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執筆者の写真cheironinitiative

[論文賞] 田村光 /Purdue University

Hikaru, Tamura Ph.D.

冷却単一原子アレーからの集団放射

Phase Matching in Lower Dimensions

Physical Review Letters

2020年10月


 近年, 様々な物理系を用いて量子計算を行う研究が世界各国で行われている. その中でも, 光ピンセットにより並べられた冷却中性原子系は, 個々の原子の制御性を保持したまま大規模な量子計算機を実現する可能性を持つとして期待されている. 将来, このような量子計算機のネットワークを構築するためには, 計算機間のフォトニック接続が必要となる. 本論文では, その先駆けの研究として, 位相整合した光を集団放出する”フェーズド原子アレー”を実証した.

 位相整合放射とは, 第二高調波やフォトンエコーなどの非線形光学や量子光学で重要な役割をする物理現象であり、媒質中の任意の二つの原子から放出される光の位相差が0となる方向に現れる. 例えば, 原子配置が乱雑な媒質からの位相整合放射は, 通常単一方向に制限され, その方向は入射場の方向によって定められる. 我々は, 約百μKまで冷却された単一原子を一次元・二次元状に並べた”冷却単一原子アレー”を用いて, 光の散乱特性の調査を行った. このような低次元系では位相整合条件が大きく異なり, 原子位置によって光の放射方向を制御可能な反射型位相整合が存在することを見出した.

 本論文では, まず, 反射型位相整合放射の実験的観測のため, 残留原子温度によるディフェージングを抑えた位相整合配置の提案し, 実際に原子配置を制御することで位相整合した光を単一モードファイバーに結合することに成功した. アレー内の原子数を1個ずつ増やしていくと, 放射強度が原子数の二乗に比例して増加する集団増強効果の観測にも成功し, これは観測した光が反射型位相整合を満たしていることを裏付ける結果である. 次に, 反射型位相整合条件を満たした二つの原子アレーに拡張し, 二つのアレーからの光を同一の単一モードファイバーに結合した. この場合, 同一アレー内の二原子から放出される光の位相差は常に0となるが、異なるアレー内の二原子から放出される光の位相差はアレー間の距離によって制御される. 結果として, 二つのアレーからの光を高い可視度で干渉させることに成功した.

 本論文で実証した”個別制御可能な原子アレーからの集団放射”及び”二つの離れた原子アレーから放射される光の高可視度干渉”は, (1) 原子集団状態の光子へのマッピング, (2) 離れた原子アレー間のエンタングルメント生成に応用が可能であり, 原子アレーをノードとした量子ネットワークに向けた第一歩となる.


受賞者のコメント:

この度は論文賞をいただき大変嬉しく思います。賞について教えて下さった古屋圭一朗さんをはじめ、審査等を行っていただいた先生方に感謝申し上げます。この受賞を励みにより一層精進して参ります。


審査員のコメント:

本論文は、近い将来に量子ネットワークを実現する上での重要性が明快に記述されており、またその実証研究として二つのアレーからの干渉を確認していることからも、新規性や発展性および波及効果の側面から非常に重要性の高い研究となっています。(藤井先生)


This is an important finding because real devices almost always suffer from this type of disorder. Although speculative, the authors emphasize this work’s technological relevance in realizing coherent atom-to-photon signal transfer in future quantum networks.(竹井先生)


著者らは、熱雑音をできるだけ排除した冷却中性原子を用いた低次元原子配列によるブラッグ反射から光子の位相整合放射が得られることを実験的に証明するとともに、その結果がモンテカルロ法を用いた理論計算と整合的であることを明らかにした。これは将来的に制御可能な量子計算ネットワークを実現するうえで重要となる結果である。(本橋先生)

エピソード: 本研究での実験構成や成果は、実験開始当初に予想していたもの以上となりました。これも毎日のミィーティングや、夜遅くまで実験を共に行っていた共著者の苦労があったからだと思います。渡米してから結果が出るまで不安な気持ちではあったため、実験結果が見えた時には非常に嬉しかったのを覚えています。実験結果を得てからも予想外の結果を説明するモデルの構築や論文の執筆に興奮しながら取り組んでいたのは今となっては良い思い出です。 高校生からの質問: 1)研究者を目指したきっかけを教えてください  学生時の指導教員の影響。様々な実験装置を自分で作ってしまう姿や複雑な現象をわかりやすく説明する姿には圧巻されました。 2)現在の専門分野に進んだ理由を教えてください  自分自身で実験装置を組み立て、発想次第で様々な研究分野に応用できるため 3)この研究が将来、どんなことに役に立つ可能性があるのかを教えてください。  量子コンピューティングやシミュレーション、量子通信など

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