我々の以前の研究で、腸内細菌叢から100以上の菌種を集めて腸内細菌叢の人工的なモデルであるhComを確立していた(Cheng et al., Cell, 2022)。今回の研究では、我々はhComが免疫系に与える影響を調べた。hComを生着させたマウスのT細胞は、自然なマイクロバイオームを持つマウスのT細胞と機能が類似していることがわかった。このことは、hComが、腸内細菌叢による免疫制御を調べるためのモデルとして有用であることを示している。
腸内細菌は宿主の免疫、特にT細胞の分化・制御に深く関わっており、腸管感染症や多発性硬化症や関節リウマチなど、宿主の病態形成と恒常性維持に重要です。本研究では、ヒト腸内細菌定着ノトバイオートマウスを導入し、scRNAseqやTCRseqなどの先端技術を用いてT細胞やT細胞受容体の特徴を大規模に調べています。さらにin vitro, in vivoの実験系で、これらのT細胞が腸内細菌由来の特定の分子に応答することを同定しました。本研究は、腸内細菌によって誘導されるT細胞の遺伝学的・免疫学的特徴を明らかにし、様々な分野に波及効果のある重要な論文です。
高校では、運動方程式の微分・積分を使って全ての運動を記述できると言うニュートン力学の美しさに魅了される一方で、生物学は混沌としているように感じて興味を持てませんでした。大学生の時に、生物学の名著であるMolecular Biology of the Cellを読んで、一見無秩序に思える生物もgenome >> mRNA >> proteinというセントラルドグマに基づいていることを学び、同じ根本原理に基づいている細胞がこんなにも多様な機能を持ち多細胞生物という個体レベルで協調していることに衝撃を受けました。いまだに生物学の未解決問題であふれている現代に生まれたことを幸運に思います。Large language modelなどのAIや、CRISPRをはじめとした遺伝子改変の新しい技術を用いてこれらの問題に取り組めることに興奮しています。
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