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[論文賞]尾市 健/帝京大学

更新日:4月30日

Takeshi Oichi, M.D., Ph.D.
[分野:整形外科分野]
栄養による軟骨成長板幹細胞の制御機構の解明
Bone Research, 21-April-2023

概要
小児期の骨成長は長管骨の骨端部にある軟骨成長板とよばれる軟骨組織が骨に置換されることで起こる。軟骨成長板は静止層、増殖層、肥大層の3層から成るが、近年、軟骨成長板静止層に存在する幹細胞が軟骨細胞を継続的に供給することが証明された。小児期の低栄養は骨成長障害を来し、一時的な低栄養状態が改善すると骨成長が加速するcatch-up growthと呼ばれる現象が起きるがこの現象の機序は長らく不明であった。申請者はAxin2遺伝子が軟骨成長板幹細胞集団を標識することを見いだし、またAxin2CreERT2;R26RZsGreenマウスを用いた細胞系譜実験およびマウスのcatch-up growthモデルによりcatch-up growthが起きるメカニズムの一部を解明した。
申請者はAxin2CreERT2;R26RZsGreenマウスを用いた細胞系譜実験により、Axin2陽性細胞が軟骨成長板幹細胞集団を標識する事を明らかにした。次にAxin2CreERT2;R26RZsGreenマウスに7日間50%の食事制限の後、栄養を再開するcatch-up growthモデルを作成し、栄養が軟骨成長板幹細胞の動態に与える影響を調べた。食事制限により軟骨成長板幹細胞は自己複製を促進すると同時に増殖軟骨への分化を抑制し、結果として静止層に幹細胞が貯蓄された。次いで栄養を再開すると、貯蓄した幹細胞は速やかに分化を再開し、コントロール群と比べより多くの軟骨カラムを生成することで成長促進に寄与した。外部栄養による幹細胞制御メカニズムの詳細を調べるため、laser microdissectionおよびRNA-seqの手法で増殖層軟骨と比べ静止層軟骨に特異的に活性化しているシグナルを調べた。軟骨静止層ではIGF1/PI3Kシグナルが特異的に亢進しており、その強度は栄養状態にリンクして変動していた。さらにin vivoでの食事制限による幹細胞の分化抑制効果はrhIGF1投与によりキャンセルされた。以上から外部栄養は軟骨成長板幹細胞の自己複製および分化のバランスを制御し、IGF1シグナルが軟骨成長板幹細胞の増殖軟骨への分化を促進する作用を介してこの制御に関与していることを明らかにした。

受賞者のコメント
このような栄誉ある賞を頂き、大変光栄に思います。審査員の皆様、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。小児期に存在する成長軟骨板幹細胞は、低栄養下では分化を抑制し、自己複製を強化することで、栄養再開時の成長促進に備えている事が明らかとなりました。しかし、具体的にどの栄養素がキーとなってその役割を果たしているか、またその制御機構については未だ明らかとなっていません。今後、さらに研究を発展させることでこの成長軟骨板幹細胞の未知の機能を解明したいと思っています。

審査員のコメント
千葉 一裕 先生:
低栄養による骨成長障害は、適切なタイミングで栄養状態が改善できれば回復させることができることが知られているが、この研究ではそのメカニズムの一端を明らかにしている。研究結果から、①成長軟骨版には軟骨細胞のProgenitor(Axin1を発現)が存在し、②この細胞は低栄養の状態では分化を停止する一方、細胞増殖は誘導し、③低栄養状態が改善されたときには、一気にこれらの細胞が分化し、長軸方向の成長に寄与する、ことを明らかにした。さらに、低栄養状態ではProgenitorのIGFRシグナルが低下し、IGFを投与することで、Progenitorの分化を誘導できることを示している。非常によく練られた興味深い研究である。

水野 秀一 先生:
完結した研究である。研究者の手技技術による実験モデルであり、主要な役割を務めたと理解する。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
整形外科医として診療にあたる際に、手術だけでは治療できない多くの患者さんに出会い、基礎研究の大切さを痛感しました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
整形外科医として勤務するにあたり、自然と運動器に興味を持ちました。
3)この研究の将来性
骨成長の制御機構や小児の低身長症の原因解明につながればと考えています。
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