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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞]江島 啓介/インディアナ大学

更新日:2022年4月23日

Sho Hiroyasu, Ph.D.

[分野4:インディアナ州]
(新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬開発を支援するシミュレータを開発)
PLoS Medicines, July 2021

概要
新型コロナウイルス(COVID-19)の治療に有効な抗ウイルス薬を探索する臨床試験がたくさん行われている。ところが、パンデミックから2年程度たった現在でも有効性が確認され承認されたウイルス薬の数は限られる。同じ薬剤でも試験によって大きく異なる結果も報告されている。その理由(の一部)を解明し、より効率的に臨床試験をデザインするために、ウイルス動態(ウイルス量の時間変化)を再現するシミュレータ開発を行った。
アジア、ヨーロッパの30症例から得られた、発症後のウイルス量の時系列データに我々の開発したウイルス動態を記述する数理モデルをフィットしてパラメータを推定し、また観測時以外のウイルス量も再構築した。再構築された個々の患者のウイルス量の動態をクラスタリングで仕分け、グループ間でどのパラメータが異なるかを統計的に検定した。また、推定されたパラメータの分布を用いて不均一性を考慮した時系列ウイルス量データを作成するシミュレータを開発した。シミュレータを用いて擬似的にランダム化試験を再現し、発症からの経過時間を臨床研究に参加してもらう条件としたときのサンプルサイズ(必要な患者数)を計算した。
ウイルス量の変化は3つのグループに分けられた。これらのグループは異なる感染細胞の死亡率の違いによるものであり、個々の免疫反応の不均一性を示唆している。また、シミュレータを通じてサンプルサイズを計算したところ、ランダム化を行うタイミングに関わらず、全ての人を臨床試験に募集した場合、1万人以上の患者が必要である一方で、発症後1日以内の患者のみを募集することで500人程度までサンプルサイズを減らすことができる。ほとんどの臨床研究では発症後の時間を考慮した患者の募集を行っていないので、非現実的に大きなサンプルサイズになってしまい、検出力の低い臨床試験になっていると考えられる。
観察研究は患者の免疫状態の差に大きく影響を受けるので、治療の決定が免疫状態に依存するのであれば観察研究は大きくバイアスを受けるため、ランダム化試験が必要である。また、ランダム化試験で抗ウイルス薬の効果を測るには発症後すぐの患者を募集する必要がある。

受賞者のコメント
様々な御縁が重なって執筆させていただいた論文がこのような評価をいただいたことをうれしく思っております。

審査員のコメント
今崎剛 先生:
COVID-19 において迅速な抗ウイルス薬の開発は急務であり、臨床試験の規模や時間短縮は非常に重要である。申請者は既存の臨床試験の問題点に注目し、独自のアプローチで評価する方法を開発し、発症のタイミングを考慮することにより患者数を絞り込むことが出来る可能性を示した。今後の COVID-19 抗ウイルス薬開発の迅速化に貢献しうる非常に重要な研究だと思い、高く評価した。

加藤明彦 先生:
This study addresses the question of why clinical trial results of anti-SARS-CoV-2 drugs designed to prevent viral replication have been inconsistent. The authors employed a mathematical virus dynamic model describing the viral loads (SARS-CoV-2 RNA copies) over time with differential equations, and determined the model parameters by fitting with real-world viral load data. They found 3 patient groups with significantly different decay rates in the viral load. Next, they simulated the viral load with therapeutic interventions by hypothetical anti-viral-replication agents (50, 95 or 99% inhibition of SARS-CoV-2 replication), at various time points. Their simulation indicated that only treatment at the early onset of viral replication is effective even if the anti-replication agent has 99% efficacy. Finally, they calculated how many patients are needed for clinical trials without considering the viral load decay rate subgroups or the timing of the therapeutic intervention. They concluded that unrealistically large sample sizes are needed under such conditions, and propose that patient populations must be chosen for a reliable evaluation of anti-viral-replication drugs. This study is highly creative. The notable excellence is that they propose a potential solution to overcome the medical problem facing our world today with their excellent expertise in mathematical modeling and publicly available clinical data.



エピソード
新型コロナ感染症流行初期に何か我々でもできることはないかと様々な人と話す中で出てきたアイデアの一つが受賞論文です。留学を目指している方にというわけではないですが、一つ一つの出会いを大切にすることと、うまくいかなくても我慢しなければいけない時もあるということは心のどこかにおいておくといいのかなと思いました。

1)研究者を目指したきっかけ
何となく面白そうだったから。
2)現在の専門分野に進んだ理由
大学での授業や色々な大人の人との話の中で公衆衛生に興味を持ちました。
3)この研究の将来性
治験を効率化することで、早く安全な薬の開発が可能になります。
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