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[論文賞]渡邊達也/ネイションワイド子供病院

Tatsuya Watanabe, M.D., Ph.D.

[分野:Team Wada]


論文リンク


論文タイトル

Tissue engineered vascular grafts are resistant to the formation of dystrophic calcification


掲載雑誌名

Nature Communications


論文内容

本研究では、組織工学的血管グラフト(Tissue-Engineered Vascular Grafts, TEVG)が、従来のPTFEグラフトと比較して優れた生体適合性と耐久性を有することを示した。先天性心疾患患者を対象としたFontan手術で臨床試験として使用されている我々のTEVGは、PTFEグラフトと比べて長期にわたり石灰化を抑制し、伸縮性(Compliance/Distensibility)に優れることが確認された。これにより、血行動態が向上し、術後の合併症リスクが軽減される可能性が示唆された。 

PTFEグラフトは心臓血管領域において広く使用される血管グラフトであるが、依然として石灰化、狭窄、血栓症などの問題点がある。また、小児心臓外科領域で使用される場合においては、成長性の欠如を補うために、サイズの合わないPTFEグラフトを使用することで、サイズ不適合やコンプライアンス不適合よる血行動態の乱れから、早期血栓症、内膜肥厚、運動機能低下などが問題となっている。

本研究では、臨床データと慢性期大動物モデル(術後5-7年)を用いて、PTFEグラフトが早期に進行性の異栄養性石灰化を示すのに対し、TEVGは優れた石灰化耐性をもち、長期間石灰化を生じないことが示された。また、大動物実験において、TEVGがPTFEグラフトに比べて顕著に高い伸縮性を持つことが示され、これがComputational Fluid Dynamics Simulationでの血行動態改善に寄与することが明らかになった。具体的には、TEVGによるコンプライアンス不適合の改善により、壁面剪断応力(Wall Shear Stress)が安定し、圧力損失や流れの逆流が大幅に抑えられることが確認された。

以上の結果から、特に小児や先天性心疾患患者において有望な代替材料となり得ると結論付けられた。本研究は、TEVGがPTFEグラフトの重要な代替手段であり、先天性心疾患手術の長期成績を改善させる可能性を示唆している。



受賞者のコメント

この度は名誉な賞を受賞させていただき誠に光栄に思います。

今回の受賞論文は、研究室で開発した組織工学グラフトの長期成績を評価したもので、大動物実験と臨床試験の結果を組み合わせたものになっています。臨床試験を含めると10年以上の評価が行われており、研究に携わってきた数多くの方々がいる中で、このタイミングで研究に参加させていただけたのは非常に幸運なことだったと思います。

今回の受賞を糧に今後とも研究に励み、最終的には独立した研究者となれるように努力していきたいと思います。

審査員コメント


太田 壮美先生

Tissue enginerred vascular graft (TEVG) のin vivo試験の結果を示す論文である。TEVGは生体内において従来の汎用素材と異なり長期における石灰化の著明な減弱を示している。長期使用による石灰化は小児心臓外科における最も重大な臨床上の課題であり、本研究はその抜本的な解決の糸口を示す重要な研究であると考える。特に臨床試験のデータも含まれていることも素晴らしい点であり、本研究の将来性を十分に示している。


北原 大翔先生

小児心臓外科領域において重要な課題である血管グラフトの石灰化を抑制する新たなアプローチを提案しています。臨床データと動物モデルを用いた検証により、ティッシュエンジニアリングを活用した血管グラフトの有用性が明確に示されており、先天性心疾患の治療への応用が期待される。


林 秀憲先生

TEVGが石灰化耐性があるという論理的な根拠はTEVGの今後の臨床応用に大きな意味を持つ。

大動物を5-7年間という長期間にわたりフォローアップし長期の結果を得ている点が素晴らしい。

Von Kossa染色やカルシウムを定量化している工夫が評価できる。

臨床試験、動物モデル、計算流体力学のシミュレーションを組み合わせた包括的な研究デザインがとても優れている。


受賞者エピソード

1)研究者を目指したきっかけ

臨床医として仕事をしている中で、原因がよくわからないが患者さんの状態が悪くなった、あるいは状態の悪くなった原因は分かったが治療法が確立されていないという経験をする中で、原因の解明と治療法の研究を行いたいと考えるようになりました。


2)現在の専門分野に進んだ理由

どの外科分野にするかを悩んでいた際に、心臓外科の手術に一番惹かれました。


3)この研究の将来性

先天性心疾患を持つ子ども、または若くして心臓病の手術が必要となった患者さんは生涯にわたって複数回の手術を受けないといけないことが一般的です。組織工学医療分野はその手術回数を1回のみに減らすことができる可能性があります。


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