[論文賞]繼敏光/ブリュッセル自由大学
- Tatsu Kono
- 4月13日
- 読了時間: 4分
Toshimitsu Tsugu, M.D., Ph.D.
[分野:ベルギー・ドイツ]
論文リンク
論文タイトル
Impact of vessel morphology on CT‑derived fractional‑flow‑reserve in non‑obstructive coronary artery disease in right coronary artery
掲載雑誌名
European Radiology
論文内容
虚血性心疾患は冠動脈の狭窄・閉塞による心筋への灌流低下により心筋障害が起こる循環器難病である。従来、虚血性心疾患に対する血行再建の適応決定は冠動脈造影検査による形態学的な冠動脈狭窄の評価が行われていきたが、形態学的評価だけではなく、機能的評価が重要であることが明らかになった。心筋血流予備量比CT (FFRCT) は、冠動脈の形態学的・機能的な評価を一元的に行うことができる唯一の診断法である。近年、機械学習を行うことによりFFRCTの診断精度は向上しているが、診断精度の低い病態が残存する。 FFRCTの診断精度に影響を与える要因の一つに、冠動脈内で発生するエネルギー動態の変化が挙げられる。冠動脈末梢側では運動エネルギーが熱エネルギーに変換されるため、エネルギー損失が発生し、生理的なFFRCTの低下が起こる。つまり、正常な冠動脈においても、血管長に依存して、生理的なFFRCTの低下が起こる。申請者はこれまで、FFRCTの診断精度に影響を与える多数の因子 (血管長・血管容量・血管分岐角度・プラーク成分・左室心筋重量・狭窄部位の形態・側副血行路など) の存在を明らかにしてきた。今回、これらの因子のほかに、血管径や血管内容積などの血管の太さの因子もFFRCTへ影響を与えるのではないかと考えた。そこで、有意狭窄がない正常に近い冠動脈を持つ患者を対象として、FFRCTの変化を検討した。 生理的なFFRCTの低下は血管長だけでなく、血管径や血管内容積にも依存していた。つまり、冠動脈狭窄を有さない正常血管であるにも関わらず、血管径や血管内容積が小さな細い血管では、乱流渦によるエネルギー損失が起こり、FFRCTの低下が起こった可能性がある。さらに、虚血の判定基準であるFFRCT < 0.80を予測するカットオフ値を同定できた。本研究の知見をFFRCT解析のアルゴリズムに組み入れれば、診断精度の向上に寄与することが出来る可能性がある。
受賞者のコメント
この度は、栄えあるUJA論文賞に選出していただきありがとうございます。共著者一同大変感謝しております。審査にあたられた先生方をはじめ、プログラム運営に携わったすべての皆様には心より御礼申し上げます。
審査員コメント
須藤 晃正先生
虚血性疾患において、冠動脈CT検査などの低侵襲検査の需要は近年急速に高まっており、心筋虚血を非侵襲的に評価できるFFRCTは有用な検査として注目されている。本研究では、右冠動脈においてV/Lが低い症例では、FFRCT値が過小評価される可能性が示唆された。従来、有意狭窄のない冠動脈では、侵襲度の高いFFRは実施されない。そのため、本研究は低侵襲である冠動脈CT検査ならではの研究であり、冠動脈の形態がFFRCT値に影響を及ぼす可能性を考慮する必要性を示した点で価値がある。今後、左冠動脈においても同様の結果が得られるか、さらに、中等度狭窄病変を有する冠動脈においてV/Lの低値がFFR値に影響を与えるかについての検討が進むことが期待される。
大久保 正明先生
FFR値は運動エネルギーが消費されるため、末梢病変に行くに従って低下することは知られている。これまで、FFR値は血管長に依存すると考えられていた。申請者らが報告したV/L比は血管の太さを表す新たな指標である。V/L比は血管長よりもFFR値に与える影響は大きいことを初めて報告した。従来の血管長だけでなく、V/L比を考慮することにより、FFRCTの診断精度の上昇につながる可能性を感じた。
受賞者エピソード
1)研究者を目指したきっかけ
臨床を行っている際に疑問を感じることがありました。教科書や論文を調べても、自分の疑問に関する回答は記載されていないこともあります。そのような自らが感じた疑問の機序を少しでも解明したいと思い、研究を始めました。
2)現在の専門分野に進んだ理由
循環器画像診断は、心機能や血管形態を定量化することにより、情報を共有化できる可能性があり、魅力を感じました。
3)この研究の将来性
循環器内科といえば、経皮的冠動脈カテーテルを使った、検査及び治療が王道だと思います。心臓CTを経皮的冠動脈カテーテル治療の術前に併用することにより、不要な治療を避け、本当に治療が必要な病変を検出することができ可能性があります。医療費の削減だけでなく、生命予後を改善できる可能性があります。
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