[論文賞]渡邉潤/新潟大学
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 4分
Jun Watanabe, M.D., Ph.D.
[分野:イリノイ]
論文リンク
論文タイトル
BET bromodomain inhibition potentiates radiosensitivity in models of H3K27-altered diffuse midline glioma
掲載雑誌名
The Journal of Clinical Investigation
論文内容
Diffuse midline glioma(DMG) H3K27-alteredは小児期に脳幹部を中心とした正中構造に発生する予後不良の脳腫瘍である。放射線治療のみが有効な治療手段であるが、5年生存率は1%に満たず、真に有効な治療法が求められている。Radiosensitizerは放射線治療と併用することで、放射線感受性を向上するものと定義される。放射線治療しか有効な手段がない本疾患では、有効なradiosensitizerとの併用療法は治療戦略の一つである。本研究では放射線治療と併用での2880種類のDrug ScreeningをH3K27M変異型と野生型のDMG細胞株に行った。H3K27M変異株ではブロモドメイン(BRD)阻害剤群がH3K27M変異を有するDMGに対する強力なRadiosensitizerであることを同定した。またCRISPR Cas9による遺伝学なBRD4阻害、薬剤によるBRD4阻害の両者がDMG細胞の増殖抑制を示し、放射線感受性を強力に増強することを示した。免疫沈降シークエンスであるCUT &RUN (Cleavage Under Targets and Release using Nuclease)、RNAシークエンスとの複合解析の結果からBRD4阻害剤がエンハンサーにおけるH3K27ac制御を通して、BRCA1やRAD51などのDNA 修復関連遺伝子発現が抑制され、放射線治療によるDNA damageの蓄積が強力に増強されることが放射線感受性を向上するメカニズムの1つであることを同定した。また、human DMG PDX modelと遺伝学工学的なmouse DMG modelの両者でBRD4阻害薬が放射線と併用することで生存期間が延長することを示した。H3K27acを認識するreaderであるブロモドメインの阻害は、DMGの活性化したH3K27ac標的療法となっており、Radiosensitizerとして今後の治療法開発に繋がる可能性がある。
受賞者のコメント
このような賞をいただけて非常に光栄です。UJAの関係者の皆様にも感謝を申し上げます。
審査員コメント
牛島 健太郎先生
本研究は、予後が極めて不良である Diffuse midline glioma (DMG) H3K27変異に対する効果的な治療戦略を開拓したものであり、臨床薬理学的に大変意義のあるものです。特に、疾患メカニズムに基づいた新規radiosensitizerの創出に成功していることは、その治療効果の高さを裏付けるものであり、本研究成果の臨床実装を強く期待します。
渡辺 和志先生
予後不良なDEGに対する放射線感受性を高める新たな治療法の候補として、BETブロモドメイン阻害剤を特定し、DMG治療における放射線療法との併用の可能性を示した研究論文です。DMGの治療戦略における進展が見込まれ、本疾患への貢献度が高いこと、Drug screeningを用いた薬剤同定およびBRD4を介した放射線感受性改善メカニズムを明確にしていること、前臨床モデルでの検証まで行われ、学術的価値が高いこと、さらには臨床応用の可能性も示唆されることから、将来性の高い研究報告と考えます。放射線感受性を高める治療法に関しては本分野のみならず、他分野への波及効果も期待され、大変魅力的な研究成果だと思います。
小島 敬史先生
本論文は、H3K27M変異を伴うDiffuse midline glioma(DMG)の治療において、BET阻害剤と放射線治療の併用が新たな戦略となる可能性を示した重要な研究です。エピジェネティック制御を介したDNA修復阻害や免疫微小環境の再構築、腫瘍成長抑制という多角的な効果が統合的に示され、治療効果のメカニズムを分子レベルで明確に解明しています。これにより、BET阻害剤が放射線治療を補完するだけでなく、DMG治療の新たな中心的戦略として期待されることを強調しています。
本研究は、治療効果を定量的に示す堅固な基盤を提供するとともに、臨床試験への移行を見据えた設計がなされており、社会的にも大きな意義を持ちえます。特に、非常に予後が悪いDMG患者における生存期間延長や生活の質向上へ寄与する可能性があります。今後の臨床応用では、免疫チェックポイント阻害剤との併用やパーソナライズド治療への展開が考えられ、難治性悪性疾患の新規治療法としてさらなる研究が期待されます。
青井 勇樹先生
小児脳腫瘍DMGに対する治療戦略としてエピジェネティックタンパク質BETの阻害薬を用いた薬物療法と放射線治療の併用が効果的であることを示した論文。DMGのマウスモデルでその治療効果を実証した点は特筆すべきである。DMG培養細胞において、放射線照射により生じたDNA損傷を修復する役割を果たす遺伝子群の発現が、BET阻害剤により抑制された。研究結果は、BET阻害剤がこの遺伝子調節の仕組みを介して放射線治療の効果を増大させることを示唆する。外科的処置が困難な小児脳腫瘍に対する新たな治療法として、本研究の将来性を強く感じる。
エピソード
留学途中でラボの移動(ノースウェスタン大学からアラバマ大学)があり、実験ができない時間や家族含めて再セットアップは辛かったが、ラボの立ち上げ、二つの大学での研究と二つの都市での生活を経験できたのは振り返ると自分にとっては貴重な時間でした。
1)研究者を目指したきっかけ
脳神経外科医として働く中で、救えない小児脳腫瘍の患者さんに多く出会ったため。
2)現在の専門分野に進んだ理由
脳のきれいな構造に感動したため。
3)この研究の将来性 現在では難治性疾患である小児脳腫瘍のメカニズムの理解、最終的には予後を改善する可能性がある。
4)スポンサーへのメッセージがあればお願いします
このような貴重な機会を頂けたことに感謝を申し上げます。
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