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[論文賞]笠原 和之/南洋理工大学

Kazuyuki Kasahara, M.D., Ph.D.
[分野:免疫アレルギー]
(プリン体を代謝し尿酸値を制御する腸内細菌の発見)
Cell Host & Microbe

概要
この研究は、腸内細菌が尿酸を含むプリン体を分解し、宿主における尿酸の血中濃度を制御することで、動脈硬化および痛風などの疾患リスクに影響を与えることを明らかにしました。
動脈硬化は血管内にコレステロールが蓄積することによる疾患で、慢性炎症がその進行に関与しています。腸内細菌叢と動脈硬化の関連が報告されており、腸内細菌が健康に与える影響が注目されています。
プリン体はビールやレバー類といった食べ物に多く含まれており、尿酸値が高くなると痛風のリスクとなることが知られており、心血管系疾患との関連も示唆されています。尿酸はその約2/3が尿中に排泄されますが、残りの1/3は腸管からも排泄されます。今回の研究では、腸管内に排泄された尿酸などのプリン体が腸内細菌により分解され排泄量が制御されることで、腸内細菌が血中尿酸濃度を制御することが示されました。
さらに、約100種類の腸内細菌株をスクリーニングした結果、特定の腸内細菌株が尿酸を分解できることが確認され、その責任遺伝子を同定しました。これらの細菌は嫌気性条件下で尿酸分解を行います。無菌マウスの腸内にこれらのプリン体分解菌を移植することで、腸内および血中のプリン体濃度が低下し、尿酸値が制御されることが実験的に証明されました。またヒトにおいても、プリン体分解菌とその責任遺伝子の数が血中尿酸値を負の相関をすることが明らかになりました。
この研究の結果は、腸内細菌とその代謝活動が宿主の健康に与える影響について新たな知見を与えるものであり、腸内細菌を介したアプローチが高尿酸血症や痛風、動脈硬化などの疾患の新規治療法となりうる可能性を示したものです。

受賞者のコメント
この度は、論文賞という栄誉ある賞を授与していただきありがとうございます!!!家族で留学し、マディソンという平和でのどかな土地にも愛着ができて、結果、計7年間も滞在させていただきました。この仕事の成果も評価され、現在はシンガポールのNanyang Technological Universityで研究室を主宰しています。論文を評価してくださった審査員やUJAの運営委員の先生方に御礼申し上げます。

審査員のコメント
後藤 義幸 先生:
本論文は、動脈硬化における腸内細菌の重要性を示しています。腸管内および血中におけるプリン塩基や尿酸値に着目し、著者らが独自に構築した細菌分離システムやノトバイオートマウス、RNAseq解析を通じて、動脈硬化に寄与する腸内細菌や腸内細菌遺伝子をin vivo、in vitroにおいて同定しました。腸管内におけるプリン塩基や尿酸、腸内細菌をターゲットとした、動脈硬化に対する新たな予防・治療法の開発に繋がる重要な研究です。

倉島 洋介 先生:
約100種類の腸内細菌株をスクリーニングした結果、特定の腸内細菌株が尿酸を分解できることを明らかにした。腸内細菌が尿酸を含むプリン体を分解し、動脈硬化および痛風などの疾患リスクになる尿酸の血中濃度を制御するという新しい発見である。プリン体分解菌を同定し、さらに責任遺伝子群を明らかにしており、緻密な実験構成がなされている。マイクロバイオーム創薬が新たな治療方策として期待でき、更なるトランスレーショナルリサーチが期待される。

足立 剛也 先生:
本研究は、腸内細菌と慢性疾患の一つである痛風との関連を明らかにした画期的な成果である。腸管を通じて排泄されるその他の物質にも広く応用可能な内容と高く評価される。

エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
正直、若い頃に研究者を目指した訳ではありませんでした。医師を志し、初期研修医、専攻医のトレーニングを経た後、比較的一般的なキャリアとしてあまり深く考えずに大学院に進学しました。大学院時代から研究を開始してその面白さに魅了され、研究者になりました。

2)現在の専門分野に進んだ理由
最初に私は内科医の中でも循環器内科を専門とする医師になりました。数多ある診療科の中でも病状の変化がダイナミックであり、かつ治療の選択肢も多彩であることが魅力的に感じました。その後に研究の道に進んだので、自分の専門と関係が深い心血管疾患の新規治療法の開発ができないかと模索しております。その中でも、腸内に生息している細菌群(腸内細菌叢)がどのように健康や疾患に影響を与えるかに興味を持っています。

3)この研究の将来性
尿酸代謝が関わる疾患として痛風、高尿酸血症が有名です。尿酸値を下げる治療法として、尿酸の生合成を抑える薬剤や尿中からの尿酸排泄を促進させる薬剤が用いられています。今回の研究が発展すれば、将来、腸内細菌を標的として尿酸値を下げる新たな治療法が生まれるかもしれません。

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