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[論文賞]繼敏光/ブリュッセル自由大学

更新日:2023年5月4日

Toshimitsu Tsugu, M.D., Ph.D.

[分野:ベルギードイツ]
(血管分岐角度が心筋血流予備量比CT (FFRCT) に与える影響)
European Radiology, 17 September 2022

概要
虚血性心疾患は冠動脈の狭窄・閉塞による心筋への灌流低下により心筋障害が起こる循環器難病である。従来、虚血性心疾患に対する血行再建の適応決定は冠動脈造影検査による形態学的な冠動脈狭窄の評価が重要であると考えられてきたが、近年冠動脈狭窄に対する血行再建の適応決定は解剖学的評価だけではなく、機能的評価が極めて重要であることが明らかになった。心筋血流予備量比CT (FFRCT) は、冠動脈の解剖学的・機能的な評価を一元的に行うことができる画期的な非侵襲的診断法である。しかし、診断精度が低い病態が存在するため、広く普及しているとはいえない。
診断精度に影響を与える要因の一つに、冠動脈内に発生する乱流渦によるエネルギー動態の変化が挙げられる。乱流渦は運動エネルギーや熱エネルギーの消費を促進し、エネルギー損失を引き起こす。さらに、乱流渦による血管内皮細胞への障害や、プラーク成分の沈着による酸化ストレス・炎症の惹起による血管内皮細胞への障害は血管拡張能の低下をきたす。FFRCTは薬剤を用いて血管を拡張させ、狭窄病変前後の圧較差を計測する手法である。不十分に拡張した血管では、圧較差が生じず、診断精度の低下につながる。
申請者はこれまで、FFRCTの診断精度に影響を与える多数の因子 (血管長・血管容量・プラーク成分・左室心筋重量・狭窄部位の形態・側副血行路など) の存在を明らかにしてきた。今回、これまで明らかにしてきたFFRCTに影響を与える因子のほかに、血管分岐によって生じる乱流渦もFFRCTへ影響を与えるのではないかと考えた。そこで、FFRCTに影響を与える既知の因子がない正常に近い冠動脈を持つ患者を対象として、分岐角度の違いによるFFRCTの変化を検討した。解剖学的に、左冠動脈は主幹部 (LMT) から左冠動脈前下行枝 (LAD) と左冠動脈回旋枝 (LCX) に分岐している。LADとLCXによって構成される分岐角度を3D構築したCT画像上で計測し、FFRCT動態との関連を検討した。FFRCTの変化は、LAD・LCX成分ともに分岐角度に依存していた。つまり、冠動脈狭窄を有さない正常血管であるにも関わらず、分岐角度が大きくなるほど、乱流渦によるエネルギー損失が大きくなり、FFRCTの低下が起こっていた。さらに、虚血の判定基準であるFFRCT < 0.80を精度よく予測する分岐角度のカットオフ値を同定できた。
本研究の知見をFFRCT解析に応用し、診断精度を向上させることは非常に意義深い。虚血性心疾患の標準的診断法である冠動脈造影検査は侵襲的であり、重篤な合併症を起こしうる。高い診断精度を有したFFRCT解析は、冠動脈造影検査の代替検査となりうる。FFRCT解析を導入することにより、不適切な冠動脈形成術を回避することができれば、医療合併症の軽減につながる。さらに、外来で検査可能なFFRCT解析の導入は、大幅な医療費の削減に寄与することができる。

受賞者のコメント
この度は、栄えあるUJA論文賞に選出していただきありがとうございます。著者一同大変感謝しております。審査にあたられた先生方をはじめ、プログラム運営に携わったすべての皆様には心より御礼申し上げます。

審査員のコメント
玉城貴啓 先生:
虚血性心疾患の非侵襲的評価法につながる、学際的な研究論文ですある。今後、エネルギー動態の変化を模擬血管を用いて、解析することにより、FFRCTの病態生理および診断精度の向上に寄与することが期待される。冠動脈造影検査を施行せずに、虚血心疾患を評価することは、医療費の削減だけでなく、被験者の安全性の向上にもつながる。

大久保正明 先生:
虚血性心疾患を非侵襲的に評価することができるmodalityはいくつか存在するが、いづれも一長一短である。申請者はFFRCTの問題点である診断精度の低さを解決することを目的としている。FFRの病態解明に一石を投じる重要な論文である。

エピソード
ベルギーはフランス語、オランダ語、ドイツ語が公用語です。ベルギー内でLiege(フランス)語圏からBrussels(オランダ語圏)の病院に異動しました。多言語に苦労しています。

1)研究者を目指したきっかけ
自分が研究者かどうかは微妙です。

2)現在の専門分野に進んだ理由
循環器学は、治療介入により血行動態がダイナミックに変化するので、興味深いと感じました。

3)この研究の将来性
冠動脈は心臓に血液を供給する重要な血管の一つです。冠動脈疾患は冠動脈にコレステロールや血栓が沈着することによって、狭窄・閉塞を起こし、心臓を灌流する血流が低下してしまい、心機能の低下を起こす重篤な疾患です。従来、冠動脈の評価は経皮的冠動脈造影検査といって、鼠径部や上腕の動脈に針を刺して、カテーテルという細い管を冠動脈の近くまで持っていき、そこから造影剤を注入して、冠動脈狭窄の程度を評価します。高度な狭窄病変では、血流が阻害され心筋組織に血液が十分に供給されない状態(心筋虚血)になっています。しかし、中等度の冠動脈狭窄では、どの程度心筋虚血が起こっているか判断できない場合があります。そのような病変に心筋血流予備量比(Fractional Flow Reserve;FFR)を施行することで心筋虚血の有無を評価することができます。冠動脈造影検査やFFRは侵襲的であり、検査に伴う合併症が生じてしまうことが問題でした。近年、CTで冠動脈狭窄の程度やFFR(FFRCT)を非侵襲的に評価することが可能になりました。しかし、FFRCTは、スーパーコンピューターを用いた仮想空間での血流シミュレーションによりFFR値を算出するので、様々な因子の影響を受け、診断精度が低い病態が存在するため、広く普及しているとはいえません。
われわれはこれまで、FFRCTの診断精度に影響を与える多数の因子 (血管長・血管容量・プラーク成分・左室心筋重量・狭窄部位の形態・側副血行路など) の存在を明らかにしてきました。今回、これまで明らかにしてきたFFRCTに影響を与える因子のほかに、血管分岐によって生じる乱流渦もFFRCTへ影響を与えるのではないかと考えました。乱流渦は運動エネルギーや熱エネルギーの消費を促進し、エネルギー損失を引き起こします。そこで、FFRCTに影響を与える既知の因子がない正常に近い冠動脈を持つ患者を対象として、分岐角度の違いによるFFRCTの変化を検討しました。分岐角度が大きくなるほど、乱流渦によるエネルギー損失が大きくなり、FFRCTの低下が起こっていました。
本研究の知見をFFRCT解析に応用し、診断精度を向上させることにより、FFRCTが冠動脈造影検査の代替検査になることができれば、不適切な冠動脈検査・形成術を回避することができれば、医療合併症の軽減につながります。さらに、外来で検査可能なFFRCT解析の導入は、大幅な医療費の削減に寄与できます。
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