候群モデルの開発は大変意味があるのだと感じます。とても大変な手術ですが、高い手術の成功率や、この研究をもとにして様々な今後の研究が楽しみです。

斧 正一郎 先生:
本論文では、大型動物での先天性心疾患のモデルを開発することを目的とし、羊の胎児の血流を操作し、心形成の異常を人為的に起こさせる実験を行っている。その結果、高い生存率で心発達を抑制する方法を見出した。今後の発展の見込まれる、挑戦的な研究であり、当該分野では、インパクトのある研究である。

高山 秀一 先生:
Approximately 40,000 babies are born with a congenital heart defect in the United States each year, of which hypoplastic left heart syndrome (HLHS) is one of the most common.No-flo, no-grow hypothesis proven in improved large animal model where surgery and devices can be tested to treat this common disease for which no good treatment. A career-building corresponding author paper describing novel procedure with many potential applications for research on a condition with few existing good treatments.

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
心臓血管外科医として働く中で、今ある既存の手術方法だけでは助けることができない命があることを知り、もっと病気のことや、その手術方法の効果と限界を深く理解したいと思ったからです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
心臓手術の多くは機能を修復するための手術であり、質の高い手術が提供できればより多くの患者さんの命が救えると考えたからです。

3)この研究の将来性
生まれつき心臓に病気をもった赤ちゃんは1000人に1人か2人程度生まれるといわれており、比較的稀な病気です。医学の進歩に伴い治療成績は向上していますが、十分な研究が行われているとは言えない分野です。その弊害の1つが適切な大動物モデルが存在しないことによる手術技術の開発にあります。今回の動物モデルの開発により病気の理解が進むだけでなく、現在の治療法の改善や新しい治療法の開発につながる可能性があります。
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