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[論文賞]渡辺 知志/金沢大学

更新日:2022年4月25日

Satoshi Watanabe, M.D., Ph.D.

[分野5:イリノイ]
(統合的ストレス応答を標的とした肺線維症治療の可能性)
Proc Natl Acad Sci U S A, May 2021

概要
肺線維症は肺に進行性の線維化を起こす難病であり、有効な治療法に乏しい。肺胞は傷害を受けると、組織幹細胞である2型肺胞上皮細胞が、ガス交換を担う扁平な1型肺胞上皮細胞へと分化することで修復される。肺線維症でこの上皮修復機構が障害されることは以前から知られていたが、その分子学的メカニズムは明らかではなかった。本論文では、上皮修復機構として、タンパク恒常性の維持に関わる「統合的ストレス応答(Integrated stress response: ISR)」の働きに注目した。肺線維症モデルでは、2型肺胞上皮細胞でISR関連遺伝子の発現亢進を認めた。ISRを抑制する低分子化合物ISRIB(Integrated stress response inhibitor)は、2型肺胞上皮細胞においてタンパク質フォールディングに関わる遺伝子発現を亢進させ、肺傷害後の上皮アポトーシスを抑制した。さらに肺線維症モデルおよび肺切除後肺胞形成モデルを用いることで、ISRIBは2型肺胞上皮細胞から1型肺胞上皮細胞への分化を促進することを明らかにした。上皮の修復が促進されることで、線維化促進作用のある単球由来肺胞マクロファージの動員が抑制され、肺線維症は改善した。本研究の結果から、ISRを制御することで肺胞上皮の修復・再生を促進させることができ、ISRIBは肺線維症の新たな治療薬となる可能性が示された。

受賞者のコメント
この度は名誉あるUJA論文賞に選んでいただきありがとうございます。この研究に関わり最後まで支えて下さったラボメンバーの皆様、共同研究者の方々に感謝申し上げます。

審査員のコメント
佐田亜衣子 先生:
本研究では、肺線維症に対する新規の治療標的として2型肺胞上皮細胞(組織幹細胞)におけるプロテオスタシス制御に着眼し、マウスモデルを用いた低分子化合物ISRIBの有効性の検証、およびその過程で起こる細胞動態や分子変化に関する病態メカニズムの解明を行った。実験は若齢、高齢マウスを用い、複数の投与条件、タイムコースにおいて行われ、データの量、質ともに良好である。プロテオスタシスの分子標的としての興味深さに加え、細胞運命、線維化病態、加齢変化を結びつけたin vivoの解析は独自性があり、基礎、応用の両面において意義の大きい研究成果である。

山田かおり 先生:
肺線維症の機序と動物実験で解明し、治療薬としてISRIBの効果を示したおもしろい論文である。年老いたネズミと若いネズミの応答の違いに言及したのも興味深い。また、lineage tracing 動物モデルで、monocyte-derived alveolar macrophageの役割や、T2からT1への分化への影響を見たのもすばらしい。また、Bleomycin、アスベスト、肺除去モデルを使っているのもよい。

牛島 健太郎 先生:
統合的ストレス応答(ISR)はストレス曝露下の細胞で機能するが、長期的には細胞死を引き起こす側面もある。本研究では肺線維症モデルマウスを用いて、2型肺胞上皮細胞から1型肺胞上皮細胞へ分化する過程にISRが阻害的に作用すること、このISRを抑制するISRIBが1型肺胞細胞への分化を促進することを明らかにした。これらの成果は、ISRIBが肺線維症治療薬になり得ることを示す意義深いものである。

エピソード
コロナ渦による様々な制約で、研究の時間を思うようにとることができず、あともう一息、という状態で帰国日を迎えてしまいました。しかし、オンラインでのやり取りが日常となったお陰で、帰国後も追加実験の相談や論文の修正、再投稿の準備など、ラボメンバーとこまめにやり取りすることができました。時代の流れにうまく乗りながら、最後まで諦めずに取り組んだのが良かったと思います。

1)研究者を目指したきっかけ
医療現場で働く中で臨床医学の限界に気が付き、研究の必要性を感じたため。
2)現在の専門分野に進んだ理由
解明されていない病気が多いため。
3)この研究の将来性
呼吸器難病疾患の克服につながる可能性がある。
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