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[論文賞]溜 雅人/マウントサイナイ医科大学

Masato Tamari, M.D., Ph.D.
[分野:免疫アレルギー]
(末梢感覚神経のJAK1による喘息様気道炎症制御機構の解明)
Cell, 1/4/2024(予定)

概要
一般的にアレルギー疾患の病態形成には、活性化した免疫細胞から放出されるインターロイキン(IL)-4/13などのサイトカインが関与することが知られている。これらのサイトカインが機能を発揮する際には、個々の受容体の下流に位置するJanus Kinase 1 (JAK1)が中心的な役割を担う。実際に、JAK1の機能獲得変異(JAK1 gain-of-function: GOF)を有する患者では、生後早期から重症のアレルギー疾患を患うことが報告されている。本論文では、JAK1のアレルギー疾患への影響を評価するために、既知のJAK1 GOF遺伝子変異(p.A634D)をマウスのJak1と置き換えたマウス(JAK1 GOFマウス)を作成した。アレルギー様炎症の自然発症の有無を観察したところ、皮膚ではアトピー性皮膚炎様の皮膚炎が生後早期から自然発症したのに対して、肺では炎症を認めなかった。そこで、非免疫系の細胞におけるJAK1の影響を評価するために、JAK1 GOFマウスに野生型マウスの骨髄を移植し、真菌抗原を用いた喘息様気道炎症を誘導したところ、対照マウスに比べてアレルギー炎症が軽度にとどまることを見出した。この結果から、末梢神経を含めた非免疫系細胞のJAK1 GOFが肺のアレルギー炎症を抑制しているという仮説を立てた。末梢感覚神経でJAK1を欠損したマウスを作成して喘息様気道炎症を誘導したところ、対照マウスよりもアレルギー炎症が増悪することを見出した。また、アデノ随伴ウイルスや遺伝子改変マウスを用いてJAK1 GOFを末梢感覚神経に移入したところ、対照的に喘息様気道炎症が抑制されることを認めた。これにより、肺を支配する末梢感覚神経におけるJAK1がアレルギー性肺炎症を抑制することを明らかにした。
さらに、アデノ随伴ウイルスを用いて、肺を支配する末梢感覚神経を逆行性に標識した所、迷走神経節由来の神経が主要な起源であることを見出した。迷走神経節を用いて、免疫細胞の活動を制御する可能性がある神経ペプチドの遺伝子発現レベルを探索したところ、CGRPbがJAK1によって促進的に制御されていることが分かった。また、CGRPbはマウス肺由来の2型自然リンパ球(ILC2)の働きを抑制することをin vitroとin vivoの双方で確認した。これらの結果から、迷走神経節由来の末梢感覚神経において、JAK1シグナルがCGRPbの産生を制御し、喘息様気道炎症を軽減させることを見出した。本論文は、末梢感覚神経のJAK1シグナルが臓器特異的に炎症を制御していることを明らかにした。このことは将来的にJAK標的治療が臓器や疾患特異的に発展していく可能性を提示している。

受賞者のコメント
この度は、論文賞を受賞することができて本当に光栄です!この表彰を賜れたことは、これまで自分を指導して育ててくださった国内外の上司や先輩の皆様、また苦楽を共にして支えあった同僚・同志の皆様のお陰であると感じております。そして、海外生活を充実し有意義なものにしてくれた妻と子どもたちに心から感謝を申し上げます。このような名誉な賞をいただけたことを励みにして、少しでも免疫・アレルギーの研究と患者様の快適な生活の実現に貢献できるように精進して参ります!

審査員のコメント
後藤 義幸 先生:
本論文は、JAK1のgain of function (GOF) 突然変異に着目し、様々な免疫、神経細胞解析技術やマウスモデルを駆使して、肺における炎症病態制御機構を解析しています。特に、神経細胞におけるJAK1の活性化が神経ペプチドの発現を誘導し、2型自然リンパ球を介したアレルギー応答を負に制御していることを明らかにしました。さらに、ウイルスベクターを用いてJAK1 GOF変異を神経細胞特異的に導入することで、肺における炎症病態を制御することに成功しており、新たな治療法の開発に繋がる重要な研究です。

神尾 敬子 先生:
マウスモデルを用いて、type 2サイトカイン受容体の下流にある、末梢感覚神経のJAK1シグナルがCGRPbの産生を制御し、臓器特異的にアレルギー性炎症を制御することを詳細に検討しています。Type 2サイトカインをターゲットとした生物学的製剤が、なぜ多臓器のアレルギー疾患に均一の効果を示さないのかを説明する一因を示しており、興味深く読ませていただきました。

小野寺 淳 先生:
近年inhibitorの臨床応用で注目されているJAKに関連するホットな論文です。JAK1のGOFの患者さんの情報からマウスモデルを作製し、アトピー様の皮膚炎が起こることを見出すとともに、肺での炎症は起こらないことに気づいた。ここから、VGでのJAK1の役割ーCGRPbを介する免疫反応の抑制ーの解析に舵を切った発想の転換は見事です。JAK1阻害剤はADには有効だが、喘息に対する効果はあまりないことも含めて考察している点は、著者の臨床医としての思考力の高さを物語っていると感じました。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
アレルギーの勉強会の懇親会でお会いした先生(後の大学院の上司)が本当に楽しそうに研究のことをお話されているのを見て研究に興味がわいたのが始まりです。また、その先生のお考えや話し方がとても論理的で分かりやすく、私自身その先生のように臨床と研究を遂行できる修練を積みたいと思ったことが研究を志したきっかけです。

2)現在の専門分野に進んだ理由
アレルギーを専門にしたきっかけは、家族が重度のアレルギー疾患を患っていて、慢性的に苦しんでいるようすを近くでみていたことから、少しでもその家族や同じような苦しみを抱えている方の生活の改善に貢献したいと思ったのが理由です。留学では末梢感覚神経による免疫の制御について研究していましたが、この研究を志したのは、米国での上司となったBrian Kim先生の論文を読んだときに今まで考えたことのない内容であることに加えて、文章がすごくわかりやすかったことに衝撃を受け、この先生のもとで研究を学びたいと思ったことがきっかけです。

3)この研究の将来性
これまでのアレルギー治療は、主に免疫細胞の働きを抑えるという方法が主体でした。一方で、本研究がきっかけとなり、今後は免疫細胞の働きを制御する感覚神経を治療標的にしたり、免疫細胞と感覚神経を個別に標的にした創薬が推進されることに繋がりますと幸いです。

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