Aki IIO-OGAWA4月8日読了時間: 4分[論文賞]菊池 寛昭/東京医科歯科大学Hiroaki Kikuchi, M.D.,Ph.D.[分野:Tomorrow 1]Signaling Mechanisms in Renal Compensatory Hypertrophy Revealed by Multi-Omics.マルチオミクス解析を用いた腎肥大メカニズムの解明Nature Communications, 16-June-2023概要腎臓はネフロンという機能単位で構成され、ネフロンには少なくとも14種類の尿細管上皮細胞が存在する。腎臓の一部を切除すると、失われた機能を補うために残存腎が大きくなる現象、代償性腎肥大が知られているが、肥大が起こる尿細管の部位や尿細管肥大の機序は明らかになっていなかった。 まず、マウスにおける片側腎摘出に伴う対側腎重量/体重(KW/BW)の変化を術後30日まで経時的に追跡した。代償性腎肥大は術後24時間後において顕著に認め、72時間後には肥大現象が収束傾向に入ることが判明した。14種類の単離した尿細管の形態学的評価を蛍光免疫染色法を用いて行った結果、近位尿細管と皮質集合管において尿細管肥大が顕著に認められ、皮質集合管では細胞増殖が、近位尿細管では細胞肥大が主となる機序であることが明らかとなった。次に代償性細胞肥大の分子学的機序を明らかにするために、片側腎摘出術後に単離した近位尿細管を用いたRNA-seq、ATAC-seqを施行した。術後24時間の肥大腎において、核内受容体型転写因子であるPPARαの標的遺伝子の発現が上昇し、クロマチンアクセシビリティはPPARαの結合モチーフを中心に有意に上昇していた。またプロテオミクス解析においても、PPARαの標的となるタンパク発現の上昇認めた。GC/MSを用いた脂質プロファイルの検討から、PPARαのリガンドである飽和および不飽和脂肪酸が、代償性肥大腎において、健常腎に比較して有意に多く含有されていることが明らかとなった。最後にPPARαノックアウトマウスでは、近位尿細管肥大が抑制される事を形態学的に明らかにし、PPARαの亢進は腎肥大の原因となる事を明らかにした。 経時的にネフロンが破綻する慢性腎不全においても、残されたネフロンにおいて代償性の尿細管肥大が起こることが知られている。本研究は、代償性腎肥大の病態解明を行ったのみならず、慢性腎不全における尿細管の病態解明にも直結すると考えられる。受賞者のコメントUJA論文賞を受賞させていただき、大変光栄です。2019年夏からNational Institute of Health に留学し、2020年の3月からコロナで実験が完全にストップしてしまい、研究再開の見通しが立たない中、家族、ラボのメンバー、NIHで研究されている方々、DCバスケットボールの皆様、ミシガンやセントルイスの先生方など、いろいろな方々に支えて頂き、研究を完遂させることが出来ました。結果として本賞を頂けました事、大変嬉しく存じます。この場をおかりして、御礼申し上げます。審査員のコメント前田 豊 先生:代償性腎肥大のメカニズムをmulti-omicの手法を用いて、PPARalphaの関わりを推定し、最後の図でin vivoの機能解析を行なった素晴らしい論文と思います。臨床応用が楽しみです。丹野 修宏 先生:本論文にて、尿細管を単離してマルチオミクス解析を行う手法を確立され、この手法が今後多くの腎疾患に転用できること、またdiscussionに記載されていますが、オミクス解析のデータから片腎となった際の腎肥大の機序についても推察されており、医学的にも基礎生物学的にも今後の発展につながる重要で興味深い研究であると考えます。児島 克明 先生:この研究では代償性腎肥大の機序を明らかにするために、マウスに片側腎摘出を行い、その後RNA-seq、ATAC-sequ、プロテオミクス解析を行い、核内受容体型転写因子PPARαとその標的遺伝子の表現の上昇が代償性腎肥大において重要な役割を果たしていることを示した。さらに、PPARαノックアウトマウスを用いた実験により、PPARαが欠損している場合、近位尿細管の肥大が抑制されることが示された。これは、PPARαが代償性腎肥大の原因となるメカニズムにおいて中心的な役割を果たしていることを強く示唆する。この因果関係の解明は、代償性腎肥大の分子機序を理解する上で非常に重要であり、将来的にはこのメカニズムを標的とした治療法の開発につながる可能性がある。また、PPARαとその標的遺伝子の関係を明らかにすることで、腎臓疾患の治療法の選択肢を広げることにも寄与すると考えられる。エピソード1)研究者を目指したきっかけ腎疾患の新しい治療法を見つけたいと思って医師を志し、研究も始めました。2)現在の専門分野に進んだ理由臨床経験を積んで、腎疾患の治療に一石を投じたいと感じたからです。3)この研究の将来性腎臓は拳大の臓器で、尿を生成し、毒素や水分を排出する機能を持ちますが、、いくつもの細胞の種類で構成されており、その構造はとても複雑といわれています。腎機能が破綻してしまいますと、透析が必要となり、多くの方が苦しんでおられます。透析にならないためにはどうしたらよいのか、というのが私の研究者としての原点です。私の研究は、腎臓の中でも、特に尿細管という、腎機能をつかさどる部分に着目して、そこで生ずる沢山の原因を細かく解析する事で、ヒントを見つけることがないか、探しました。
