同種造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(Graft versus Host Disease: GVHD)の腸管炎症、自己免疫性腸炎、免疫チェックポイント阻害剤による腸炎は主にT細胞が起因となる。これまでT細胞などの免疫細胞に着目した研究は多くされている一方で、標的となる腸上皮細胞に着目した研究は少ない。T細胞依存性腸炎に対して、ステロイドホルモン製剤や抗サイトカイン製剤の有効性は認められるが、感染等の合併症が問題となり、より効果的な治療が求められる。近年、免疫細胞のミトコンドリアに関する研究が多く報告されている。ミトコンドリアには細胞代謝、エネルギー産生において重要な役割を果たす電子伝達系が存在し、免疫細胞において代謝系とその細胞の機能は密接な関連あり、T細胞依存性腸炎における重症度にも影響する。ではT細胞のターゲットとなる腸上皮細胞ではどうか。腸上皮の代謝系の変化や変化に伴う疾患への影響は未解明である。
そこで我々はGVHDマウスモデルを用いて、腸上皮細胞における代謝系の変化を解析したところ、GVHDマウスでは腸上皮細胞ミトコンドリア電子伝達系複合体IIが障害されていることが明らかとなった。複合体IIは、クエン酸回路にも大きく寄与しており、その結果細胞内のコハク酸の増加を認めた。そしてこの複合体IIの障害はsuccinate dehydrogenase complex flavoprotein subunit A (SDHA)の減少が原因であることが判明した。加えて、腸上皮細胞SDHAの減少は、特定のT細胞依存性腸炎に特異的であることが明らかとなった。腸上皮特異的SDHA欠損マウスでは、重度の腸GVHDを認め、腸上皮の複合体II がT細胞依存性腸炎の制御因子であることが明らかとなった。 そして、腸上皮細胞SDHAの減少は、mRNAではなく蛋白質レベルで起こり、T細胞が腸上皮に接触する場合のみ認める現象であった。
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