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[論文賞]新澤 未穂/アメリカ国立衛生研究所

更新日:2023年4月14日

Miho Shinzawa, M.D., Ph.D

[分野:免疫アレルギー]
(リバース免疫システムが解明するT細胞の運命決定機構)
Nature Immunology, May 2022

概要
獲得免疫は、ウイルスなどの病原体を排除する重要な生体防御反応である。その獲得免疫において活躍するT細胞は、ヘルパー、またはキラーという異なる機能を持つ2種類のT細胞に大別される。ヘルパーT細胞とキラーT細胞は、胸腺内で、TCR(T細胞受容体)を介してシグナルを受容した共通の前駆細胞から分化する。しかしながら、どのようなシグナルによってT細胞がヘルパーまたはキラーとして機能する運命が決定するのかは不明であり、長年議論されてきた。自然界に現存している獲得免疫を持つ生物が例外なくCD4のみを発現するヘルパーT細胞とCD8のみを発現するキラーT細胞を有することから、CD4とCD8タンパク質がT細胞の運命を決定するという仮説がこれまで広く受け入れられてきた。
T細胞の機能は、細胞表面のCD4、CD8タンパク質によって決定されるのか、それともCd4、Cd8遺伝子によって決定されるのか?この疑問を明らかにするため、本論文では、Cd4とCd8遺伝子がコードするタンパク質を入れ替えたFlipFlopマウス (Cd4-CD8, Cd8-CD4) を作製した。その結果、FlipFlopマウスがリバースT細胞免疫システム (CD4キラー、CD8ヘルパー) を構築することを見出した。さらに、Cd4とCd8遺伝子は前駆細胞が受容するシグナルの長さを制御することによって、T細胞機能特異的な転写因子の発現を決定していることを明らかにした。このことから、細胞表面に発現するCD4、CD8タンパク質やTCRの特異性ではなく、Cd4とCd8遺伝子がT細胞の運命を決める重要な因子であることが解明された。また、リバースT細胞は抗原免疫やウイルス感染時に適切な免疫反応を誘導できなかったことから、リバース免疫システムをもつ生物が自然淘汰されてきた進化の歴史を垣間見ることができる。

受賞者のコメント
論文賞に選出していただいて、どうもありがとうございます。このような素晴らしい賞をいただけてとても嬉しいです。

審査員のコメント
足立剛也 先生:
CD4及びCD8の遺伝子とタンパク質に焦点を当て、進化の過程で重要な獲得免疫の基礎的機構を明らかにした成果である。T細胞の運命を決定づける因子としての、CD4, CD8遺伝子発言を明らかにし、進化の過程を紐解く基盤的な研究内容であり、分野を超えたインパクトを有し、論文賞に合致するものと高く評価される

小野寺淳 先生:
本リバースT細胞システム、大変興味深く読ませて頂きました。以下の3点に関する結果と考察が特に面白かったです。(1) CD8+のTregが機能するという事実は、「Tregがどのように抑制能を発揮するか?」という未だ議論が続いている問題への解決の糸口になるかもしれない。(2) CD8+のTFHが高親和性の抗体産生を誘導できなかった実験結果は、B細胞がTFHに対してMHCクラスIを使った抗原提示ができないことに起因する。(3) CD4+のCTLがウイルスを排除できないのは、MHCクラスIIを用いて抗原提示するAPCを殺傷してしまうからだ。以上のようにどの考察も免疫学的にはmake senceであり、非常に論理的な研究論文であると評価できます。

エピソード
今回発表した論文は2報目になるはずのプロジェクトだったため、早く論文を出せないことに焦りとストレスをずっと感じていました。しかし免疫学初心者だった私は、2つのプロジェクトを通して免疫学の基礎を学んできました。新しい分野、異なる言語や文化での研究や日常生活はとても大変です。しかし挑戦の過程で得た知識や経験は、貴重な財産になると思います。

1)研究者を目指したきっかけ
様々な緻密なシステムで成り立つ生命の美しさの本質の一端を解明できたらという思いと、学会などで世界中を飛び回れることが魅力的で、気がついたら研究をずっと続けていました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
自己と非自己を区別して、ウイルスを排除する一方で、自分を攻撃せずに自己免疫疾患の発症を防ぐ精巧な免疫システムがとてもおもしろいと思ったため、ポスドクから本格的に免疫研究に進むことにしました。

3)この研究の将来性
T細胞は、病原体や腫瘍の排除において重要な役割を担っています。そのため、T細胞機能の向上や、T細胞自体を改変するなど様々な治療の標的として利用されています。その機能的なT細胞がどのように作られるのか、という根本的なメカニズムを理解する基礎研究は、さらに効果的な治療法の確立へと応用する上でとても重要であると考えています。

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