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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞] 横田知大 /University of California, Los Angeles

更新日:2021年4月6日

Tomohiro Yokota Ph.D.

Ⅴ型コラーゲンによる心筋梗塞後の繊維性組織サイズの制御機構

Type V Collagen in Scar Tissue Regulates the Size of Scar after Heart Injury.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32621799/

Cell

2020 July


急性心筋梗塞は主要な死因の一つであり、その有病率は世界中で300万人に迫っている。急性心筋梗塞がおきると心筋細胞は死に、主にⅠ、Ⅲ型コラーゲンなどから成る繊維性組織に置き換わる。これまで多くの心筋梗塞発達機序の研究が行われてきたが、心筋梗塞後の繊維性組織の大きさを調節する要因についてはほとんど知られていない。 本論文では心筋梗塞後の繊維性組織の大きさを調節する候補因子として、Ⅴ型コラーゲンに着目した。Ⅴ型コラーゲンはマウス心筋梗塞モデルの繊維性組織において多く存在しており、Ⅴ型コラーゲンが心線維芽細胞から産生されていることを見出した。その結果を元にⅤ型コラーゲンalpha鎖をコードする遺伝子Col5a1を線維芽細胞特異的に欠損させたマウスモデル(Col1a2CreERT; Col5a1Flox, TCF21MerCreMer; Col5a1Flox以下Col5a1CKO)を作成し、心筋梗塞を起こしたところ、Col5a1CKOマウスは心筋梗塞を起こした通常のマウスに比べて心機能の顕著な低下、繊維化領域の増加をみた。また遺伝子背景の異なる100系統のマウスを用いたシステム遺伝学的アプローチによっても、Ⅴ型コラーゲンが損傷後の心臓機能に関与する重要な因子であることが示された。電子顕微鏡を用い心筋梗塞後の繊維性組織を調べたところ、Col5a1CKOマウスはコラーゲン繊維の異常な配列・断裂が確認された。繊維性組織の非心筋細胞に対して行ったsingle cell RNAseqにより、Col5a1CKOマウスでは、線維芽細胞において活性型線維芽細胞マーカーが多く発現している事が見出された。これらの結果より我々は、Ⅴ型コラーゲンが繊維性組織の機械的性質を変え、それにより線維芽細胞が活性化されるとの発見に至った。さらに我々は機械的性質の変化によりインテグリン受容体alphaVbeta3とalphaVbeta5の増加を確認し、その二つの受容体の阻害薬であるCilengitideにより、心筋梗塞後のCol5a1CKOマウスでみられた心機能の低下と繊維化領域の増加が心筋梗塞後の正常なマウスと同等にまで抑えられることを示した。  以上のように、本論文で我々は、Ⅴ型コラーゲンがインテグリン受容体を介して心筋梗塞後の繊維性組織の大きさを調節することを示し、さらにⅤ型コラーゲンをコードする遺伝子に異常をもつ人が心筋梗塞になった際、Cilengitide (インテグリン受容体alphaVbeta3/alphaVbeta5阻害薬)を治療へ応用できる可能性を示した。

受賞者のコメント:

論文賞を受賞でき大変嬉しく思っています。この受賞を励みにより一層面白い研究ができたらと思います。


審査員のコメント:

心筋梗塞という主要な死因の治療につながる重要な研究である。心筋梗塞の分子的なメカニズムの一端を解明した。インパクトの大きい雑誌の掲載ということの努力も大きく評価したい。(木原先生)


心筋梗塞は日本人の死亡原因の第二位に上がられている疾患で、心筋梗塞により心筋細胞が壊死すると二度と元の状態に戻らず、瘢痕組織の大きさは損傷後の心臓機能に大きな影響を与える。本研究では、V型コラーゲンが心筋梗塞後の瘢痕組織の大きさを制御することを見出した大変重要は報告で、また、V型コラーゲンの遺伝子の異常をもつヒトへの心筋梗塞後の治療オプションも示した意義深い論文である。(中村先生)


This paper addresses and important topic in cardiovascular disease. The paper performs an incredible amount of work to confirm robust involvement of Col V; human disease relevance is also suggested (e.g. Ehlers–Danlos syndrome). Some pharmacologi interventions are also suggested. Col V may be useful as a biomarker as well. That less collagen is bad for scars is somewhat counterintuitive and interesting. There may also be relevance beyond the heart to many types of fibrosis, a process involved in many diseases. Quite a significant finding.(高山先生)

エピソード: 受賞論文では、RNA FishやBioengineeringといった新たな手法を取り入れ、仮説を実証することができたこともあり、新たな手法をすぐに使う事ができる環境で研究をすることは今後の研究においても有益と私は考えるので、是非とも欧米等の研究発展国で経験を積むことをお勧めします。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください  新しいことを自ら見つけるということに面白さを感じたので、研究者になりました。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください  もともと医学に興味があり、その中でも心臓は全臓器の中で一番、異常な状態になった時に死に直結する臓器であったので、心臓の研究を選びました。 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。  心筋梗塞を起こした後、心臓の筋肉(心筋細胞)が死に、線維芽細胞などにより産生される細胞外基質に置き換わり(線維化)心臓はその機能や形態を保ちます。しかしながら、心筋梗塞後の線維化領域のサイズがどのように制御されているのかは知られていませんでした。本研究では、線維芽細胞が産生するV型コラーゲンが心筋梗塞後の線維化領域のサイズを制御していることを見出しました。

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