Hiroaki Kikuchi, M.D.,Ph.D.[分野:Tomorrow 1]Signaling Mechanisms in Renal Compensatory Hypertrophy Revealed by Multi-Omics.マルチオミクス解析を用いた腎肥大メカニズムの解明Nature Communications, 16-June-2023概要腎臓はネフロンという機能単位で構成され、ネフロンには少なくとも14種類の尿細管上皮細胞が存在する。腎臓の一部を切除すると、失われた機能を補うために残存腎が大きくなる現象、代償性腎肥大が知られているが、肥大が起こる尿細管の部位や尿細管肥大の機序は明らかになっていなかった。 まず、マウスにおける片側腎摘出に伴う対側腎重量/体重(KW/BW)の変化を術後30日まで経時的に追跡した。代償性腎肥大は術後24時間後において顕著に認め、72時間後には肥大現象が収束傾向に入ることが判明した。14種類の単離した尿細管の形態学的評価を蛍光免疫染色法を用いて行った結果、近位尿細管と皮質集合管において尿細管肥大が顕著に認められ、皮質集合管では細胞増殖が、近位尿細管では細胞肥大が主となる機序であることが明らかとなった。次に代償性細胞肥大の分子学的機序を明らかにするために、片側腎摘出術後に単離した近位尿細管を用いたRNA-seq、ATAC-seqを施行した。術後24時間の肥大腎において、核内受容体型転写因子であるPPARαの標的遺伝子の発現が上昇し、クロマチンアクセシビリティはPPARαの結合モチーフを中心に有意に上昇していた。またプロテオミクス解析においても、PPARαの標的となるタンパク発現の上昇認めた。GC/MSを用いた脂質プロファイルの検討から、PPARαのリガンドである飽和および不飽和脂肪酸が、代償性肥大腎において、健常腎に比較して有意に多く含有されていることが明らかとなった。最後にPPARαノックアウトマウスでは、近位尿細管肥大が抑制される事を形態学的に明らかにし、PPARαの亢進は腎肥大の原因となる事を明らかにした。 経時的にネフロンが破綻する慢性腎不全においても、残されたネフロンにおいて代償性の尿細管肥大が起こることが知られている。本研究は、代償性腎肥大の病態解明を行ったのみならず、慢性腎不全における尿細管の病態解明にも直結すると考えられる。受賞者のコメントUJA論文賞を受賞させていただき、大変光栄です。2019年夏からNational Institute of Health に留学し、2020年の3月からコロナで実験が完全にストップしてしまい、研究再開の見通しが立たない中、家族、ラボのメンバー、NIHで研究されている方々、DCバスケットボールの皆様、ミシガンやセントルイスの先生方など、いろいろな方々に支えて頂き、研究を完遂させることが出来ました。結果として本賞を頂けました事、大変嬉しく存じます。この場をおかりして、御礼申し上げます。審査員のコメント前田 豊 先生:代償性腎肥大のメカニズムをmulti-omicの手法を用いて、PPARalphaの関わりを推定し、最後の図でin vivoの機能解析を行なった素晴らしい論文と思います。臨床応用が楽しみです。丹野 修宏 先生:本論文にて、尿細管を単離してマルチオミクス解析を行う手法を確立され、この手法が今後多くの腎疾患に転用できること、またdiscussionに記載されていますが、オミクス解析のデータから片腎となった際の腎肥大の機序についても推察されており、医学的にも基礎生物学的にも今後の発展につながる重要で興味深い研究であると考えます。児島 克明 先生:この研究では代償性腎肥大の機序を明らかにするために、マウスに片側腎摘出を行い、その後RNA-seq、ATAC-sequ、プロテオミクス解析を行い、核内受容体型転写因子PPARαとその標的遺伝子の表現の上昇が代償性腎肥大において重要な役割を果たしていることを示した。さらに、PPARαノックアウトマウスを用いた実験により、PPARαが欠損している場合、近位尿細管の肥大が抑制されることが示された。これは、PPARαが代償性腎肥大の原因となるメカニズムにおいて中心的な役割を果たしていることを強く示唆する。この因果関係の解明は、代償性腎肥大の分子機序を理解する上で非常に重要であり、将来的にはこのメカニズムを標的とした治療法の開発につながる可能性がある。また、PPARαとその標的遺伝子の関係を明らかにすることで、腎臓疾患の治療法の選択肢を広げることにも寄与すると考えられる。エピソード1)研究者を目指したきっかけ腎疾患の新しい治療法を見つけたいと思って医師を志し、研究も始めました。2)現在の専門分野に進んだ理由臨床経験を積んで、腎疾患の治療に一石を投じたいと感じたからです。3)この研究の将来性腎臓は拳大の臓器で、尿を生成し、毒素や水分を排出する機能を持ちますが、、いくつもの細胞の種類で構成されており、その構造はとても複雑といわれています。腎機能が破綻してしまいますと、透析が必要となり、多くの方が苦しんでおられます。透析にならないためにはどうしたらよいのか、というのが私の研究者としての原点です。私の研究は、腎臓の中でも、特に尿細管という、腎機能をつかさどる部分に着目して、そこで生ずる沢山の原因を細かく解析する事で、ヒントを見つけることがないか、探しました。
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